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海は青いんだっけ、桜のいろなんだっけ(ショートショート)

この物語はうつスピさんの素敵な俳句を元に創作させていただきました。

うつスピさんの句はこちら

さいかいを誓った僕ら花のしま

くちづけて僕・君・桜全て満つ

らいせでは普通の恋を花明かり

そこから物語を紡ぎました。

うみの青さを覚えているけど

つらい時に見る海は真っ黒だ

スピッツの春の歌が寄り添ってくれようとも、

ピスタチオと鳴く猫が必死に慰めてくれようとも

さんざんな結果だ

んー、これはどうしたものか。

ありがとう

と君が最後に残してくれた言葉だけが僕の中で永遠に木霊しているんだ。

初桜

君と初めて会ったのっていつだったかな。覚えてないや。それくらい気づいた時には君はもう僕の目の前にいた。小さな団地だったから、そこに住んでる人たち皆仲良くなって。

団地にはちょっとした広場みたいなのがあって、そこで鬼ごっことか、ケイドロとか、縄跳びとかしてよく遊んだ。

男連中は新作のゲームが出る度に一番上の兄ちゃんの家に集まって、兄ちゃんがプレイする画面を目をキラキラさせて見てたもんだ。その家に集まるのは全員男だったのに、ひとりだけ女子がいて。それも君だった。誰よりも大声で画面に向かって、ほらそこ!いけ!今だ!やれ!だなんて叫んでいたのを今でも覚えてる。

僕と君の両親は特に仲が良かったから、事あるごとに色んな場所に共に行った。BBQとか、ソフトボール大会とか、家族旅行とか、桜祭りとか。

ここで白状するよ。僕が君に恋したのは、あの時の桜祭り。

だってズルいよ。普段はあんななのに、桜を観る姿はやけに儚くて。あの姿を見て恋に落ちない奴いるのかな、いやいないね。

君が僕に恋に落ちてくれた瞬間はいつだったのかな。教えてくれないなんて、これもズルいよ。

でも許すよ。だって君は沢山のことを僕に教えてくれたから。

人を愛することがどれだけ幸せなことなのか。

人に愛されるということがどれだけ尊いものなのか。

両想いだった僕らだったけど、離れ離れになった時期もあった。

君が東京の大学に通い出した4年間。

4年間離れるのは辛かったけど、ここ淡路島から東京までなんて君に会えると思ったらあっという間だった。

それに東京に行く前日に2人で誓ったもんね。

お互いに悔いのないように生きよう

って。

だから君は夢を叶えるために東京に行った。

だけど、これも今だから白状するよ。

あの時程東京行きの夜行バスが憎かったことはない。僕の大切な人を奪ってどこに連れていくんだ、なんて罪も無いバスに憤りをぶつけて。

4年後僕らは別の誓いをした。

お互いを一生幸せにするという誓い。

お互いの家族や友人も幸せにするという誓い。

そう、結婚の誓い。

その誓いどおり僕たちはお互いを、家族を、友人を大切にして長い月日を共にしたね。

でもある時、君は消えてしまった。

「老いていく私を、あなたをひとりこの世に残して去ってしまう私を許して。

いままで沢山の愛を

ありがとう」


とメモに残して。

僕はそのメモを見ても泣くことさえできなかった。

気づいていたから。覚悟していたから。

君が消えた前日。あれが僕らにとっての最後の日。

僕らは昔家族でよく行った旅館に泊まりに行った。その部屋からは満開の桜が目の前に広がっていて。

そこにあったのは、桜のきらめき。君と僕。そして別れのくちづけ。それで全部だった。

あつく深く交われば、交わるほど嫌になっちゃうほど感じとれてしまうもの。それが別れだった。

あの日僕が変に夜行バスを恨んじゃたのがいけなかったのかな。

君を見送った帰り、空から何かが降ってきて。いや、あれは宇宙から降ってきたんだと思う。そしてあれは絶対に土管だった。土管が空から降ってきて僕の頭に直撃した。あんな重たいものと衝突したら即死のはずなのに、僕は死ななかった。そのかわり次元が歪んだ。3次元の世界が4次元だか5次元だかに捻じ曲げられて。僕の「時」はそこで止まったんだ。

最初の数十年は誤魔化せた。君が必死で若造してくれたから。

でもそれが君を追い込んでいた。老いない僕を見て、先に老いて死んでしまうという現実が君を蝕んだ。誰にも相談できない。治す薬も治療法も無い。君は自分を責めることでしか、自分を保つことができなくなっていってた。

僕のほうから消えるべきだったのに。君への愛がそれを拒んだ。ずっと一緒にいたい。僕の我儘が君を殺したんだ。

君が消えてから、君はどう生きて、どう死んだの。

僕はその答えを導き出すことは永遠にできない。

それなのに僕は永遠を生きなければならない。

君が消えてから、僕は何歩歩いただろう。そして何歩歩いていくのだろう。

来世では君と普通の恋がしたい。一緒に老いて、自然に死ぬ世界で恋がしたい。

でも今は来世ってやつにすら辿り着く方法がわからない。

今年も桜は満開で、夜なのに明るい。

さいかいを誓った僕ら花のしま

くちづけて僕・君・桜全て満つ

らいせでは普通の恋を花明かり


うつスピさん、早速ですが書いてみました。うつスピさんの詠まれる俳句は心を強く揺さぶります。今回の句はそれだけでなく、俳句を初めて詠もうとする人たちへのエールにもなっていて、その心意気にも感動致しました。

いつもどうやったら皆が俳句を楽しめるのか真剣に考えている姿勢も尊敬しております。



ここまで読んでいただきありがとうございます。