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【長編小説】カットバンド #3 「Get Back...」

やあ、日野あつしです。
段々と湿り気をます5月後半、春の気配が去る季節になってきたけど、俺は今、ある場所に向かっている。その場所とは……

タイ料理店の「ドントリー」と言うところ。
普段の俺であればタイ料理なんて興味が無いけど、今日用があるのはそこにいる男である。
着いた。言われた住所はここであっている。ドアに書いてある、店名も……
「ドントリー……よし、ここに間違いない。」

「…………。」

ドアは結構重かった。音も立てずに開くドア。
入ると、化粧は濃いめ、歳は30から40くらいの人がカウンターに立っていて、俺に
「こんにちは〜。」と話しかけできたので、
会釈をする。そして
「あの〜、今日みそらさんっています?」
と告げると、
「ああ、少年の友達ね、少年なら地下だよ。」地 下 ! ?
どうやらここの地下には何かあるみたいだ。
ワクワクしながら、エレベーターで階を下がる。すると、そこには、ライブハウスがあった。タイ料理店とは、表向きの姿だったのか。
ライブハウスには開店前のようで、店員さんが数人と、バンドマンが数人……みそらさんの姿はない。キョロキョロしてもみそらさんは居ないので、頭をかいてみる。店員の人が話しかけてきてくれた。
「あの、バンドの方ですか?」「違います」
無言が続く。店員の人も少々困惑を見せる。
「少年のお友達だって。呼んできてあげて?」
「あっ、カリスさん!お疲れ様です!」
「カリス?」
振り向くと、そこにはさっきの人。名はカリスと言うらしい。
「少々お待ちを……みそらーーー!おい!引きこもり!出て来い!」
どうやらみそらさんは、あまり尊敬はされてないようだ……。
「へーい……。おっ、来たか。」
ようやく出てきたグラサンにスーツの男、
外村みそら。俺をバンドに入れてくれた恩人?である。
「他のメンバーは、まだ来てないんですか?」
「ああ、みんな辞めたよ。」

「はっ?」

「辞めたんだよ、いわゆる『音楽性の違い』ってやつ…」
「そんなバカな」
「ま、要はケンカだよ、よくあることだ。」

「俺がお前をメンバーに勧誘した時に、ドラムのメンバーが二人居たんだよ。」
「ほう」
「片方は俺のよく知るヤツで、もう片方は、勝手に参加してきた男。もう片方の奴が入ってきてから、バンドメンバーの仲が険悪になって行ったんだ。」
「はあ」
「そうして、最後にはその男と俺だけになった……。俺は残ったそいつとはうまくいかなかったんだ。」
「そしてケンカして、そいつも居なくなった。
まあ、厄介払いできて良かったかもな。」
「な、なら今バンドメンバーは」
「俺とあつしだけだ。」

なんてことだ。俺は、1人しかいないバンドに参加してしまったのか。
「ど、どうするんすか!?」
「ま、そう荒ぶるなよ。メンバーの目星なら付いてる。」
「そ、そうなんすね、安心しました。」
なんだ、メンバーは呼べるのか、と安心したのも束の間。
「ま、全員もう引退してる奴だけどな。」
終わった。引退してるじゃん。引退してる人なんてみんな、忙しいだとかそういう理由で辞めた人じゃん。

「大丈夫だ、問題はない。今日呼んだのは他でもない、そいつらを連れてきて欲しいからだからな。」
「何も大丈夫じゃないです、どこの誰を連れてくればいいんですか?」
200万のギターを買って貰った手前、断ることなんて出来るはずがなく。

「よし。これが連れてきて欲しい奴の資料だ。ちゃんと目を通しておいてくれ。」

「うわっ、目のクマ凄いな、指名手配犯かなにか?なになに名前は……『後田つくし』?変な名前だな。女みたいだ。」
「それ、俺の前で言うか?」
「みそらは別に良い名前じゃないですか。」
「……。」
「歳は16で、身長は168cm、誕生日は9月……この辺は別にいいか。えーと、ドラマーで、ネクラで、通ってる学校は……、
『T西高等学校』。ここから6キロはあるな…。」
「ああ、そうだな。」

「ん?」

なんだか、嫌な予感がする…。


「……ここがT西高等学校か、考えても見れば初めて来るなあ。……そりゃそうか、来る必要ないもんな。」
早速俺は、後田つくしとかいうやつの情報収集を開始した。と言っても、どこにいるかってことさえ分かればいい。直ぐに終わるだろう。
そう思い、部活中の生徒に声を掛けた。
「後田つくしって人知ってますか?」
「誰?」

「ごめん、わからないや。」

「そんな事よりも、君、囲碁に興味無い?」
「ないです」

「えっ、なんか聞いた事あるくない?あるよね?えーっ、でも…。」
「でも?」
「忘れちゃった!」
「…………。」

「知らないなあ。先生とかに聞いてみればいいんじゃない?」
「それだ!」
ということで、制服を借りて、先生に聞いてみることに。
「後田つくしって生徒知りませんか?」
「知りません。別学年じゃないですか?」

「いやー、知らないね。非常勤に聞くよりも、教科担当の方とか、担任の方に聞いた方がいいんじゃないないの?」

「後田つくし?うーん。確か、2年2組にいたと思うよ。」

ビンゴだ!

「ビンゴ!」

「ビンゴ?」

「あ、いや、なんでもないです。」
2時間にわたる捜査の結果、ついにクラスを割り出すことに成功。校内は結構に広くて、疲れた。今は部活の時間のようだし、居ないと思うけど、教室に見に行ってみよう。ついでに机も確認もしておこうかな。
「ここが2年2組の教室か〜。」
ドアに触ると、なんと鍵が空いている。
「お邪魔します!!」
人も居ないだろうし、大声で侵入してみた。
すると、椅子と机がガタッと動いた。
ぽ、ポルターガイスト?そう思ったが、違った。人が居た。そいつは、大体身長は170弱くらいで、目に凄いクマをつけた……。
ああ、こいつが後田つくしだな?
「すいません、みそらさんに言われて来たんですけど……。」
「み、みそら!?」
「はい。友達の方ですか?」
「あっ、いや、そんな…もう、違います…。」
「もう?」
気になる。どうもみそらさんを知ってるようだ。もう少し、踏み込んでみよう。
「何かあったんですか?」
「あっ、そんなことは…いや、えっと。」
「ハッキリしてくださいよ。」
「ひっ、そ、そそ、そんな、こ、ことと、こと、はな、ななな、な、」
「ちょっとちょっと、落ち着い​─────
「ご、ごめんなさい!!!」
「ちょっ、ちょっと!?」
なんと、咄嗟に荷物を抱え、ダッシュで逃げてしまった!

これは、長引きそうだ…………。

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