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自然に囲まれたDIC川村記念美術館で「クリストとジャンヌ=クロード展」を見る

 8月も終わりに近づく頃、ふと今年の夏に思いを馳せた。現在も新型コロナウイルスの影響が続く中、休業している施設も多く、外出する機会が減ったという人も多い。不要不急とされるものから娯楽が除外されることに落胆を覚えた人も多いだろう。そこで一度都会の喧騒(けんそう)から離れ、美術に触れてみるのも悪くない。目的地は千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館。終わりかけた夏の思い出づくりに、広大な自然の中ひっそりとたたずむ美術館はぴったりだった。

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 8月29日。京成佐倉駅から無料の送迎バスに乗車した。のどかな田園風景を眺めながらしばらく揺られていると、木々を抜けた先にDIC川村記念美術館の文字が見えてきた。

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 同館のある千葉県佐倉市は、千葉県北部に広がる北総台地の一角に位置している。北総地域一帯の里山を生かしてつくられた庭園には、背の高い木立に囲まれた散策路や芝生の広場があり、屋外に設置された彫刻を豊かな自然環境の中で鑑賞できる。

 20世紀美術を中心とした多彩なコレクションの中でも筆者にとって特に印象深いのは「ロスコ・ルーム」だ。薄暗い室内に足を踏み入れると、巨大なカンヴァスが鑑賞者を囲むようにして飾られている。静かに迫ってくるような存在感は、まさに「壁画」のような佇まいを見せる。展示されているマーク・ロスコ(1903〜70年)の作品群は「シーグラム壁画」と呼ばれるシリーズのうちの7点だ。作品の静謐(せいひつ)な世界と作品の劣化を防ぐために調整された照明が呼応して、部屋は独特の雰囲気を醸していた。

 この日同館では、「クリストとジャンヌ=クロード ーー包む、覆う、積み上げる」と題されたコレクション展が開かれていた(10月3日で展示は終了)。芸術家ユニット「クリストとジャンヌ=クロード (Christo and Jeanne-Claude) 」が計画してきた数々の大規模なプロジェクトを、同館が所蔵する写真や版画で見ることができた。

 題名通り「包む」や「覆う」、「積み上げる」をコンセプトにした作品は、どれも対象が巨大なのが特徴だ。作品の一つ《包まれた公共建築(プロジェクト)[パリの凱旋門]》(1968年)に表されたプロジェクトは、1962年の構想からおよそ60年の時を経て、今年9月18日〜10月3日、作家の遺志を継ぐ形でパリでついに実現した。展示されている写真は、凱旋門の縮尺模型のネガと凱旋門に通じるフォッシュ通りの夜景のネガを組み合わせてつくられたものだった。クリストとジャンヌ=クロードの完成予想図と見ることもできるだろう。

◎布で包まれたパリ・凱旋門。いまは亡きクリストとジャンヌ=クロードの夢が実現​​(美術手帖)

 凱旋門のラッピングは実現したが、展示された作品を見ていくと実現しなかったものも多かった。それだけ2人の夢が大きかったということだろう。9月に入り、パリの凱旋門が梱包されたニュース(上記リンクは美術手帖の関連記事)を聞いて、川村記念美術館で見た作品を思い出した。今のように社会が困難な状況にある時、ロマンのある美術作品の存在は希望のようにも思える。改めて、美術の力を感じた。


取材・文・撮影=三津田恵

DIC川村記念美術館 千葉県佐倉市坂戸631




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