“有機”のラベルではなく、自分の目と舌で確かめてほしい。Green Basket かいさんの農業との向き合い方
こんにちは、TSUMUGI編集部のMamiです。
TSUMUGIのコミュニティでは、コワーキングならぬ「Co-Farming」として、みんなで小田原に畑を借りて野菜を育てています。メンバーは毎月1、2回畑に集まって草むしりや収穫をしています。今は1000平米ほどですが、どんどん畑を広げていって、いつかはコミュニティ内で自分たちの食べるものを少しでも担保していく「供給共足」を目指しています。
その畑を貸してくれているのが、小田原で西洋野菜やオリーブを育てる「Green Basket Japan」代表の加藤かいさん。
かいさんは、会社員を辞めて、約4年前から親の農地を引き継ぐ形で農業をスタート。いい意味で農業に対してとてもドライに向き合っていて、知識も豊富。
「無農薬とか無肥料とかって売り文句にはなるけど、無農薬だからって美味しいとは限らない。もちろん僕だって農薬は好きじゃないので、できるだけ使わない。でもまあ、ときにはマックも食べるし、カップラーメンも食べますよ、普通に(笑)」
がははと笑いながら、でも真剣に話す言葉の一つ一つが、まっすぐに本質。
正直なところ、私はCo-Farmingって言っても月に2食分くらいしかまかなえないような野菜の量じゃ、都会の若者のお遊びみたいなものだよなあ・・・生半可な土いじりするのも農家の人に対してなんだか後ろめたいなあ・・・なんて感じていた部分もあったんです。でも、かいさんの言葉で、畑をさわるということの捉え方が全く変わりました。
「自分の目と舌で確かめないとね。だから、この畑でいろいろ試してみたらいいと思いますよ。手にとっていいなとか、口にして美味しいっていうフィーリングが大事。そしたら日々食べる野菜との向き合い方も変わるはずだから」
おもしろそうだと思ったことがたまたま農業だった
11月末。朝が苦手な私は「朝9時小田原集合」という約束にすらすでに若干びびりながら、いっぱい目覚ましをかけて、なんとか6時に起きて、遠いな・・・寒いな・・・これ毎月はきついな・・・とぼんやりした頭のまま、早朝の畑へ向かいました。
今日の作業は、にんじん周りの雑草取りと、カブやダイコンの収穫。土はしっとりと冷たくて、軍手をしていても手が冷える。もっと早い時間から、もっと寒い真冬にも、毎日毎日作業する農家の方々には、本当に頭が上がらない。
「2、3個くっついてるカブは、大きいものから収穫しちゃってください。そしたら他のにもこれから栄養がいって大きくなるから」
かいさんが、私たちコミュニティメンバーに、ひとつひとつ丁寧に説明してくれます。
「夏の野菜は寒さを越えてないから水々しくて、でも甘みは少ない。逆に、冬を越すと栄養を溜め込むので、かなり甘くなります。同じ野菜だったとしても収穫時期で全然味が違うんですよ」
もともとはシステムの仕事をしていたかいさん。30歳を過ぎて、これは一生の仕事じゃないなと考えていたときに、小田原の実家でイタリアンレストランを営んでいる父親が趣味程度に育てていたオリーブに不思議と心惹かれたそう。それから、農業大学に一年間通って、農業を学び、4年前に実家が持っていた土地を耕し始めました。
「農業をやりたくて農家になったわけでもないんです。農業なんて別にかっこよくもないし、儲かるようになるのも本当に大変な話ですよ。ただ、オリーブを本気でやってみたかったんです。オリーブは難しいしまだ答えがないから、おもしろい。すべて解明されちゃったら、僕はもう農家を辞めると思います(笑)」
日本でのオリーブといえば、瀬戸内の「小豆島」を中心に畑が点在していますが、オリーブだけで生計を立てている人はいないというくらい、育てるのにあまり適している土地ではありません。また、オリーブは植えてから5年はほとんど収穫できないうえ、10年目でやっと1本の木に成る実からオリーブオイルが700ml〜1200ml搾れるというほど、大量の実を必要とします。欧米の広い土地がなければなかなか産業として成り立ちません。
