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【感想文】風と共に去りぬ第4巻/マーガレット・ミッチェル

『Don't Call Me Whitey, Nigger』

2代目桂枝雀は【笑いとは"緊張の緩和"である】という持論を残した。
「緊張の緩和」とはどういうことか、本書「風と共に去りぬ」を例に以下、説明する。

まず、メラニーの、

<<「愛ですって?スカーレット、愛なんてそんなおそろしいこと考えないで!かわいそうなキャスリーン!かわいそうなケイド!」
「ばっかばかしい!」
スカーレットはいらいらした。>>

岩波文庫,第4巻P.47

という、これはメラニーの慈愛に溢れた精神の高揚(=緊張)を、スカーレットの暴言が和らげている(=緩和)。
つまり、メラニーをフリにしてスカーレットでオトしたのであり、メラニーの生真面目に対するスカーレットのツッコミという構造である。

【別解】
視点を我々読者目線に置き換えてみる。
すると、先程とは反対に、スカーレットの暴言は読者に緊張感を与える。
だが、読者は物語を第三者的に覗き見する立場上、常に安全圏に位置しておりこれが緩和となる。
要は、スカーレットが何を言おうが他人事として笑える、という理屈である。

次に、スカーレット毒舌ネタは以下の様に失敗する事がある。

<<メラニーは喜んで歌をうたいながら家の中を歩き回っていた。
スカーレットは残酷にも、メラニーったらあのアトランタでのお産のときに死んでしまえばよかったのに>>
同,P.66

これも先程と同じ構造だが笑いの質は落ちる。スカーレットがあまりにも辛辣過ぎるからである。
この場合、緊張は緩和へと導かれるのではなく、緩和を通り越して消失してしまい、それは読者を笑いではなく困惑へと落とし込む。
また、今回の失敗はメラニーにも責任がある。
というのも、歌いながら家をうろつくぐらいでは緊張状態は現れないからである。
言い換えると、フリが十分に利いていないことを意味する。

最後に、理想形を紹介する。それはマミーの、

<<あんなところへ一人でお出かけなすったら、ミス・エレンさま、お墓の中ででんぐりがえりしなせえますだ>>同,P.151
<<ミス・エレンさまがたったいま、お墓の中で寝げえり打ってますだ!>>
同,P.262

という台詞であり、まず、エレンという聖母の様な存在がメラニー以上の緊張をもたらす。
さらに、マミーが奴隷という身分にも関わらず主人のエレンを茶化すという予期せぬ緩和により、緊張と緩和に激しい高低差が生まれ、それに準じて笑いの量も増大しており成功例だといえる。
よって、マミーは今すぐ芸人を目指した方がよい。

といったことを考えながら、「笑いを解説するなんてヤボだっせ」という桂米朝の声を聴いた。

以上

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