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WebMagazineタマガ

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多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているウェブマガジンです。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事…
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#展覧会

デザイナー大原大次郎の「手」の痕跡を見る

 東京・銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の大原大次郎の展覧会「Daijiro Ohara HAND BOOK」を訪ねた。  2023年12月に出版された作品集「HAND BOOK 大原大次郎 Works & Process」と同名を冠した本展覧会では、グラフィック・デザイナーとして知られる大原大次郎の創作活動に共通する「手」=HAND を使った仕事の数々が展示されている。作品集を読み進めていくような形で鑑賞することができる。  ギャラリーに入ると、大原の仕事

自然光で日高理恵子の「空」を見る

 家村ゼミ展2023『空間に、自然光だけで、日高理恵子の絵画を置く』が、多摩美術大学八王子キャンパスのアートテークギャラリーで開催されている。展覧会名のごとく、人工照明を用いずに絵画を自然光のみによって見せている。同ギャラリーの4つの部屋に展示されている日高理恵子の作品は計5点。それぞれに、異なる姿の樹木が描かれている。同ギャラリーにある複数の大きなガラス窓からの採光の下で、それらの絵は空間に溶け込んだかのように存在し、自然の美しさを放っているようにも感じられた。  201

ヴィジュアル作品としての表現を追究した詩人・北園克衛の資料が物語るもの

1993年に「北園克衛文庫」を設立  北園は、日本を代表するモダニズム詩人であり、詩作のほか評論の執筆、雑誌の編集、書籍の装幀など幅広い分野で活躍した。本学は北園の多くの資料を収蔵する機会を得て1993年に「北園克衛文庫」を設立し、関連の展覧会を開くなど顕彰に務めてきた。 詩をヴィジュアル作品として捉えた北園  「紙面の広がり、漢字とかなの配分、レイアウト、フォント、すべてに明晰な北園の美学が冴えわたっている」「抽象絵画のような、具象彫刻のような、北園の独自の詩世界」と

大雨で倒れた樹齢1300年の御神木から生まれた佐藤壮馬のアート作品@資生堂ギャラリー

東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催中の第16回 shiseido art egg展で、佐藤壮馬のインスタレーション作品《おもかげのうつろひ》が展示されている。会場でこの作品を初めて見た人は、おそらく何をどう表現しているのかがまったくわからないのではないだろうか。 しかし、感じられる何かがあるはずだ。曲面を成した白い物体が、見えない何かを円柱状に囲んでいる。つまり、その円柱部分には、何かが存在していることをほのめかす。 それは、2020年7月11日に豪雨によって倒れた、岐阜

フランスにこんなに暗い絵があったとは! ブルターニュ展@国立西洋美術館で「黒の一団」の絵を見る

国立西洋美術館で開かれている企画展「憧憬の地 ブルターニュ モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」は、フランスのブルターニュ地方という地域をテーマにした企画だ。フランスはモネ、ルノワール、ゴッホらをはじめとする多くの偉才を生んだり育てたりしてきたが、特に19世紀以降は鉄道網が整備されたことなどから、移動が盛んになった。 ブルターニュ地方はフランス北西部にあり、半島を成して海に面している。19〜20世紀前半にはモネ、シニャック、ゴーガン、さらには黒田清輝など、多くの画家がこの

実は拾いたくなる「すてるデザイン」@GOOD DESIGN Marunouchi

東京・丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiで、「すてるデザイン〜ゴミを価値に変える100のアイデア」 という企画展が開催されているというので、出かけてみた。筆者が教員として勤めている多摩美術大学のデザイン関係の学科と一般企業の協働による成果物の展示であることをお断りしておく(ただし、筆者の所属は芸術学科であり、出品者の中には直接教えている学生は多分いない)。企業との協働、すなわち産学連携の成果ということで、一定の水準以上のものばかりが展示されていた。 「すて

