2020年3月30日　志村けんの死と新型コロナウイルス

2020年3月30日（月）

10時に目覚める。ここ最近、あまりに会社に行きたくなさすぎて布団の中でスマホをいじってうだうだする。5chを見たんだっけか。『志村けん死亡』というスレッドがパート３まで伸びていて、「え？マジ？」と思いながらYahoo!ニュースを見て、それが事実だと知って。Twitterに行ったら志村けんがトレンド1位になっていたんだ。

僕は『バカ殿様』や『だいじょうぶだぁ』、『タケシムケン』の世代で。今の『志村でナイト』とかはまったく見てなくて。『バカ殿』もいつしか見なくなって。もう志村けんが主役の番組なんて10年くらい見てなかったんじゃないかな。たまにテレビをザッピングして志村けんのコント番組が一瞬映って、「まだコント番組やってるんだ」って思ったりして。そんですぐチャンネルを変えるくらいで。

でももちろん、コロナウイルスのニュースで志村けんが罹患していることは知っていて。でも漫然と「治って復帰するんだろうな」と思っていて。だから死が信じられなくて。

僕は志村けんの熱心なファンというわけではないけれど、でも志村けんに対してネガティブなイメージは一切なくて。解散前のSMAPみたいに、この世に志村けんがいることが当たり前の世界で育ってきて。めちゃくちゃファンというわけではなかったのにすごくショックで。

会社に向かう電車の中で「志村けんが死ぬほどのやばい病気が流行していて、政府も外出の自粛を要請する中で、なんでみんな会社に向かってるんだろう」って思ったりして。志村けんが死んでるのになんで仕事をしなくちゃいけないんだと思って。医療関係者が必死の思いでコロナウイルスを食い止めているというのに、なんで俺たちは医療関係者の努力を踏みにじるような、不要不急の外出をやってるんだと思うようになって、この思いを書き残しておきたいと思ってnoteを書いています。

僕が生きている中でたくさんの有名人の訃報を目にしたし、志村けんよりずっと好きな人が死ぬこともあった。だけど、今回の志村けんの死は、コロナウイルスという自分の眼前にある未曽有の病ということもあってか、自分のなかに言葉では言い表せられないような衝動が沸き起こっている。

なんか、西洋医学に失望して東洋医学に倒錯したジョブズとか、民間療法に倒錯した小林麻央とかの気持ちがちょっとわかった。

東日本大震災が起こった直後に、放射能が来るからって関西や沖縄に逃亡する人のことを「バカじゃないのか」って思っていたような人間なんだけど、コロナウイルスに関しては、自宅から一歩も出たくないと思っている。この病気には絶対に罹りたくないと思う。この病気から逃れることができるならどんな過疎地にでも行く、という気持ちになっている。

それは、今もこのコロナウイルスに必死で対抗している医療関係者に迷惑をかけたくないという気持ちと、志村けんの死を無駄にしたくないという気持ちだ。

志村けんの死は、防ぐことができた死だ、と思う。

僕たちはコロナウイルスをナメていた。死亡率が2％でインフルエンザよりも弱いって情報を鵜呑みにしていた。でも、志村けんは死んだ。

確かに志村けんが罹患したときには、コロナウイルスの脅威や恐怖心は今ほどではなかった。でも今は、いつ誰もが罹患してもおかしくない状況だ。そんなときに電車に乗って、ウイルスの恐怖にさらされてまで会社に行って、発売日に間に合わせるために必死で本を作っている自分は、いったい何をやっているんだと思う。

小学館の社員２名がコロナウイルスに罹ったそうだ。だけど本の刊行スケジュールは変えずにそのまま出すという。

僕が今作っている本のスタッフのうち誰かがコロナウイルスに罹患したら、発売日を無期限延期する、と電車の中で決めた。不要不急の本の発売日なんかより、ひとの命のほうが大切だ。会社から「ほかのスタッフを使ってでも間に合わせろ」という要望が来ても、跳ねのける。無視する。それでも無理強いするなら、会社を辞めるかもしれない。といっても、うちの会社はテレワークを実施したり、コロナウイルスに対して真剣に考えているほうだから、延期を飲み込んでくれると思う。

まあ、これは僕が雑誌を持っていないからこういう考えができるのであって、雑誌を持っている人はどうすべきだろうか、と思う。雑誌をコロナウイルスの流行が収まるまで無期限休刊にする、というのは難しい問題だ。だけどいち編集者的な意見ではあるが、休刊したほうがいいと思う。本に限らず、不要不急の職業は全部休むべきだ。国も十分な金を出すことをすぐに表明すべきだが、結論を待っていたらいつまでも休めないし、コロナも収まらない。だから休める人は休んでほしい。テレビも全部再放送でいい。停波でもいい。第二、第三の志村けんを出したくない。頼むからみんなが意思をもって、「仕事をストップする」ことを決意してほしい。「金がない」とかそういう低レベルな話はするな。死ぬんだぞ。死ぬな。