あのときお姉さんだったみもが、いつの間にか年下になっていた。


犬と私の10の約束―バニラとみもの物語
#人生を変えた一冊

今までの人生ずっとこの本と並走してきた。
物語は終わったけれど自分はまだ、生きていかなきゃいけない。

※ネタバレしないつもりで書きましたが、かなりネタバレがあります。

どんな本?

 犬の十戒、という詩がある。

1.私の一生はだいたい10年から15年です。あなたと離れるのが一番つらいことです。どうか、私と暮らす前にそのことを覚えておいて欲しいのです。
2.あなたが私に何を求めているのか、私がそれを理解するまで待って欲しいのです。
3.私を信頼して欲しい、それが私にとってあなたと共に生活できる幸せなのですから。
4.私を長い間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで下さい。あなたには他にやる事があって、楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、私にはあなたしかいないのです。
5.時々話しかけて欲しい。言葉は分からなくても、あなたの心は十分私に届いています。
6.あなたがどのように私を扱ったか、私はそれを決して忘れません。
7.私を殴ったり、いじめたりする前に覚えておいて欲しいのです。私は鋭い歯であなたを傷つけることができるにもかかわらず、あなたを傷つけないと決めているのです。
8.私が言うことを聞かないだとか、頑固だとか、怠けているからといって叱る前に、私が何かで苦しんでいないか気づいて下さい。もしかしたら、食事に問題があるかもしれないし、長い間日に照らされているかもしれない。それとも、もう体が老いて、弱ってきているのかもしれません。
9.私が年を取っても、私の世話はして下さい。あなたもまた同じように年を取るのですから。
10.最後のその時まで一緒に側にいて欲しいのです。このようなことは言わないで下さい、「もう見てはいられない。」、「居たたまれない。」などと。あなたが側にいてくれるから最後の日も安らかに逝けるのですから。忘れないで下さい、私は生涯あなたを一番愛しているのです。

(犬の十戒・作者不詳 より)


 犬と私の10の約束―バニラとみもの物語 という本は、主人公の女の子・みも と、その家にやってきたゴールデンレトリバーのバニラの成長を描いた物語だ。
 話の中では、ストーリー序盤で小学一年生である主人公にわかりやすく伝えるため、犬の十戒がやさしい言葉で伝えられている。
 小学一年生だった主人公は成長し中学生、高校生へと成長していく。子犬だったバニラも大きくなり、歳を重ねていく。
 人生の一ページと犬の一生が交わる十数年の出来事を、主人公であるみもの視点で綴られる。

 ちなみに2008年に同タイトル(犬と私の10の約束)での映画が上映されているが、こちらの本とは全く別のストーリーになっているので、どちらかだけ読んだ/観たことがあるという方は是非読んで/観て欲しい。


 正直言うと、いまの自分がもし初見でこの本を見かけたとして、自ら読むことは絶対にないと思う。
 なぜならいまの自分が、「全米が泣いた」「感動の超大作」「泣けると話題に」のようなキャッチコピーのついたお涙頂戴作品から目をそらし続ける、ひねくれた性格をしているからだ。

 そんな自分のただ唯一純粋な部分であり続けるのが、この本。

人生を変えた一冊?

 冒頭にも書いた通り、私はこの本とずっと並走してきた
 といっても、半年に一回ペースで読み返す程度。
 冒頭での主人公の年齢と、初めて読んだ当時の私は同い年(小学一年生)だった。
 主人公の小学校~高校の人生が流れていくストーリーなので、半年おきくらいのペースで読み返しては
「このシーンのみもちゃんと、同い年になったんだなぁ」
と感慨深いような気持ちで、何度も何度も読み返していた。

 そして、この本と出会ってから10年ちょっと経ち、高校を出て実家を離れることになった。
 引っ越し作業の中盤でこの本が目に入り、いつも通り最後まで読み終えた。その瞬間、気づいた。

「みもちゃんの歳を超えてしまった」

 磯野カツオ、マサラタウンのサトシ、プリキュア、それぞれが「いつの間にか年下に!」という衝撃、それらとは比べ物にならない衝撃だった。
 物語が終わるときみもちゃんの明確な年齢は出ていないが、「美大を目指そうかと親友と話している」みたいな話があったので、大学受験前の高校生といったところだろう。

