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ピアニストにきいてみよう【鳥のカタログ】no.4

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作曲家わたなべゆきこと、ピアニスト大瀧拓哉の間で行われる、現代に生まれたピアノ作品についての往復書簡です。作曲家の目から見た視点と、演奏家の視点。両方から一つの作品について、深めていきたいと思います。四回に渡って武満徹の「雨の樹:素描」についてお話した後は、変わってメシアン(Olivier Messiaen)の「鳥のカタログ/ Catalogue d'oiseaux」を取り上げます。

ピアニストにきいてみよう【鳥のカタログ】no.1
ピアニストにきいてみよう【鳥のカタログ】no.2
ピアニストにきいてみよう【鳥のカタログ】no.3

だいぶ日が開いてしまいましたが…前回の記事、当時の歴史的背景や社会情勢、メシアンの鳥に対する感覚など、非常に興味深く読ませていただきました。

作曲家の個人的な感覚と聴衆

前回no,3より、少し引用です。

「鳥のカタログ」では、「鳥の声をこう美しく感じる」というメシアンの個人的嗜好が表れている。多くの人間が「鳥の声」を聴くことがあるけれども、そこに美学を感じるのは、彼自身の個人的な感覚なんです。「鳥のカタログが謎」とお話していた理由は、この辺にあるのかもしれません。

なるほど!!これは納得です。
もちろん僕も鳥の声を聴いて、あぁ美しいなぁと思う感覚はありますが、森の中で聴くその感覚と、例えばコンサートホールで音楽を聴いて美しいなぁと思う感覚が僕の中で完全に別のものなのかもしれません。メシアンはもしかしたらその境界線をはっきりすることに意味がないと思っていたのでしょうか。no.1のエマールが”鳥の鳴き声や観察ができる自然空間”の中で鳥のカタログを弾いてる動画が僕にはすごく自然に見えた(聴こえた)のですが、その理由もよくわかってきます。

話が脱線しますが、ゆきこさんの作風も(僕が知る限りでしかないですが、)「個人的な感覚」をかなり大切にしているように思いますが、そういう点でメシアンのこのような傾向に共感するところがあるのでしょうか?気になるところです。

主観と客観、個人性と集団性

興味深いテーマですよね。
メシアンの演奏において、イヴォンヌ・ロリオが主観的で、エマールが客観的な演奏というのは、恐らくですが多くの人が感じやすいのではないかと思います。
しかし、話が少し飛びますが、ロマン派の作品(もしくはロマン派でなくても感情を表に出すような作品)の場合、少し話がややこしい気がします。例えばシューマンって、すごく個人的な作曲家ですよね。クララに対する思いとか、その父との確執だとか、正直傍から見たらどうでもいいような他人の人生の一コマ(失礼)なのに、その音楽は多くの人に共感される、ある意味で集団的なものがありますよね。(多くの人がシューマンの意図の深いところまで共感しているかは別として。)

演奏においてもそのようなことがあると思っています。僕の最大の理想は、主観なのか客観なのかよくわからない演奏だと思っています。個人的な感性をぶつけているようでいて実は客観性を全く失っていないというか。
例えばそれはグールドのバッハであったり、ホロヴィッツのスクリャービンであったり…。

グールドを聴いているのかバッハを聴いているのか、ホロヴィッツを聴いているのかスクリャービンを聴いているのか…作品と演奏者が溶け合っていると言っていいくらい、演奏者が作品を自分のものにしている感覚が最高だと、僕は感じます。

主観と客観②

それとは別の意味でも、演奏する上で主観と客観はありますよね。例えば作品を解釈する上で客観的というのは、全体の構造を捉えるとか、どう構成していくとか、もしくは明らかに人間の声のようなものではないものの描写であったりだとか、だと思います。
例えばそれは、映画を観ていて構成とか、映像の色使い、構図などを気にするか、もしくは演じられている役の気持ちになって感情移入するか、ということでもあるのかなと。

僕自身の現代曲のレパートリーは現代音楽の中でも比較的感情的なものが多いので、鳥のカタログのように鳥の鳴き声という極めて客観的なものを中心に曲ができている(むしろ人間の感情が入る隙がない)作品に対して、不思議だと思っていたのは納得がいきます。

こんなことを書いてるうちに、自分の好みとか、どうやって音楽聴いているかが自分自身だんだんはっきりしてきました…。
no.1で話題になっているような、自然の空間の中で演奏されたり、雨の日に聴く武満徹の雨の樹など、環境によってその音楽の新たな魅力を感じられる可能性を強く感じてきました。是非実現していただきたいなぁ…


これまでの記事
ピアニストにきいてみよう。【雨の樹素描】no.1
ピアニストに聞いてみよう。【雨の樹素描】no.2
ピアニストにきいてみよう。【雨の樹素描】no.3
ピアニストに聞いてみよう。【雨の樹素描】no.4
ピアニストにきいてみよう。【鳥のカタログ】no.1
ピアニストにきいてみよう。【鳥のカタログ】no.2
ピアニストにきいてみよう。【鳥のカタログ】no.3
ピアニストにきいてみよう。【鳥のカタログ】no.4

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