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おカネの切れ目が恋のはじまり 改めて最終回感想

カネ恋、いい最終回だった。
久しぶりに大きく心を揺さぶられた。

「おカネの切れ目が恋のはじまり」
設定を軽く説明すると、倹約家の九鬼玲子(松岡茉優)と、おもちゃメーカーの御曹司の猿渡慶太(三浦春馬)の物語。慶太は明るくて調子が良くて人好きはするけど浪費家。海外出張でとんでもない出費をしてもどこ吹く風。こんなことでは会社を任せられないと苦慮する父であり社長(草刈正雄)は慶太を経理部に転属させる。お金のことを学びなさいと。その経理部には玲子がいて、玲子はお金のことにとてもシビア。ケチではないが、ひとつの物を購入するにも吟味し、そうやって手に入れたものを大切に扱い、長く大事にするタイプ。そんな真逆の二人が出会って惹かれ合っていく、テンポも軽めなラブストーリー。ところどころ、お金の仕組みを恋愛にたとえた解説が入っていて面白く、物語の中では慶太玲子ペア以外にも何組かの男女が登場し、それぞれの行く末が面白そうだった。
わたしは1話を見てすぐに好きになった。脚本も演出も俳優陣もみんな良かったから。絶対に面白い作品になったはずなのに、なんて残念なんだろう。ドラマの中ではこんなに生き生きしてるひとがもうこの世界にいないということが信じられなかった。

全4話で、最終回の4話目だけが恐らく、春馬君がいなくなってからの撮影だろうと思われる。冒頭の一瞬だけしか登場しなかった。
わたしはストーリーを追いながら、心が揺れて切なさと感動で胸がいっぱいになった。この気持ちを書き残しておきたい。

春馬くんは亡くなる前日まで撮影に臨んでいたそうなので、一緒に撮影していた方々の衝撃はいかばかりだったろうと思う。そんな混乱の中、代役を立てず話数を減らし物語を完結させようという決断をされた。そして出来上がった作品がこの最終回であり、その中には、哀悼と後悔と祈りのような様々な複雑な思いが随所に見て取れた。何が春馬くんへの追悼になるのか、視聴者に何を伝えたいのか、とてもとても考えられたであろうことが伝わってきた。物語そのものに対しても、春馬くんに対しても誠実な作品に仕上がっていた。そこに感動したのだ。
伝えたいことがあれば、歌手なら歌に、ダンサーならダンスとして表現するのが本筋であるように、カネ恋スタッフは、春馬くんへの思いもすべて物語の中に入れ込んだ、その姿勢が真摯だと感じた。
ドラマを見ての感想は100人いれば100通りだ。だが、少なくともわたしは、とても大切に思いを込めて作られたものだと感じた。

わたしは、最終話はどうにかこうにか話につじつまをつけて無難に終わらせるのだろうと思っていたが、まったく違ったのだ。あえて現実の世界の彼の不在をなかったことにしない、むしろリンクさせ、誤解を恐れずに言えば、いい意味で活用していた。

3話の終わり、玲子、大失恋で大泣きの夜。慶太は玲子をなぐさめるうちに、ふとした弾みでキスをしてしまう。慶太は玲子母子の古民家に居候の身だが、翌朝ふらっとどこかへ出て行ってしまう。
現実(リアル)の喪失感と、物語の中での帰ってこない彼、その喪失感を重ねてある。現実とフィクションの2重写しになっている。ひとつひとつのセリフや演出が、物語のセリフとして生き、同時に現実の彼へのメッセージともとれる。フィクションと現実がからまって同時進行で進んで行くのだ。

もともとしばらくの間の約束だったから、いなくなったのは「新しい居候先でも見つけたのかしら?」と玲子があきれていたり、「迷惑かけられたけど、憎めない」と同僚に言われたり、父は「あいつは人を笑顔にする力を生まれたときから持っていた」と語る。
なかでも慶太を溺愛している母(キムラ緑子)が、慶太のスーツを抱きしめて「ママはいつだって慶ちゃんの一番のファンだからね」というシーン。見事にダブルミーニング。
物語の中の慶太のキャラとしてはおかしくないセリフであり、異常な過保護の母のセリフとしてはおかしくない。けれど、役のセリフであると同時に彼への思いを伝えている。自然でわざとらしくないのだ。
脚本、演出の力で稀にみるドラマになったと思う。