「日本は、特に多湿多雨で、ほとんど果樹には向かないんです。雨が多いと葉っぱを茂らせてしまうので、無肥料で育てるのは難しい。さらにオリーブゾウムシという日本にしかいない害虫がいて、木を枯らしてしまうので、農薬を撒かずにつくっているところはなかなかないですね」
有機だから良い、農薬は悪いというわけではない
それでも、かいさんはまだ解明されていないいろいろな農法を試しながら、試行錯誤でオリーブづくりに取り組んできました。その中で、肥料や農薬に対する考え方も変わってきたようです。
「最初は農薬なんて口に出すのも嫌なくらいでした。環境にも良くなさそうだし、撒くと臭かったりするから、シンプルに気分が悪い。でもオリーブを無農薬で育ててみたら、片っ端から枯れていったし、ぎりぎり採れた実から絞ったオリーブオイルも美味しくなかった」
それでは意味がないと、年に2回最低限の農薬を効果的に使う方法で実験しています。土の栄養分は十分あると判断して、肥料は与えていないそう。
「もちろん使わなくていい方法が見つかったら、できるだけ使わないつもりでいます。でも中途半端なオーガニックとか、ビジネスとしてのポジショントークはあんまり興味がないんです。オーガニックな薬剤をたくさん撒くくらいなら、純度の高い化学合成農薬を必要最低限の量使うほうがいいと思っています」
いろいろな方法を試しながら、通俗的に言われている育て方やまわりの情報に左右されず、自分の考えで農業に取り組むかいさんは、どちらかというと「研究者」のよう。
「いまみんなが食べている野菜っていうのは、基本的には遺伝子の突然変異でできた種だし、海外から持ってきた外来種なので、ほったらかして勝手に美味しい野菜ができるわけではないんです。だから、いろんなことを試して不確定要素を減らしていくというのが僕の考えです」
ええ、そうなんだ。かいさんの話を聞いていると、自分が毎日食べている野菜や作物のことを何も知らなかったという事実に気付かされます。
メディアやラベルではなく、自分の目と舌で
「無農薬とか無肥料とか、そういう情報ではなく、とにかく自分の目と舌で感じることが大事。だから、みなさんにはこの畑を通して、いろいろ試して、食べてみてほしいんです」
たった1畝なのに、参加していた20名ほどのコミュニティメンバーが、一人10個採っても間引ききれないほど、たくさんの野菜がちゃんと生き生き育っていました。農薬も肥料も与えず、自然の雨と土だけでできた野菜たちは、どんな味がするんだろう。
「さあ、みなさん、ここまではまだスタート地点。帰ってから美味しく調理するところが勝負ですからね!」
かいさんからそう言われて、ハッとする。なんていうか、当たり前のことなんだけど、農業は、私たちが美味しく食べるためにあるんだ、っていうことを改めて理解した瞬間でした。
その日の夜。家に帰って、カブはおすすめされた通りオーブンで低温調理し、ダイコンは厚めに切ってフライパンでステーキに。
「待って、美味しすぎる・・・」
今までに食べたことがないくらい、カブは甘くてとろとろ。ダイコンには旨みが凝縮していて、お肉のステーキに匹敵する満足感。いつも食にうるさいパートナーも、いつもの野菜と全然違う・・・と唸っていました。
とても本質的な思考で農業と向き合うかいさんの姿を見て、実際に畑で野菜たちに触れ、自分の手で採ってきた野菜を調理して、口に入れて。そうやっていくうちに、私の中での「農業」や「食物」のイメージがどんどん変わっていきました。
スーパーで、普通の野菜が並んでいる隣に用意された「有機野菜コーナー」を見たときの、あの違和感。実家の近所でおばあちゃんがやっている直売所の新鮮で美味しい野菜が、無農薬ではないと聞いたときの、あのモヤモヤ。
自分の手で土を触り、自分の舌で判断することを放棄していただけだった。
もっといろんなことを肌で知りたい。もっと感覚を研ぎ澄ませたい。また来月も頑張って目覚ましかけて起きなきゃ・・・と思っている自分がいるのでした。
「Co-Farming」に関心をもった方はぜひこちらよりコミュニティの詳細をご覧ください。
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