死を通して生を伝える藤原新也の祈り@世田谷美術館

写真家として知られる藤原新也さんの半世紀間にわたる活動の中で生まれ出てきたものを目一杯受け止めることのできる「祈り・藤原新也」展が、世田谷美術館で開かれている。 まず心を捉えたのは、まだ20代の頃にインドに渡って撮影した写真の数々だ。 とても半世紀も前の風景とは思えず、今も生きているインドの姿が写っていることを感じた。仮に同じ場所の今の風景が近代的な姿に変わっていたとしても、あまり重要なことではないだろう。藤原さんの写真は過去の記録というわけではなく、インドのそこここにある

3331 ARTS CHIYODAでアートフェアを楽しむ/NFTアートも販売

「3331 ART FAIR 2022」(東京・千代田区のアーツ千代田3331で10月30日まで開催)の内覧会にプレス関係者として参加しました。1階のメインギャラリーでは26のギャラリーが出展、2階の「体育館フロア」では鷲田めるろ氏、藪前知子氏ら著名なキュレーターや全国の美大、アキバタマビなどが選定した作家の作品を展示するなど、アーツ千代田3331としてはかなり大掛かりなイベントとして開催されていました。 会場の旧練成中学校については千代田区とアーツ千代田3331の運営母体

竹内栖鳳の《班猫》が独自の宇宙を創っている理由とは?

山種美術館で開催中の「竹内栖鳳」展では、人気作《班猫》(はんびょう)が撮影可。同館初の試みとのことです。 竹内栖鳳(1864〜1942年)は、ライオンや熊からアヒルや蛙まで、実にさまざまな動物を描いた、動物愛に満ちた画家です。 沼津で出会った猫 をモデルに描いたというこの絵は、猫の体による渦巻のような表現が無地に近い背景と相まって深みのある世界を作っています。 落款と猫の位置関係は絶妙なバランスを見せています。毛描きがまた素晴らしく、目の当たりにすると意外と大きなこの作品

ZOKU SHINGOは楳図かずおのシン黙示録なのではないか

大阪・あべのハルカス美術館で開催中の「楳図かずお 大美術展」へ。一部撮影可だったので、会場写真を散りばめた。 筆者の頭の中で凄まじい記憶として残っている楳図の作品は、『漂流教室』だろうか。テレビ放映を途中から見てはまったのだが、原作が楳図かずおだと知り、魅力が増した。 怖いのに凝視してしまう。それが楳図の漫画だ。細部まで、とにかく描きこむ。だから、凝視せざるを得なくなるのだ。 この展覧会は回顧展ではない。メインの展示は27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボ

異才は出会うべくして出会ったに違いないと思わせる、青木繁と坂本繁二郎の2人展

東京・京橋のアーティゾン美術館で開催中の「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」展(10月16日まで)、素晴らしく充実した内容でした。青木繁(1882〜1911年)と坂本繁二郎(1882〜1969年)の2人はともに福岡県久留米市出身、地元の高等小学校で同級生でした。よくもまあ、この名だたる異才2人が地方の高等小学校で同級生だったなあとも思いますが、展覧会を見渡すと、出会うことは運命だったとも思える内容でした。 ここでは、簡単に比べながら見ていきたいと思います。 洋

伊達政宗を探せ! 住友家の至宝を東京で見る絶好の機会〜泉屋博古館東京「古美術逍遥」展

東京・六本木の泉屋博古館東京で開かれている「古美術逍遥 東洋へのまなざし」展(10/23まで)は、普段は京都の泉屋博古館で収蔵されている東洋の古美術品の至宝の数々を東京でいちどきに見られる稀有な機会となっています。住友家はこんなに素晴らしいものを集めていたのだな! と改めて確認した次第です。中には伊達政宗が小さ〜く描かれた作品も。プレス内覧会に参加しましたので、遅くなりましたがこちらで報告いたします。学芸員の方に、ヴァーチャル・リアリティよろしく、絵画空間の中に入り込む極意を