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教育素人がGIGAスクールネットワークを設計し、運用を見て感じたこと思ったこと

僕が基本設計を担当しました北海道森町のGIGAスクール。
昨年末(2020年末)より端末の運用がはじまり、つい先日、ネットワークの設定もほぼ完了。これにより本格的な活用がはじまりました。

実際に自分が設計したものがどんな感じで使われていくのか、今回はどうしてもこの目で見たくて、教育委員会へお願いし、現場見学させてもらいました。情報担当の目線で構築に関する考えや、学校での活用をレポートしたいと思います。

どんな端末を、どうして選択したのか

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森町ではiPadのLTEモデルを導入しました。

学校ではキャビネットを導入し、輪番充電(時間差で充電を行う)機能などを備えています。元々のGIGAスクール構想では校内で1人1台というような考えでしたので、こうなりましたが、現在の情勢も相まって、基本的には「持ち帰り」が前提になりつつあります。

さて、どんな端末を選択していくかという議論に関しては、とても多くの時間が費やされました。最終的には

「大切なのはソフト面」であって、「どんな環境・どんな端末」であったとしても共通して使えるのが一番。

という考えを前提とし、端末はどんなものでも良いというのが基本概念です。表向き。でも、正直いうと、これから先を想像したとき

修学旅行や遠足、子供たちがいろんな場所で使うことを考えると
どうしてもラップトップを持って走り回ってる姿が想像できなかった

んですよね。

またもう一つ、LTEモデルにした目的ですが
・子供達がWiFiという呪縛に縛られ、行動が狭められてしまうのは悲しい
・すべての家庭でWiFiを設定できるわけじゃない
・学校内の授業でも決して通信を止めない(強い決意)
の3つが大きな目的となっています。

キーボードについては、さまざまな考え方があり、森町でもキーボードがついています。個人的には、我々世代が使い続けてきたレガシーツールを、これからの子供達が「全員が使う」というのは、これからの時代に対して、僕らの押し付けなんじゃないか?とも考えますが、一方で、キーボードも含めて使いやすい入力ツール(音声も含めて)でやればいいじゃない、とも思ってるので、結果として良いのかなと考えています。

正直このへん、端末に関しては、さまざまな「信仰」によりけりなので、他の端末(というよりもOSかな)がどうのってことではありません。僕としては、一応全部検討・検証しましたし。それぞれいいところがあります。どれも良い。

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ネットワークって実際どうなの

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実は森町では、数年前より、学校のサーバーレス環境に向けた構築を進めており、また、子供たちも今後はどこでもパソコンなどを使うようになるだろうという見込みのもと、ネットワークづくりを行っていました。しかし、この整備の中で発生していた問題があります。

インターネットがほとんど機能しない

というものです。

ざっくりいうと、クラウドを前提にしたネットワークはとても負荷が高く、一般的にいう「インターネットの下り速度」が早ければ良いというものではありません。ネットに接続する要求をいかに安定・素早く処理することができるかが重要です。

構築当時は、一番大きな学校でも職員室と子供の端末(Windows)を含めても60台程度しかありませんでしたので、「このくらいであれば十分だろう」という機器を選択していましたが、それが大きな間違いの始まりでした。

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詳しく書くとキリがないので、いろいろと飛ばしますが、その設計のせいで、授業中「調べ物学習で検索できない」「NHK for Schoolが使えない」「そもそもログインできない(クラウドでサインイン)」などなどなどなどなど、とっても教員のみなさん、いいえ、授業を受ける子供達に迷惑をかけてしまいました。

学校の授業は、いまのところ「同時にみんなが、同じことができなければならない」部分がありますので、ネットが使えないというのは大きな問題でした。しかし、単純に「ネット回線を増やす」だけでは解決できないものでしたので、その苦悩たるや・・・思い出したくもありません(笑)

ネットワークは魔物です

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さて、実はWiFiについては、上記問題もありながらの構築、ちょうど今回のGIGAスクールの1年前に整備を開始しておりました。すでに、胃の痛くなる思いをしていたのと、これからの学校は教室以外でも、いつでもどこでもアクセスするようになるだろうという見込みの元、さらには防災の観点からもあり、しっかりしたものを構築しています。

これまでの、検証の結果、学校+クラウドでは、想像以上の、とても巨大なアクセスが発生することがわかっていましたので、当然一般家庭で利用するようなアクセスポイントではまかないきれません。

このため、WiFiについては、しっかりと検証・調査を行い、相応の機器を導入していますが、この辺、一般家庭のネットワークと同レベルで語られてしまうことも多く、なかなか痺れるものがありました。

ずっとちゃんと繋がっている環境を作ることのなんと難しいことか

いろんな市町村の構築担当の方、このへんの説明にご苦労されていることと察しております。ほんとうにお疲れ様です。

このように、辛い思いを多くしてきたこともあり、学校内の授業では決して通信を止めない(強い決意)という思いは人一倍強く、自宅だけではなく授業中でも万が一があればLTEを使えるようにしておきたいということでもありました。

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そんなネットワークもいよいよ(ほぼ)完成。町内の一番大きな学校に協力を得て、昨日簡単な負荷テストを実施しました。細かな結果については、まだまだ検証の余地があるので控えますが、誰もが利用できるGoogleさんの速度調査ツールでは

