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【見栄】見栄を張るのは死ぬまでやめられない

あるところに見栄っ張りな若者がいた。その若者はまわりからよく見られたいがために、高い服や時計をしていた。そして週末になると、その服を着て飲み歩くのが日課だった。高い服を着ている手前、安価な居酒屋ではなく、お金のかかるおしゃれなバーに通っていた。そして、そうしているうちに返しきれないほど借金がかさんでしまった。

男はこの借金をどう返すべきか考えていると、バーのマスターから聞いた町一番の大金持ちの話を思い出した。そして、その大金持ちのところに行き、お金を稼ぐ方法について教えてもらおうと思い至った。

男は早速実行に移し、大金持ちの家に向かった。大金持ちの家に着くと、そこにあったのは信じられないぐらいぼろぼろの家だった。男は「本当にここがその大金持ちの家か?」と不思議に思ったが、その家の扉をノックすることにした。

「すみません、ここに町一番の大金持ちが住んでいると聞いて…」

男が家を訪ねると、すぐに粗末な恰好をした老人が出てきた。

「いかにも、私が町一番の大金持ちだ。」

「本当に?どう見てもお金を持っているようには見えないが…」

男が訝しんでいると老人は言った。

「人を見かけで判断するものではない。見かけばかりに囚われているから、君はそのように高い服に大金をつぎ込む見栄っ張りな人間なのではないか?」

会ってまもない人間に自分の見栄を言い当てられ、男は何も言い返せなかった。そして、この男は只者ではない、本当に町一番の大金持ちなのだろうと思い、老人に質問した。

「町一番の大金持ちであるあなたに聞きたいことがあるのです。私はこの見栄のせいで借金が膨らみ、大変困っているのです。お金を貸してくれとは言いません。お金を貯めるコツだけでも教えてくださいませんか?」

老人は言った。

「お金を貯めるのは簡単だ。使わなければ自ずと貯まる。だが、その見栄を捨てることは難しいだろうな。見栄というのは死ぬまで治らない。世の中には見栄で身を亡ぼす人間がいるのさ。」

それから幾月が経っても、男は自分の見栄を捨てられずにいた。貯金をすると決心しても、結局見栄のために、貯めたお金を使ってしまうばかりであった。そして、その日も高い服を着て、町にあるおしゃれなバーにいって酒を飲むことにした。バーについて酒を注文していると、マスターが世間話を始めた。

「そういえば、以前、町一番の大金持ちの老人について話したのを覚えてますか?あの人、病気で亡くなったみたいですよ。"町一番の大金持ち" であることにこだわって、食べ物にも健康にも気を遣わず、病気になっても病院に行かない。お金を貯めるだけ貯めて使わずに死ぬなんて、見栄で身を亡ぼす人間なんているんですね。」


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