 中学進学したときも、高校進学したときも、読み返しては「やっとこの章もみもちゃんに追いついた」と思っていた。
 が、今後の人生でみもちゃんを追い越すことはない。
 マラソンで横を走っていた友達が突然居なくなってしまったような、空しい気分になった。

感想

 この本の魅力として「思春期女子の世界観がめちゃくちゃリアル」ということを挙げたい。
 ひとつエピソードを抜粋すると、
 小学校高学年のみもが、犬の散歩中の事故により入院、無事退院して学校に復帰。しかし、それまで親友だった女の子が、同じ塾に通う所謂カースト上位の女子たちと同じグループになっており、馴染めず一人ぼっちになってしまうみも。
 あの時勉強を頑張って同じ塾に行くといえば良かった、という後悔の念。
 結局グループに入ることができたけれど、遊びに行くにもリーダー女子の言いなりで、結局親友とは元通りの関係に戻ることができなかった。
 そんなエピソードも、次の章では親友が受験をしてリーダー女子たちと同じ私立中学へ進むらしい、といった内容の一言で全て終わる。それ以降、その親友の存在は最後まで一切出てこない。
 前章まで、まるで人生の軸であったかのように語られてきた親友とのエピソードは、何だったのか?と、読み終わった後ももやもやが続くシーンかもしれない。
 しかし自分自身成長して読み返したとき、「女子中学生というのはそんなものだろう」と自分は思った。
 自分も小学校の頃に一生の友情を誓い合った親友たちとは、中学で部活が分かれて以来連絡を取っていないし、今どこで何をしているのかもわからない。

 その他にも友情、恋愛、家族関係、主人公が進路とする美術に対しての葛藤、などなど。
 だからこそ、思春期女子であった自分がなんども読み返したくなったのかもしれない。いつでも、みもちゃんと自分を重ね合わせていた。
 しかし、もうこれからは「こんな時代もあったねと」。過去の話として読むことしかできなくなる。そう考えると少し寂しい。いや、かなり寂しい。

 もう一つの魅力として挙げたいのが、「人生は綺麗事だけじゃない」ということ。
 バニラの飼い主である主人公でも、「ゴキブリ!」という悲鳴にバニラが怯えることをからかって何度もバニラを怯えさせたり、バニラに対して「あっちいけ」と暴言を言ってしまったり、怒りに任せて枕を投げつけたり、といったシーンもある。
 人間側でも、先ほども言った人間関係、みもが彼氏に浮気をされる話や、後半でみもの両親が別居することになる、など。
 犬と女の子の話、という表面からではわからない、十代における人生の不安定感のようなものが、しっかりストーリーになっている。
 更にそれによって、後半になるにつれ圧倒的にバニラの話が少なくなってくる。主人公はあくまでみもちゃんだから、十代のみもちゃん視点の物語と考えると自然である。

4.私を長い間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで下さい。あなたには他にやる事があって、楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、私にはあなたしかいないのです。

 この4番を守れなかった、という伏線になっているのだろう。
 余談だが、序盤でこの詩を初めて聞いたみもが「うちにはママもパパもいるのに」と言ったのに対し、みもの母が「子犬の一番の親友になりたいんでしょ、だったらみもしかいないじゃない」のような返答をしたことが、初めて読んだ当時も、いまも、少し納得が行かない。

 この本が人生を変えてくれたというのはちょっと違うかもしれない。実際、自分は犬の十戒を全然守れていない気がする。
 物語は終わってその後は書かれないけれど、きっとみもちゃんはどこかで美大に行ったりして大人になっていくし、そんなみもちゃんを見て育った自分は、これから嫌でも年をとって行く。
 みもちゃんの歳に近づくにつれて、物語の分からなかった部分が理解したり共感したりできることが、何より喜びだった。
 私はみもちゃんの歳を超えたけれど、また読み返しては新たな発見があるかもしれない。

 バニラの無償の愛、みたいな愛情あふれる話もしたかったが、実家の犬を思い出して泣きそうになったので一旦この話はここで終了とさせていただく。
 オチが残念な感じになってしまったけれど、私は学校のレポートも読書感想文もオチが弱すぎるのが特徴の人間なので、潔くこれで締めたいと思う。


 お読みいただきありがとうございました。

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