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第1章 決算書を読みこなすためのコツ


7.「損益計算書」の基本的なしくみ



損益計算書の役割

 損益計算書は、1事業年度中の利益を報告する経営成績表です。
 損益計算書の利益(経営成果)は、稼ぎ方(収益)から、収益を得るために要した工夫や犠牲のコスト(費用)を差し引くことで計算します。

 損益計算書の収益および費用は「発生主義」の原則により、それらの事実の発生に基づき、その発生した期間の計算に含めます。企業会計は、現金の出入りで記録する現金主義ではなく発生主義を原則としているのです。

 そのため売上代金の回収に関係なく、顧客に商品を引き渡した時、あるいは顧客に対するサービス(役務提供)を完了した時に売上高に計上します。
 また、代金の支払いに関係なく、得意先とゴルフをご一緒すれば交際費、特売チラシを作成すれば広告宣伝費、得意先と喫茶店で商談をすれば会議費などの費用に計上します。

損益計算書の基本的なしくみ


収益は会社の「稼ぎ方」

 収益とは会社の「稼ぎ方」です。
 稼ぎ(収益)のすべてが儲け(利益)として残るわけではありません。
収益と利益は全く意味が異なりますので、言葉を区別しておきましょう。

 損益計算書の収益には、次の3つの種類があります。
1.売上高(本業における営業上の収益」)
2.営業外収益(受取利息、受取配当金など財務的な金融上の稼ぎ)
3.特別利益
(固定資産売却益、投資有価証券売却益など臨時で巨額な当期だけの利益)

 売上高については、原則として、会社の定款に記載している本来の事業目的から“実現”した収益を計上します。1年間の売上高である年商は、会社の「経営規模=スケール」を表わします。基本的に、売上高が大きい会社は、大きな商売をしていると判断できます。
 売上高には、商品や製品の売上高、サービス(役務)提供による売上高、業種によっては手数料収入なども含まれます。

 売上高は「 (Sales)=(価格)×(数量)」で計算できますから、会社の販売戦略の結果が表われる数字です。
 たとえば「プレミアム商品の限定販売」という戦略で、高付加価値商品を限定数量だけ市場に提供することもあります。
 反対に、「薄利多売」の戦略により、価格を抑えた商品を大量に流通させることで売上アップを図るなどの方策も考えられます。
 まさに会社の販売方針と市場戦略の成果が売上高であり、マーケティング力が問われます。

 また、売上高を従業員数で割った「1人当たり売上高(=売上高÷期中平均従業員数)」の大きさも大切です。1人当たり売上高が大きい会社ほど、少数精鋭で稼ぐ力のある会社だといえます。
 このように、売上高は会社の経営規模を表わす重要な数字です。しかし、売上高が巨額でも利益が少ない会社は成長しません。
 そのため売上高だけではなく同時に利益の大きさも見ることが大切です。

費用は稼ぎを得るために費やした用役

 費用とは収益を得るため費やした用役であり、稼ぐための工夫や犠牲のコストです。損益計算書の費用には、次の5つの種類があります。

1.売上原価
 (当期中に売上計上した商品の仕入原価、売上計上した製品の製造原価)
2.販売費及び一般管理費
 (商品・製品を販売するための諸費用、会社を管理するための諸費用)
3.営業外費用(支払利息、為替差損などの財務的な金融上の費用)
4.特別損失(臨時で巨額な当期だけの損失)
5.法人税、住民税及び事業税(当期の税務上の所得に対する法人税等)

 「売上原価」とは、当期中に売上計上した商品の仕入原価、売上計上した製品の製造原価です。売れた分だけ!です。
 売上高と売上原価は対応させる必要があります。

 製造業は、単に商品を仕入れて売るのではなく、原材料から調達し自社工場で加工製造し、または外注加工先に製造を委託します。
 そのため製造業では、材料費、外注費、労務費および経費など製造原価についての計算明細書である「製造原価報告書(Cost Report、略してC/R)」を作成し損益計算書に添付します。

 「販売費及び一般管理費」は、商品・製品を販売するための諸費用、会社を管理するための諸費用で、販管費「ハンカンヒ」と略して呼称されます。
 販管費については、内訳明細書を作成して損益計算書に添付します。

 「営業外費用」は、支払利息、為替差損、手形売却損などの財務的な金融上の費用です。

 「特別損失」には、固定資産売却損、固定資産除却損、投資有価証券売却損、災害損失などの臨時で巨額な当期だけの損失が計上されます。

性質の異なる4つの利益

 損益計算書では、これら収益と費用を対応させることにより、
1.売上総利益(=売上高-売上原価)
2.営業利益(=売上総利益-販売費及び一般管理費)
3.経常利益(=営業利益+営業外収益-営業外費用)
4.当期純利益
 (=経常利益+特別利益-特別損失-法人税、住民税及び事業税)
という性質の異なる「利益」が表示されます。


 損益計算書は、会社の経営活動で儲かった(Profit)項目と損した(Loss)項目を一覧にした利益の計算明細書であり、プロフィット&ロスステートメント(Profit & Loss Statement、略してP/L)と呼ばれています。
 損益計算書を見ることで、経営活動の詳しい内容とともに、その結果、「儲かったのか」あるいは「損したのか」を読み取ることができます。


<問題>

次の文章のうち、「損益計算書」の説明として誤っているものは ?
1.損益計算書の収益(稼ぎ方)には、営業収益、営業外収益、特別利益の3つがある
2.損益計算書は、収益から費用を差し引くことで利益を報告する「経営成
績表」である
3.損益計算書の収益と費用は「発生主義」の原則により、発生した期間に含められる
4.売上原価とは、当期中に仕入れた商品の原価または製造した製品の原価である


<正解>
1.○ 
2.○ 
3.○ 
4.× 売上原価とは、当期中に仕入れた商品の原価または製造した製品の原価である
→ 売上原価は当期中に売上計上した商品の仕入原価、売上計上した製品の製造原価です

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