平時   下り 200Mbps   上り 150Mbps
高負荷時 下り 5Mbps        上り 20Mbps

くらいとなっています。(350台程度が10分間の間に同時アクセス。本数値は教室からMacのブラウザでチェックしたときの端末側のだいたいの数値です。)

さすが高負荷時は「ちょっと息切れしてるなあ」と感じますが、完全に止まってしまうということはなく、また、しばらくはここまでの負荷はかからないだろうとは見込んでいますので、通常使いは大丈夫なのではないでしょうか。ほっとしました。

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どんな授業で使っているのか

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実際にどんなふうに使っているのかを見学させてもらいました。まずは、調べ学習(っていうのかな?)です。

真っ先に感じたことは、『iPadつかってる姿がすごく普通』ということでした。

見学した学校では、実運用始まって実質1ヶ月たっているかどうかだったのですが、想像以上に子供たちは、普通につかっており、「iPadで集中力が切れている」という感じは全く無し。

授業の中では、音声入力や「Siri」なんかも使っていて「え、ここ、公立の小学校っていうか、我が町の小学校なんですよね??」と驚きを隠せませんでした。

あと、スワイプだとかピンチズームだとか、指の動きが普通すぎる。
これ、どういうことかというと「これがiPad様である!!」というあらたまった使い方ではなく、「呼吸をするように」iPadを使っているということ。

僕は日頃から、これからの時代は「息を吸うように」とか「呼吸するように」デジタルデバイスを・・・と言い続けていましたが、すいません。

すでに未来は来てました(笑)

こういう状況をみると、「ちゃんとしたネットワークを想定しつくっておくってすごく大事なこと」なんだなとあらためて思います。

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プログラミング学習ってなんだ?

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さらに、この日は算数の授業も見学。ここではじめて「プログラミング学習」的なものを見ることができました。

算数でプログラミング?と思っていたのですが、ScratchライクなWEB教材で、中央値や平均を求めるためのプログラミングをしていました。ああ、なるほど、そういうことか。

プログラミング学習と呼ばれ、プログラミング的思考と言われ、キーボードがいいのか、タッチがいいのかなどなど、いろんなことが言われてきた「プログラミング学習」ですが、昨日見た感じとっても「ちょうどいい」感じだなと思いました。

全ての子供達が将来的にITに携わる仕事につくわけではないですが、なんとなくデジタルなツールを使うことや、作り手はこんな考え方をしながら構築してるんだなとか、その辺の知識づけとしてすごい良さそう。

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こんな使い方もあるんだ!

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体育の授業でもiPadの活用が進んでいるというので見学させてもらいました。

今回見学したのはダンスの授業(ダンスの授業ってあるんですね!)でしたが、驚いたのは、教員が自身のダンス動画を撮影しそれをレッスン動画として子供達に提供していたこと。

そして、さらには、子供達が踊った動画を集めるための仕組みが既につくられていたこと。こんなに早く子供達って利用方法理解してるんですね。すごい。すごいとしか言いようがありませんでした。

話によると、体育だけではなく、他の授業でもファームを使って授業の振り返りをしていたりとか、Zoomを使った自習的なものとかもやってるみたいです。本当に森町かよ。

やっぱプロは違うな

こういうのを見ていくと、個人的には図工・美術・音楽・家庭科とかでもどんどんデジタルツール使っていってくれないかなあと思ってます。想像力の幅がぐっと広がっていきますよね。

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まとめ

印象的だったのは、見学に行った際に教員が「いやあ、子供たちにはかなわないですよ。ちょっと教えただけでどんどん進み、子供たちに使い方を教えてもらうことも多いです。」と言っていたことです。※ちなみに、以前に出させてもらったイベントでご一緒させていただいた方もおっしゃっていましたね。

僕は教育について素人ですから、詳しいことは分からないですが、このように「大人(教員)も分からないことは、君たち(子供)から教えてもらって学んでいるんだよ」という姿を見せることはある種すごい成功体験を子供に提供している感じがします。とっても素晴らしいことだなって。

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次は、家庭ですね。
子供達がテンション上げて「こんなの学校でつくった!どう、すごくない?」と言った時に「お、おう」と反応するか、「なまらすごいね!!!もっとがんばんな!!!」と反応できるかで伸び方が変わる気がします。

大人の僕たちも「デジタル苦手だからわかんない」じゃなく、「わかんないけどやってることはすごいね」と言ってあげられるような環境づくり、していければなあと思います。

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僕がここ数年の教育分野ネットワークでやったことは、失敗に次ぐ失敗による知見貯め。でもそれが、結果としてこのような使われ方をし始め、とても感慨深いです。もうあんなに辛い思いはしたくないですが(笑)

今回の見学で強く感じたのは、これがこれからの社会だということです。デジタルは遊びのツールなんかじゃない。社会インフラとして、次の世代が自然に使っていくもの。

やはり一つの町で、何かを構築するというのは、大変な苦労もあると思いますし、いろいろな考え方をする方もいます。なので、どれが正解なのかというのはすごく難しいものもありますが、それでも進めて来れてよかった。

最後に一言、言わせてください。

この仕事、関われて最高だな

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