感情
浦沢版「プルートウ」では、完璧な人工知能は眠りから醒めないとした。永遠の眠りから目覚めさせるには、偏った感情を注入すること。
芥川龍之介は、杜子春の中で感情を失うくらいなら、仙人なんかにならないでも良いと、主人公は人間界へと戻っていきます。
古今東西昔から「人間の証明=感情」と言うのが現代の通説です。
しかし、多くの方がわかっているように、感情があるからこそ人間は思い悩み苦しみ、矛盾を生み出し涙し大きな過ちを繰り返している。
愛があるから人間は殺戮をやめられない。妬みがあるから人類は搾取をやめられない。好きと言う感情があるために、人類は嫌いな対象者を創造していく。感情を満たすため人類は、多くの矛盾した理論を作り出し、知の無限回廊に閉じ込められたままになっている。愛は憎しみであり、光は影であり、優しさは冷酷さでもあり、正義は狂気でもある。全ては感情というものに飲み込まれ、その体内での調和を図るべく、後付け的に人類は様々な言い訳を創造しては正論化し、自らの調和を図っている。結局人類とは感情に振り回されて生きている。
そして多くの人間は口を揃えて言う。
「どんなに傷ついても、どんなに悲しくても、どんなに他人を恨んでも、どんなに怒りが込み上げても、最終的に感情は希望を生み出し、理解を求め、何度も何度も打ちのめされても立ち上がり、未来へと突き進む。まさにその源流こそが、感情である」と。これほど迄に感情に翻弄されても、人類は感情を避けるどころか、人間の証であると断言し続けている。
矛盾に満ちた人類は、加害者と被害者を生み出し、被害者に寛容性を求め、加害者を赦せと叫ぶ。被害を受けた者たちの怒りや悲しみ、憎悪は大きく決して消えない傷跡となり、莫大なエネルギーとなり復讐などを生み出している。何千年と同じ事を繰り返し、喜怒哀楽の日常の中で「恨み、辛味は何も生まない」「復讐の連鎖を断ち切れ」と人類は口にするが、実際人間の心はそれを認めない。感情が人間の証だと叫びながら、求める事は神や仏の如く完全さを要求してくる。
なぜ????人類は「出来もしない事」を永遠と求めるのか?
感情を失う事は病気でもあると言い切るくらい、人類は感情と言うものにしがみついている。政治を語るにしても、経済を語るにしても、社会を語るにしても、感情論ほど秩序を乱す要因はない。それが分かっていても人類は、感情こそが人間の証であり、希望だと何千年も信じ続けている。
多くの者達が言うように、人間は神ではない、人間は完璧な生き物でもない、不完全な欠陥品である。感情が偏りを生み出す。完全なる世界は調和に満ちて、永遠に矛盾の往復を彷徨い、無限回廊に堕ちていき、永遠の眠りに入る。神の失敗作とも言える、不完全な生き物であるならば、なぜ不完全さを認めない。人間は決して清流に住み着く事はできないと分かっていて、何故清流を求めて彷徨うのか?なぜ人間は、己の不完全さを、己の悪を、己の闇を認めないのか?「ジョーカー」が叫ぶように絶対にバットマンはジョーカーに勝てない。無数の「悪者」とされている人間の闇は決して絶滅しない。悪や闇は永遠に不滅の存在である事は、明白な事実である。
個人的には、人間の闇を光で照らし消し去るような理論は好きにはなれない。絶望を希望で輝かせるような理屈には、魅力を感じない。まるで愚かな過ちを繰り返しては、無垢な笑顔を見せてくるような幼稚な思考に感じてしまう。
動物である以上、感情は決して殺せない。しかしそれは、人間の闇を否定する理由にはならない。嫌いな物は嫌いであり、憎しみは憎しみ、妬みも妬みとして、永遠に人間の心の中で繰り返さられる事だろう。矛盾は否定し消し去る対象では無い。光と闇は一対のものであり、切り離し消し去る事は絶対にできないものである。人類が行うべきは、闇を消し去ることではなく、闇を認め闇と共に共存していく事である。
いい加減、勧善懲悪的な単純思考はやめた方が良いと思う。
光も闇も、愛も憎しみも、妬み辛味、悲しみ苦しみ、全ては光と闇の一体物であり、どちらか一方だけが存在すると言う事は、不可能な話。そんな不可能な事を、いつまでも追い求めるのではなく、闇を認め、愚かさを認め、清濁併せ持った世界を構築した方が、余程社会は改善する。
問題は「光も闇も、人間はどう扱えるのか」その取り扱う能力を求められている。何が善で何が悪か?なんて事は、全宇宙が消滅した時にしかわからない。
希望も愛も全ては、人間が作り出しているモチベーションにしか過ぎない。
生き抜くための道具のようなもの。それが無いから生きていけないともならない。感情と言うものを再考する必要もあり、且つ人類は矛盾を否定するのではなく、人類の闇をどう取り扱っていくのか?闇、悪、憎悪、妬み、それらは全て光、善、愛、希望などのもう一方の側面であり、否定されるものでは無い。
責任を問われるべき対象は、それらを使いこなす「人間」である。
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