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映画感想

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わたしのみた映画たち
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#映画感想

「共犯者たち」:権力とジャーナリズム

2018年12月15日、はじめてポレポレ東中野を訪れた。 みたのは、「共犯者たち」。韓国の国家権力に対するジャーナリストたちの闘いを描いた韓国製のドキュメンタリー映画だ。 前日、堀潤さんのおすすめツイートを見て行くことを決意した。 李明博、朴槿恵政権の言論弾圧の実態を告発するドキュメンタリーで、チェ・スンホ監督自らが当時の関係者たちにインタビューする様子やストの様子が流れる。弾圧の対象となるメディア機関は、韓国の公共放送局KBSと公営放送局MBCだ。 参考:NHKよく

永い言い訳:何のために生きていくのか

スマホですこーしずつみた、永い言い訳。 幸夫と陽一くんが海辺で遊ぶ子どもたちを眺めながら、こんなやり取りをするシーンがある。 幸夫 「守るべきものがあるっていいな」 陽一 「守るべきものがあるって大変だよ」 自分のことで精一杯なわたしは、もうひとり、自分が守らねばならない脆弱な生命が存在するなんて、とても大変なことだろうと思っていた。だけれども、それこそが生きる糧になることもある。 多くの人は、おとなになるにつれて、もう自分の幸せを追求するのに飽きるのか、諦めるのか、

「天然コケコッコー」:ピュアとはこのことだ

田舎の中学生のほんわか恋ものがたり。 夏帆がデビューしたぐらいの頃からずっと好きだったわたしは、ずっと天然コケコッコーを見ようと思いつつ、見ていなかった。やっとのことで見た映画で、夏帆は本当に漫画のヒロインそのもののような可愛さだった。岡田将生くんもかっこいいし、キャストの顔ぶれだけでも甘酸っぱいのでは、と思う。 いちばんキュンとしたのは、修学旅行で夏帆が東京の音に耳を立て、「(東京のことを)少し好きになれそう」と、うれしそうに岡田将生くんの手を繋ぐところ。意気揚々とした

「VICE」:事実は小説より凶悪なり

ウィット溢れるコメディーでありながら、とてつもなく恐ろしい。そんな映画だった。 ジョージ・W・ブッシュ政権時代の副大統領ディック・チェイニーの人生を追いながら、9.11同時多発テロやイラク戦争の裏側を描く。 権力者の思うがままに、権力を乱用する仕組みをつくれてしまう実態を浮き彫りにしていた。 政府、シンクタンク、広告代理店、TV局……彼らが総力をあげて情報操作すればどんなことでもうまくごまかせてしまうし、国民を自由に操れることがよく分かる。 情報密度は濃く、その演出も

「聲の形」:生きることを手伝って欲しい

めまぐるしく感情を揺さぶられる映画だった。 学校生活における人間関係構築があまり得意ではなかったし、反省も多々ある私にとって、心が重くなり、イライラするところもあった。ただ、登場人物それぞれのいろんな意見があって、考えさせられる作品だった。 最後に、将也が硝子に言うセリフがすごい。「生きることを手伝って欲しい」って、うまく言葉にできないけど、すごい言葉だ。 この作品は、小学校の授業で使ってみてほしい。自分の考え方や対人関係について、客観的に考えさせられるとてもよい題材に

「新聞記者」:穿った見方が求められている

観るひとの心にモヤモヤを残す、絶妙なラストシーンだった。 映画「新聞記者」は、国家権力による情報コントロールをひとつのテーマとして描いた作品だ。 32歳の若き監督は、政治や社会情勢に関心が高いわけでもなく、プロデューサーからのオファーを一度は断ったという。そんな藤井監督が、東京新聞の望月衣塑子記者の著書『新聞記者』を原案に、官僚側の視点も盛り込んで脚本をつくりなおしたそうだ。 現実世界の政治ネタを盛り込みつつ、ノンフィクションではなくて、あくまでも、エンターテイメントと

「風をつかまえた少年」:学びが人びとの生活を変える

「ぜんぶが失敗じゃない。ぼくを学校に行かせてくれた」 俺は失敗してばかりだと嘆く父親に向かって、少年ウィリアムはまっすぐな目でこう言う。 学費が支払えず学校を辞めざるをえなかったウィリアムだが、学校の図書館で風力発電のしくみを学び、風車をつくることを思いつく。そうして井戸から水を汲み出すポンプを動かすことで干ばつから村を救う。そんな実話にもとづく映画だ。 冒頭のウィリアムのことばのとおり、本が、教育が、人びとの生活に大きな変化をもたらしていくことを実感できるはなしだった