この物語は、玲子と慶太のラブストーリーのほかに玲子の父との関係の修復という課題もあったため、それも終わらせないといけない。疎遠になっていた父に玲子は鎌倉まで会いに行く。本当はきっと慶太と行く物語になっていたのだろうと想像できるが、同僚と慶太のペットロボットの猿彦さんと小旅行をする。父と再会の末、和解することが出来た。

ところで一番大切なことだが、これはラブストーリーなのだ。
代役を立てずに玲子と慶太のラブストーリーを終わらせるってどうやるの?と思っていた。
そして、そこのところがまさに、情感たっぷりに作られていた。
玲子はキスされて意識せずにいられない。彼の心がわからない。彼のいない時間に彼のことを話し、彼のことを考えれば考えるほど思いが深まるという展開にしたところが秀逸。慶太がいないことにより、ゆっくりと恋心に気づいてゆく玲子の心の変化を追ったものになっていた。
もしかしたら、それをむりやりと思うひともいるかもしれないが、わたしはナチュラルに感じた。それは松岡さんの演技力あってのことだが。
月夜の縁側で猿彦さんを抱いて、「わたし、寂しいみたいです。会いたいみたいです。」と、問わず語りに語る。秋の虫の声がする夏の終わり。
だんだん眠くなってきた猿彦さんはまぶたがゆっくり閉じて行く。
「今日は長旅でしたからね。疲れましたね。」と、子供をあやすように寝かしつけるように猿彦さんを優しく抱きしめる玲子さん。これが、本当に優しく安らかな眠りを願うように見えて、しみじみと哀しかった。

この猿彦さん。玲子と慶太が勤めている玩具メーカーで売り出し中の家庭用ペットロボットのこと。(LOVOTのこと)黄色いペットを慶太は猿彦さんと名前をつけていた。
初回を見た時、TV局とメーカーコラボの商売っ気を感じたが、まさか最終回でこれほどまでの大活躍を見せるとは。あのドラマにあの子がもしいなかったら。。。猿彦さんがいて良かった。猿彦さんの無邪気さが哀しい。
古い古民家のふすまにガンっていちいち当たるのもかわいい。
最終話ではロボットの猿彦さんは慶太の身代わりとして、色んなひとの元でいい芝居をする。猿彦さんは慶太のペットだということをみんなが知ってるため、猿彦を見ながら慶太のことを話すのだ。
逝ってしまったしまったひとの残されたペットといえば、めぞん一刻の犬の総一郎さんを思い出すが、この最終回では、子供みたいなペットロボットが、キーマンだったと思う。

そして最後のシーン。
翌朝。彼が帰ってくるのだ。誰かがガラガラと古民家の玄関を開ける。
猿彦さんがすぐにご主人様のお帰りに気づいてきゃっきゃと大喜びする。
現実がフィクションで、フィクションが現実であれば良かったのに。
そして玲子は微笑んで慶太を出迎える。このラストシーンの松岡さんの表情が素晴らしい。
自分の気持ちに気づいた玲子としてはじめて会う慶太へのテレと、現実の松岡さんとして逝ってしまった春馬くんへの気持ちが混ざったような、非常に複雑な、それでも全部受けとめたような笑顔。

本当のところ、現場がどうだったかはわからない。
けど、どれだけ懸命に考えられ手を抜かず作られたかは伝わったし、制作陣の愛と心意気に大感動の夜だった。

放送当日の夜、興奮してなんだがわからない記事を書いたきりだったので、改めて気持ちを書いておきたかった。もっと早く投稿したかったのに、5日もかかってしまった。
脚本 大島里美 プロデュース 東仲恵吾 演出 平野俊一 木村ひさし
最近のTBSドラマはすごい。

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