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眠れない夜は眠っちゃいけない夜

眠れない夜。天井にうつる車のライト、窓の外の虫の声、横たわる肢体にふとんのひんやりとした気持ちよさ、扇風機の風にそよそよ揺れる毛、ぴー太の多すぎる寝返り。

普段寝る前は本を読むので、眠れない夜を意識することはほとんどない。
でもときどき、自分の思考がうるさくて本を読む気になれず、かといって眠いわけでもなく、規則正しい時間に必ず寝るぴー太をひとしきり邪魔したあとはやることがなくて、ぼーとしている夜がある。

何をどうしても
眠れない夜は
何がなんでも
眠っちゃいけない夜さ

竹原ピストルの『Forever Young』という曲を思い出して、まあいっかと開き直る。

眠れないことに焦っている日もあるけど、なんとはなく、ただ夜に身を委ねているだけの今日。

カエルはなぜ1匹鳴くと、いっせいに鳴きはじめるのだろう。目が慣れると、どうして夜は薄い青になるのだろう。こんな時間までライトを明滅し続ける車にはどんな人が乗っているのだろう。そして、夜にしか練習しないラッパーを窓からこっそり覗くと、ママチャリに子を乗せていたときのおどろき。(妹かもしれない)

あふれる夜の不思議とともに、瞼は閉じない。思考は冴えて、部屋の中に垂れる夜のとばりは美しい。このまま、ずっとがいい。朝などこなくていい。後ろ向きな気持ちからではなく、はっきりと澄んだ気持ちでそう思う。

そういえば、「明けない夜はない」ということわざか何かがあったけど、なぜ夜が悪いことのようにされているのだろう。と、ずっと思っていた。
でも、調べてみたら、「朝は必ず夜になり、夜は必ず朝を迎える。それと同様にいつかは必ず好転する状況が来る」という意味らしく、シェイクスピアのマクベスのセリフが元だとか。

そうか、朝は夜になる、夜は朝になる、状況は切り替わるって意味なら、夜が悪いこととされてる訳じゃないのか。と、妙にほっとした。

目を閉じて鼻から息を吸い込むと、自然に頭が揺れはじめ、濃い草の匂いと、真っ白な夏の光で満ちた庭をみつめてから部屋に入れば、いつだって世界はすっぽりと淡い影に包まれてしまい、まだ小さな体をした子どものころのわたしはその青い闇のなかでじっと横たわっていた。


川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』の一文を思い出すような、夏の夜。

それにしても、眠くない。
コーヒーだな、昼間の2杯のコーヒーだな。

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