「天気の子」:一人ひとり、それぞれの見ている世界がある(ネタバレあり)

病院の窓から外をみると、夕立のなか、一棟のビルの屋上だけ光が差していた――。 そんな神秘的なシーンからはじまる「天気の子」。雨がふり続ける“異常気象”の東京を舞台に、祈ることで晴れた空を呼び寄せる女の子(陽菜)と、地方から東京に出てきた少年(帆高)が、自分たちの幸せとはなにかを考える、愛のものがたりだ。 (新海誠監督はラブロマンスじゃなくて、擬似家族をイメージしていたと言っているけれど、私からすると愛のものがたりだった。) 印象に残ったのは、みんなが晴れた東京の空を見上

「愛がなんだ」:愛ってなんだ

純粋に人を愛する女の子の片思い物語ということで、私は主人公に共感するつもりでこの映画をみにいった。 だけど、それほど共感できなかった。 共感できなかった理由は、一見、主人公のテルちゃんがあまりにも自分のことを大事にしていないように思えたからだろう。 私は自分が好きになった人のことはすごく好きだし、とても大事な存在だと思うけど、同時に、自分も大切にしたいと思っている。自分も相手も幸せであることが大事だ。 だから、大事にされていないことが分かっていても、マモちゃんの望みに

「最高の人生の見つけ方」:誰かに喜びを与えたか?

原題は、「The Bucket List」。 “The Bucket List”とは、kick the bucket ; (humorous informal) to die というイディオムからきているそうで、死ぬ前にしておきたいリストのことを指すらしい。 仕事第一で生きてきた大金持ちの病院経営者の男性と、家族を大事に生きてきた自動車整備工の男性ふたりが、死を直前にやりたいことを一緒にやりきるという映画だ。 ありきたりな感じだけど、あたたかい気持ちになって、みんなで号

「岬の兄弟」:生き方

ずーーーんと何かを訴えかけられているような気がするけれど、ある兄妹の日常を無心に描いているだけ、でもある。 主人公で、自閉症の真理子は、言葉で自分の感情を表現することがない。 だからこそ、この映画は無言で、何かを訴えかけてくる迫力があるように思う。 障害、貧困、性風俗を切り口に、人間の幸福、性欲、意思、愛、感情、家族、友情といったものを考えさせられる作品だった。 ちなみに、はじめて吉祥寺のアップリンクでみた。 懐かしの吉祥寺PARCOの地下がパステルカラーの壁のおしゃ

「人魚の眠る家」:生きているってどういうこと?

この映画をみたのはもうだいぶ昔のこと(1月くらい)だけど、終わったあとに頭の中がぐるぐる渦巻くような興味深い作品だった。 もともと自分に何かあったときの選択肢として、臓器移植に関心があったので、小松美彦さんの『脳死・臓器移植の本当の話』という著書を読んでいたところだった。 なので、同僚が臓器移植をテーマにした映画があると教えてくれてすぐに映画館に足を運んだ。 ちなみに、小松さんは「脳死」を人の死と定義することや、臓器移植に対して批判的な立場だ。 本書では、着目されてい

「そして父になる」:遺伝子か時間か

10月5日、池袋の新文芸坐にて、是枝裕和監督の映画特集やっていたので「そして父になる」をみてきました。 よい映画でした。 号泣したときのために端っこに座っておいてよかったです。 子どもの取り違え問題を題材に、親子の関係や人間の人格形成について考えさせられる作品です。 全体を通して、「家族を家族たらしめるのは遺伝子か時間か……」そんな問いが巡っていました。 極端に言えば、自分を満たすためのひとつの道具のように息子をみる父親。息子に対する期待はあっても、そこに息子の存在そ

「未来のミライ」:何億年分もの奇跡

公開前から楽しみにしていた作品。 「時をかける少女」と、細田守監督の描く「空」がすきなので、時かけを連想させるこのポスターを見るだけでワクワクしていました。 公開日の翌日にみにいったのですが、事前のTwitterリサーチで評価が低いことを確認。だいぶ酷評だったのですが、とりあえずみておこうということで、期待値をものすごく下げた状態でみました。これは大事。笑 事前の予想どおり、特段おもしろさがあるわけではないものの、ほのぼのして、最後の空から落ちるシーンで、先祖の歴史に思