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ピアニストにきいてみよう。【雨の樹素描】no.4

作曲家わたなべゆきこと、ピアニスト大瀧拓哉の間で行われる、現代に生まれたピアノ作品についての往復書簡です。作曲家の目から見た視点と、演奏家の視点。両方から一つの作品について、深めていきたいと思います。一曲目は、武満徹の「雨の樹素描/Rain Tree Sketch」。
※今回は無料記事になります。観念的な面から具体的な楽譜の読み方、演奏法など、様々な角度で作品を掘り下げています。作曲家、演奏家、愛好家、様々な立場から楽しめる内容だと思います。是非、有料記事のno.1no.2no.3もご覧になって下さい。

(続)作曲家は自身の作品を知っているのか

「作曲家が自身の音楽を知らない」ことがあるって話(no.3より)で、昔観たこれを思い出しました。バーンスタインがウエストサイドストーリーをリハーサルしてるドキュメンタリー。(日本語がYouTubeに無くて残念)

1:43辺り〜のバーンスタインの「僕はこのスコアを今まで一度も勉強していないんだ。毎日勉強しなきゃならない」って言葉。これはもう衝撃でしたね。この場合は指揮だから、ゆきこさんが言ってるのとは少し違うかもしれませんが、とても興味深いですよね。バーンスタインがバーンスタイン振るときなんて何も考えずに自然に出来ちゃうもんだと、当時僕は思っていました。ましてや人の作品を振るときと同じように勉強するだなんて。

日本語でもDVDで出てます。

このドキュメンタリー、あのカレーラスがバーンスタインにダメ出しされまくって絶望してるところとか(それでも最後にはばっちり決めてくれる!!)、見所満載でとっても面白いですよ。

話脱線しました。

モチーフってなんでしょうか。「〇〇という名前を付けられた何か」であると思うんです。そして、その何かは名前をつけられた途端に、零れ落ちてしまうものでもあると思います。

なるほど、僕が前回(no.2)〝ドイツ的に記号化されたもの〟と言ったものでさえ、それに含まれるということですね。
言葉にできないから音楽になるわけだと思うし、それを感じる、考える側もイメージするものは決して統一されないし、それはむしろ作曲家本人でさえ、ということでしょうか。僕は作曲できないので(興味はすごくあります)、非常に興味深いです。

雨の樹冒頭、小節線

さて、いただいた質問についてです。

演奏する際に、この小節線はどう表すんでしょうか。

(こちらは譜例です↓ 冒頭1段をご覧下さい。)

~楽譜には、小節線が書かれているのですが、これは拍子ではないんですよね。だって、よく見てみると、冒頭にテンポは書かれているけど拍子が書かれていない…~

とても現実的で味気ない答えになりますが…笑

このようなものは、逆に考えるとわかりやすくなります。

例えば
①小節線が全くない場合
②各小節に拍子が全て書いてある場合

そう思うとだいぶ印象が変わりますよね。
ピアノで弾かなくても、指揮してみると何となくイメージしやすくなると思います。
①の場合、打点を作っちゃいけない感じがしませんか?手のひらで綺麗に曲線を描きたくなる感じ、でしょうか(僕は指揮できないですが、想像です)。
逆に②のように小節線だけでなくぎっしり拍子が書かれていたら、厳格にリズムを示してしっかり打点しようとすると思います。春の祭典的になってしまうかもしれません。

曖昧な言い方ですが、この武満の書き方は、その①と②の中間のような弾き方になると思います。軽〜くボールが弾む程度の打点(パルスと考えていいかも)と、留まることなく先にフワフワ浮遊していく感じ、でしょうか。


試しに①と、楽譜通りの2パターンで演奏してみました。(この曲を春の祭典のようには弾けないので②は割愛)

違いは微々たるものかもしれません。でも奏者からするとダイナミクスの作り方や意識までだいぶ変わってきます。パルスの取り方が変わるので具体的に「どこをどう強く」とかでなく、体で感じる〝揺らぎ〟のようなものも変わってきます。

このような拍の明確さ曖昧さ、フレーズの作りというのはやはり言葉から来るものだろうというのは想像が付きます。フランス語と日本語って口語の場合、響きというか、あまり抑揚がなくなんとなく続いていく感じが少し似てる気がします。ドイツ語は発音がはっきりとしているし、フレーズが明確ですよね。ドイツ語圏出身の作曲家ではこのような音楽にはならないのだろうなぁと想像します。

記譜、楽譜の読み方って難しいし奥深いですよね。この武満の書き方は、演奏家にそう考えさせるための書き方なのか、自然とそうなるものなのか…どうなのでしょう。演奏家としてはとても気になるところです。是非そんなところも、ゆきこさんから聞いてみたいです。

2020.5.17 大瀧拓哉


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