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大きな変化を目にする。はじまりの春

窓の外を走る景色に、色が増えた。
緑の隙間から、色がのぞく。

白っぽい桜、黄色のレンギョウ、ピンク色のコブシ……
わたしがすぐに名を言えるだけでもこれだけ。山の木々の足元や林道沿いには、もっと多くの春の花。

「出張がちだから、もう。どこに住んだって同じ。そろそろ海外赴任から奥さんも帰国するから、ふたりでいいとこにすむの!」

大好きな山の入り口にある街に、先輩が家を買った。
友人Iが運転する車に乗せられて、Iの夫Mさんとわたしの3人で、先輩の新居に向かう。

集落の入り口には大きなケヤキの木。足元には祠。みながお参りしているようで、おだんごと榊が刺さっていた。Mさんは、祠を見てほほっと笑う。以前、わたしが山で倒れた時にカップ酒を持って上がったことを思い出したらしい。

木々の間に埋もれるように、先輩の新居はあった。前の持ち主さんは画家で、アトリエとして使っていたという。大正時代に建てられた別荘を改造・増築したレトロな洋館風の建物。

「おっ。よく来たな。きっと、たまが好きな家だと思うよ。全部見て帰っていいからな。俺らがここを離れるときは、お前に譲ってもいいぞ」

いやいや。今日、家に入ったばかりでしょう。これから、奥さんと住むというのに、何故。

あいかわらず先読みばかりな先輩のことばに、軽く頭痛。
それでも、たのしい新居の探検。

ドアなどの建具は古いまま。鈍くつるりと光るノブ。廊下は軽く中央がへこんで、人が行き来した気配を残す。裏手にある窓ガラスは、くしゃっと歪んで外が見えた。これ、昭和の初めころのガラスのままみたい。

それなのに、お風呂は最新式。高級マンションにありそうな、グレーのタイルにかこまれて、ボタンひとつでお湯を張れるお風呂。そのとなりにあるキッチンも、新しかった。お風呂とキッチンだけが、現代のすがた。

使いやすくて、面白そう。ここに住んでみるものいいかも。

キッチンと外をつなぐ、大きな窓のところに草履が置いてあった。外には、山の草花を集めて植えてある花壇があると聞いていた。草履をはいて、外に出た。

みどりのにおいがいつの間にか、風に交じるようになっている。風を吸いこむ、空に手を伸ばす。そして、深呼吸。

もう、ずっと。ここに居たいな。

……もぞもぞ、へっくしゅ。くしゃみが出た。すると突然、口の中に何かあふれる。軽く乾いた小石のようなもので、口がいっぱいになった。

驚いてうつむき、口を開けた。
ぽろぽろと、白い歯が落ちてきた。治療中の仮の歯だけでなく、ほとんどの歯がとれたみたい。

まだ口の中でしっかり残っている歯を壊さぬように、大きな口を開けて、とれた歯を口からこぼしていく。こぼれた歯を両掌に受ける。

ああ、まただ。わたしの歯は口にとどまらないらしい。

今年は、新しく始まるのか。
歯がこぼれたわたしをMさんにも先輩にも見せたくないな。
Iは、わたしの口から落ちた歯を見て、なにを言うんだろう。

手の上に山盛りになった歯をながめながら、うんざりとため息をついた。

……そうして、目が覚めた。

一番に、自分の口に指を突っ込んでみた。

「大丈夫、歯はとれていないし。いつもどおり、わたしの歯」
ほっとした。
全部、夢だった。

歯が抜ける夢は、大きな変化(への恐れ、希望)を表すという。知らず、緊張していた自分が夢に出たのかも。

そして、夢で見たアトリエは、わたしが住んでみたいと思っていた建物。その集落は、友人の祖母が住んでいた場所。
どちらも、わたしがあこがれていた建物であり、土地であった。

先輩が新居を買ったのは本当。でも、その場所は夢で見たのとは違う場所。そこへ新居を見に行こうとIから連絡が来たのも本当。けれど、Iの夫はMさんではない。

夢は現実と心の中が映し出される、おもしろく。どきりとさせるもの。

この春。わたしは大きく変化する……らしい。

#夢日記 #はじまり #希望 #不安 #緊張


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