犬井作

小説を書いたり小説を書いたりしています。 カクヨムとかpixivで連載しています。 数…

犬井作

小説を書いたり小説を書いたりしています。 カクヨムとかpixivで連載しています。 数年前に「織田作之助青春賞」で最終選考に残りました。

最近の記事

素晴らしき哉、復讐!

 大蛇が野うさぎを食べていた。茂みの影のなかで、白くて小さな愛らしい影が飲まれていく。ツツジは刀の柄を強く握った。これは自然の摂理だ。邪魔してはいけない。この世はいのちを食い食われる場所だ。しかし山は奇妙なまでに静かだった。この風景をどうしても見せようとしているようだった。  強い胸騒ぎがしてツツジは走った。丘を下り川を越えたところで黒煙が見えた。芒野を抜けると家が燃えていた。サクラが夕食の支度をして待っているはずのわが家はいまにも崩れ落ちそうだった。ツツジは叫びながら荷物を

    • 流れよ我がsperm、とおれは言った

       恋愛には金がかかる。好きな相手とヤりたいことをヤろうとしても、生身で好き放題できる時代じゃない。メンタルはオスでも身体は中性。生まれたときから去勢済み。おれにはペニスが必要だ。恋人を満足させられるような。 「巨根がほしい。デカイやつだ。相手を満足させられるやつ」 「ジャック、フィットネスが一番大事だ。相手のサイズはわかってるのか。インチでも号でもいいけれど」 「わからない」 「なら、まずは現実を知ることだな」  ドクターはカタログを取り出した。ショート、ミディアム、トール、

      • 「燃ゆる女の肖像」感想(前編)窃視の時代を生きた女性の姿

        総評(ネタバレなし感想) この映画は愛の映画だ。誰かが、誰かをおのれの世界に受け入れることのうつくしさを描いた映画だ。しかもそれを、身体という次元と言語という次元にまたがって生きている人間存在を描きながら表現したおそろしい映画だ。 そしてこれは、女性の映画で、同性愛の映画だ。自覚的に女性の抑圧を時代背景として取り入れながら、しかい映像では決して直接は映さず、行為を通じてその抑圧を表現しながら、現代よりもはるかに厳しい抑圧のなかで生きた同性愛者の女性のすがたを伝えた。 傑作だ

        • ありがとう、お疲れ様、庵野監督、エヴァンゲリオン。

          シン・エヴァ視聴後の感想+自分語り エヴァンゲリオンが終わった。 3月8日に我慢しきれず見に行った。 はじめてエヴァを好きになれた。 二次創作を二本書いた。 今日までふせったーでさんざっぱら感想を書いてきたのでこんなの書く必要ないのだけど、心の整理がようやくついたよ、と記録する目的も込めてタイプする。 ようやくエヴァンゲリオンというコンテンツを好きになれた僕をここに記すことで、あの映画の本質に対する自分なりの考えとしたい。 ○ エヴァンゲリオンは何だったか。誰かが、鏡だ

        素晴らしき哉、復讐!

          押井守は「押井守」を更新した。

          押井守の新作の特報映像を見た。その興奮のままにこれを記す。  押井守はスタンリー・キューブリックを指して、彼がある時から過去の自分の作品をするようになったと述べた。映画監督はそうなったらおしまいだ、とも。  翻って彼がリスペクトを払う映画監督ジャン・リュック=ゴダールを見ると、ゴダールは常にゴダールを含む創作物を引用しながらゴダールというイメージを更新している。  押井守がほんの3分弱の特報で達成したことは、このゴダールの行いだった。押井守は、押井守の手で「押井守」を─

          押井守は「押井守」を更新した。