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40代サラリーマン、アメリカMBAに行く vol. 16 〜起業家に聞く6

バブソンMBAでの授業とは別に、ボストン・日本人・起業家をテーマに、起業家に会って学ぶ活動。今回はボストンでスタートアップ支援を行うAiko Katoさん。彼女はこれまでスタートアップを評価し投資する立場、スタートアップで働く立場、スタートアップを支援する立場を経験。これら3つの視点を生かして、スタートアップが日本からアメリカに進出したり、アメリカから日本に進出したりするのをサポートしている。


共感するのは
透明性の高い起業家

Katoさんは現在、日本とアメリカを繋ぐ、そしてアカデミアのサイエンティストの成果をビジネスに繋ぐためのビジネスディベロップメントに関するコンサルティング会社RykoTECH (ライコテック)を経営されている。クライアントは、スタートアップ、VC、インキュベーションセンター。例えばスタートアップには、ファンドレイジングやパートナーシップ開拓のサポート、研究費・アクセラレーションプログラム等の申請のほか、アメリカのカンファレンスに代行参加したり、ピッチやビジネス商習慣のコーチングをしたりしている。

過去に創薬・医療機器・デジタルヘルスの分野で日本のスタートアップがアメリカ市場に進出していくためのアクセラレーションプログラムを企画し運営してきた経験を活かし、主にバイオ・ライフサイエンス分野の創薬や医療機器企業を支援。最近はLarge Language ModelやDigital Therapeurics、Entertainment、自動車業界の企業も支援されている。

マサチューセッツ・ボストンという場所は、まだまだ日本人にとって開拓の難しいマーケット。ニューヨークや西海岸に比べれば、かなりコンサバティブな場所だと彼女は話す。「マサチューセッツ州は白人が70%程度を占めます。我々のような移民が自立するには全く有利とは言えず、こちらの文化や風習に日本人が適合していかないといけない競争の激しい場所です。アメリカのシリコンバレーの企業に行くならTシャツ・ジーンズにスニーカーで大丈夫といった話はあるかもしれませんが、ボストンではそんなことは全くありません。特にメディカル分野では皆スーツを着ています。アメリカはアメリカ全体でひとくくりに出来ず、言葉の壁はさることながら地域によってカルチャーギャップがとても大きいので、私がここボストンでサポートできることは多くあると考えています」

多くの起業家をサポートする彼女が大事にしていることは、スタートアップの創業者に対する共感だ。共感できる起業家は、トランスペアレンシーの高い方。情報やコミュニケーションの透明性に重きを置く。基本的には全て紹介ベースで支援されているが、面識のない方からも口コミで連絡を受ける場合がある。そうした時はバックグラウンドチェックを怠らない。アメリカでは当然行われていることだが、リファレンスを取ってどんな方なのかを確認する。何か気になるところが見えた方、透明性を感じられない方の場合は支援を断ることもある。

アメリカ市場開拓は
ネットワーキングとペイフォワード

アメリカのビジネスは、コネクションベース。特にインディビジュアルなコネクション。アメリカは個人と個人のコネクションが求められる。そのためネットワーキングは常に意識的に行う必要がある。彼女も自分自身に宿題を課して週に3人新しい人に会うということをやっていた時期もあったと話す。対面もオンラインも両方合わせて、ありとあらゆるネットワーキングをしているという。現在もボストンでライフサイエンス・バイオ業界の日本人や日本語話者の人たちを集めたコミュニティ”Boston Biotech Hub”を運営。ふた月に1回ほどの頻度でネットワーキングイベントを開いている。

ネットワーキングの場で大切なことは、自分をエレベーターピッチできる準備をしておくことだと彼女は起業家たちに伝えている。どの会社の人というのではなく、私はどういうことをやっている人だということを簡潔に話して、自分と相手の共通点を見つけるようにする。すると、それに対して興味がある人がいたら、自分が若くても、女性でも、対等に話してくれるという。「例えば、今朝私はエグゼクティブばかりが出席するネットワーキングに参加していました。日本もそうですが、アメリカも未だにそうした場ではスーツ姿の男性がほとんどです。私は女性ですし、日本人は相対的に若く見えることもあり、会場では浮いていたと思います。しかし私が自己紹介をすると、『日本のことで話したいことがあるので、今度話しましょう』と、次に繋がるコネクションが1件ありました。これがインディビジュアルなコネクションの例です。自分が話すことに興味を持ってもらえれば繋がります。そのためには『私はこういうことをやっている』『こういうことをやりたいんだ』と自分を売り込む訓練が必要です」

起業のきっかけもネットワーキングだった。前職でスタートアップ・アクセラレーションプログラムをデザインし運営する仕事に携わっていたが、本当に日本のスタートアップの米国進出に必要なことを提供するために異なるアプローチに挑戦してみたかったため退職。しかし起業するとは考えておらず、当初は仕事先を探していた。そうしたところ、偶然以前会ったスタートアップの方々から話が来た。知り合ってから既に1年や2年以上経っている日本の2つの会社からだ。ようやくアメリカ市場に本格的に出たいフェーズになったので手伝ってもらえないかというものだった。2社からの相談がトントン拍子に来たところ、3社目のクライアントからも時間をあけずに話が来た。この時に「もうこれは会社を建てよう」と彼女は考えた。

3社とも出会ったところが、Boston Biotech Hubだった。彼らはちょうど日本から出張でボストンに来たタイミングでイベントに参加しており、その際に「スタートアップ支援をしているので、ファンドレイジングなどをお手伝いできますよ」と彼女は話していたという。イベント後もフォローアップとして、あくまでボランティアとして、色々な投資家を紹介していたのだった。

このPayforwardの姿勢こそ、ネットワーキングの場で大切なもう一つのことだ。日本人はタンジブルではないものの価値を理解しにくい傾向がある。例えば情報は紙に書かれていなければ無料だと考えている人もよく見かけると彼女は話す。日本の方の中には、まとまったものをもらえませんか?と言う方もいるが、そういうことをしていてはアメリカでネットワークを築いていくことはできない。ネットワーキングで出会った人に、その後のフォローアップとして「さっき話していたことに関するリンクはこれだよ」「さっきあなたが話していた件で、これを思いついたんですが、どうでしょうか」など、合っていても合っていなくてもこちらから情報提供しようとする姿勢を見せることが大事だと彼女は話してくれた。

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