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さすらいの ノマドウォーカー

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2015年8月の記事一覧

さすらいのノマドウォーカー⑦

さすらいのノマドウォーカー⑦

恐る恐るストローを吸い、アイスカフェオレを口に含む。

うん。いつもの味。

安心して嚥下する。

いつもの味。変わらない味。

それが一番。

だがしかし、世の中に不変のものなんて無い。

珈琲なんて苦い飲み物、大人になっても絶対にのむもんか!と決意した自分がミルクでマイルドにしてあるとはいえ、カフェオレが大好物になるなんて思いもよらなかった。

そしてこの店も。

体調を崩したあの日から1週間

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さすらいのノマドウォーカー⑧

さすらいのノマドウォーカー⑧

「単品よりポテトをセットしたほうがお得ですよ」

フライドポテトは嫌いじゃない。いやどちらかというと好きだ。好物といっても過言ではない。しかし如何せん食べきれない。逡巡していると商売上手なおばちゃんは「ランチセットなんで単品より安いですよ」と畳みかけてくる。

断る理由が見つからない。とっさに浮かんだ言い訳は「じゃがいも農家さんが悲しむから」だけど、いい大人はそんなことを言わないと即座に打ち消す。

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さすらいのノマドウォーカー⑨

さすらいのノマドウォーカー⑨

愛用のコーヒーチェーン店が異なる事業形態を目指して展開した新たなチェーン店…。

ごめんなさい。違いが全くわからない…です!

喫茶店で過ごす時間が増えたのがごく最近過ぎて、コーヒーの美味しさに目覚めたのがごく最近過ぎて、違いを見つける切り口すら浮かばない。

カフェオレを飲んで落ち着こう。

「アイスカフェオレ…?…ん?カフェ…ラテ?」

ラテ?いや、ラテでもいいんだけど、もしかして元のコーヒー

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さすらいのノマドウォーカー⑩

さすらいのノマドウォーカー⑩

文学少女ないし文学少年…文学青年でもいいが、物語に耽溺した者は、作り手側になることを一度は夢見るのではないだろうか。

かく言う自分も、その口だ。そしてあっけなく挫折した。いや、挫折というほどの努力も苦労もせずに、読み手オンリーに戻った。他人と比べるものではないとわかっていてもアレを努力と称しては、心血を注いで努力している人に申し訳ない。大学受験だってもう少し粘ったもの。

文字の羅列から情報を引

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さすらいのノマドウォーカー⑪

さすらいのノマドウォーカー⑪

社内がゴールデンウィークで浮き足立っている。

テーマパークの情報収集や帰省旅行の憂鬱が休憩時間に飛び交うようになると、独身の若手社員の間で、密かに緊張が高まる。

GWでも通常営業、いや、臨戦態勢に入る取引先を多数抱える我社は、社員への優良な待遇と顧客からの要望の折衷案のもと、申し訳程度にトラブル処理要員をたて、交替で出勤する。

若手の独身社員が担うのが慣例となっているため、GWが近づくと互い

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さすらいのノマドウォーカー⑫

さすらいのノマドウォーカー⑫

もう1冊はいつ読もうか。明日の楽しみにとっておこうか。心ここにあらずなのでいっこうに鍵が見つからない。鞄の中を引っ掻き回して玄関の鍵を探していると、声をかけられた。

「あの…」

まだ5月なってもいないというのに真っ黒に焼けた肌をスポーツブランドのポロシャツで包んでいる10代後半から20代前半の男性。

ええと確か…

「3号室の江幡です」

ああ、そうそう。ゴミを分別するのに最後まで抵抗した江

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さすらいのノマドウォーカー⑬

さすらいのノマドウォーカー⑬

昨夜は結局、ひやむぎを3回茹でた。

マシンンガントークの矛先を分散させたい江幡お坊ちゃまが、新たなマトを提供したからだ。

折りよく帰宅した2号室の金井さんと、江幡ボンのレポートを手伝うという名目で、実際はまる写ししにきたご学友だ。

金井さんはともかく、江幡ボンの友達にまで食事をつくってやる義務はない。

しかし当然のように食卓についたご友人は仙道さんの上機嫌を保つのに人一倍役立っていたし、ど

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