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「ランニング依存症・中毒」という考え方~運動依存・中毒の文献から

 「依存症・中毒・・・」

 それは何も麻薬やギャンブル、アルコールやスマホなど「これは明らかにハマるとマズい」というものに対してだけ、あるわけではありません。
 研究中毒(studyholism)、仕事中毒(workaholic)など、逆にハマった方が成功するのではないか、社会的地位が得られるのではないか。と思われるものも存在します。
 同様に運動にも依存症・中毒なる考え方があります。そしてランナーもこれに陥る可能性があります。
 運動が「おっくうで、おっくうで仕方がない」という方からみたら、うらやましく思えるかもしれません。確かにほとんどの人は、走っているときは生き生きしていて充実しているように見えると思います。ですが走ることに依存してしまうと、走っていないときに強い孤独や不安を感じたり、怪我していても走らなければいけない焦りを感じることになります。
 依存症だから即治療などの対策が必要であるとは思いません。多くのランナーはランニングに強く依存することで目標達成しています。でもコロナで大会が中止になったときに、怪我で走れなくなった時に、社会的に孤立したときにはじめて問題化します。ピンと来ない人も、一応依存症・中毒というのもあること、そんなことを言っていた人もいたなぁと記憶して頂けると幸いです。

1.運動依存症のスケール

 主にはフロリダ大学とペンシルバニア大学の先生が作成したExercise Dependence Scale-21 Manualが用いられているようです。

1. 運動量(結果を求めて、運動量ほ増やし続けている)
2. 離脱症状(不安を感じないように運動する)
3. 意図的な効果(予定したよりも長く運動する)
4. コントロールの欠如(運動の頻度を減らすことができない)
5. 時間(自由な時間のほとんどを運動に費やす)
6. 他の活動の減少(家族や友人と一緒に時間を過ごすよりも運動したい)
7. 継続(身体的な問題が繰り返し発生しているにも関わらず運動する)

 上記の項目について各々7段階評価で採点し、7つの基準のうち少なくとも3つで平均5〜6のスコアだと運動依存の危険がありとなります。少なくとも3つの基準で平均3〜4のスコアだと、症状は出ているものの依存性はまだなし。それ以下だと症状もないし依存性もないと判定されます。

 また、DSM-5という精神科特有の診断方法が用いられることもあるようです。自分は専門外なので、よくわかりません(汗)。

2.運動依存症の文献より

 では実際に文献をみてみましょう。
 今年2021年3月のドイツの報告では、18歳から76歳の男性82人と女性58人の持久系アスリートのデータを分析しています。うちわけはランナーが67人、水泳 9人、自転車10人、その混合 24人、トライアスリート29人、ボート 1人でした。結果8人(5.7%)のアスリートは運動依存のリスクがあると判断、93人(66.4%)のアスリートは症状はあるものの依存症とまでは言えない、39人(27.9%)のアスリートは症状はないし依存症でもないと判定されています。
 運動の量をみてゆくと、依存症の人は高負荷で長時間運動している傾向にあることが分かります。

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 別の2019年のハンガリーの報告では、18歳以上の2年以上の走歴のある一般ランナー257人にアンケートをしたところ、依存症のリスクありは8.6%でしたが、依存症でないものの症状のある人は53.6%、症状も依存性もないとされた人は37.8%でした。
 この研究では、教育水準が高く、若いころに運動習慣があった人は依存症になりにくいとあります。逆に孤独や不安を抱えるランナーはなりやすいとあります。孤独な人が、喜びと幸福を得るためにランニングをすることによって、運動依存症になるのではないかと書いています。不安と孤独と戦うためにランナーは、ランニングをますます欲するようになり、ランニングの量や時間をふやすのではないかとのことです。

 文献により差異はありますが、2018年のレビュー論文によると、持久系トレーニングの依存症の有病率はおおよそ3~42%とのことです。

3.運動依存症になるとどうしていけないのか

 運動は本来、健康維持、体力増進の目的で行うものです。そして目標を設けたり、ほかの人との交流を楽しんだり、生活を充実させることもできるようになります。
 ですがそれに傾倒しすぎると、家庭を顧みずにランニングをしたり、仕事に支障がでて職を失ったりするようになるかもしれません。また故障して医師からランニングを止められても、不安やストレスから逃れるために走り続ることを止められない人もいます。
 社会性を失う前に、体を壊す前にしっかり踏みとどまるためにも、ランニングに過度に依存しないようにしなければいけません。

4.運動依存症にならないために

 例えば健康を目的として、毎朝30分程度走る分には問題ないでしょう。
 ただ「速くなりたい!」とか「体重60kgを切りたい!」とか目標ができる
ようになると要注意です。自分の趣味に使える時間内で努力する分にはよいのですが、家庭サービスしなければいけない時間を犠牲にしたり、仕事を犠牲にするようになると、家族や職場・社会から段々とはなれ、ランニング中心の生活になってランニングに依存することになります。
 ランニング生活が充実しているときはよいのですが、怪我をしたり走れなくなった時に無理をして怪我を悪化させたり、焦燥感や無力感を強く感じることになります。

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 健全な心で頑張るには、家族や職場の仲間の協力が必要です。ランニングについて、職場や周囲の仲間から理解を得ること、仕事をしっかりこなす事。走らせてくれる家族に感謝することが大事です。
 またランニングには抗うつ効果があります。ランニングをストレスや不安の解消、寂しい気持ちを紛らわせるために走っていた場合、走れないとストレスが溜まったり寂しさに包まれることになります。走ること以外にも依存先をいくつかもつこと。要は趣味をランニングのみにしないことも大事です。

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 繰り返しますが、依存することが悪いことではありません。人は多かれ少なかれ家族に、仕事に、趣味に依存しながら生活しています。そしてランニングにも多少は依存しないと速くなれません。そして強く依存しないと達成できない目標もあります。ただし依存が中毒とならないように、生活に支障をきたさないようにすることは必要です。要は生活の基盤を失わないように、ランニングだけにのめり込まないように!ということです。
 ただし自分は精神科医ではありませんので、助言が的確でなければ申し訳ありません。

5.日本語のページも、ふたつ程紹介

 最後に、分かりにくかった方のために、他のいくつかトレーニング中毒についてのページも貼っておきます。
もしかしてトレーニング中毒?
 ウィメンズヘルス(米国)の日本語訳です。スポーツジムでのトレーニングに通いすぎの人に対する、トレーニング中毒の啓蒙のページです。
アマチュア持久系アスリートの6.5%が摂食障害、30.5%が運動依存
 2019年のドイツのゲッティンゲン大学からの文献から、運動依存のみではなく、摂食障害にも触れています。







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