見出し画像

ビールを飲みながら速くなる~総論②~骨格筋保護活動(略して筋活)

 さて、プロローグでは飲酒をすると筋肉が落ちる(正しくはトレーニング後の筋の再合成能力がやや低下する)と書きました。多くの文献では、ランニング後の筋肉の分解の程度は変わらないものの、テストステロンの低下により筋肉の再合成が1-2割程度落ちるというものです。
 その程度であれば問題ないのではないかと言いました。

 でも我々はそんな文献では計り知れない量の飲酒をしませんか!?

 研究では急性アルコール中毒になるほどの飲酒をして、データを採取したものなどまずありません。せいぜいアルコールに強い欧米人が、アルコール80g/回(ビール2リットル、日本酒4合)程度摂取して得たデータです。
 我々はランニング後に1次会、2次会、3次会と行くと、その数倍は飲まれるのではないでしょうか。そうなると筋肉にはランニングとアルコールの影響のみではなく、脱水、電解質異常、低栄養など多種のダメージが及びます。なので文献的には飲酒の筋への影響はそれほど大きくないとされていても、一応筋肉を守るよう配慮することが望まれます。筋肉に強い負担がかかり、その結果炎症・壊死まで至る横紋筋融解についてのレビュー論文から、病因の表を貼っておきます。

スライド2

 飲みすぎた次の日、いつも以上に筋疲労や強い筋肉痛を感じたことはありませんでしょうか。それは恐らく、酔っぱらって走り回ったからではないと思います(自分は酔っぱらって走り回る癖があります(笑))。
 なのでもう記憶をなくしてしまったら仕方ありませんが、覚えている限り実践してほしい事を書きました。

1.筋肉活動も普段の食事から

 スペインからの報告で、普段どういう食事を摂取したかを聴取したあと、フルマラソン後の筋損傷や心臓へのストレスをみたデータがあります。魚、野菜、オリーブオイルは筋肉の損傷や心臓への負担を和らげる、肉とバター、脂肪の多い肉は逆に筋肉や心臓への負担を強める可能性があるとあります。特に魚油は筋肉に、オリーブオイルは心臓に、野菜は両方によいのではないかとあります。
 この調査ではアルコールも調べられていたようですが、結果や考察に記載がありません。おそらく問題ない結果であったと解釈しましょう!

2.ランニング前のたんぱく質(BCAA)摂取

 ランニング30分前にBCAAを摂取するのが通説となっています。これはランニングのパフォーマンス向上と謳われていますが、運動中~後の筋損傷を緩和する働きもあるようです。大塚製薬のHPからですが、BCAAは摂取から30分程度で血中濃度がピークに達することから、30分前に摂取してパフォーマンスを高めようぜぇということですね。
 筋の負担軽減効果もあるようですから、大会の時のみならず、ポイント練習や筋トレの際にも服用した方がよさそうですね。

3.ランニング後のたんぱく質摂取

 一般的にランニング後は栄養の摂取が必要、必要と言われているので、みなさんセッセと補給していると思います。ですが本当にランニング直後にたんぱく質を摂取した方がよいのでしょうか?
 というのも、ランニング・トレーニング後は筋肉がダメージを受け、その後24-48時間後に「超回復する」と理解されていると思います。その「超回復」するときにたんぱく質を摂取すればいいんじゃない?と考えている方はおりませんでしょうか。

プレゼンテーション6

 ですが実際には、回復期にたんぱく質を摂取すればよいというわけではありません。一般的に言われている通り、運動直後にたんぱく質を摂取することが必要です。
 ではいつ?それはもう皆さんの方が詳しいかもしれません。ランニング後のゴールデンタイム、以前はランニング後90分と言われていたのですが、いつの間にか30分になりました。どういうことでしょうか。この雑誌に掲載されているようなのですが、有料なので転載しているサイトから。

プレゼンテーション3

 運動後30分以内に摂取すると、筋合成能力が最大200%になるというものです(逆に直後も効果が落ちます:例1500m牛丼(笑))。
 そしてアメリカの研究ではたんぱく質は20g程度摂取すると効果が高く、それ以上摂取してもあまり変わらないと言われています。我々日本人であれば15g程度でも十分なんではないでしょうか。

プレゼンテーション5

 なので吸収の速いホエイプロテインを15g程度摂取するのがよいと思われます。
 ちなみ運動直後にたんぱく質補充をしても、最大酸素摂取量や造血能が亢進するという効果はなく、あくまで骨格筋の合成効果が期待されるだけなようです。
 なのでインターバルトレーニングやHIITトレーニングなど、最大酸素摂取量を鍛える運動ではたんぱく質の補充は必要性が低いと思われます。練習後はBCAA4g程度でもよいのではないかと考えています。
 逆に筋肉に負担のかかる練習・・・下り坂の多い練習・大会や、フルマラソン以上の距離、筋疲労や筋肉痛のきそうなトレーニングではしっかりタンパク質を補給しましょう。

4.飲食中のたんぱく質の摂取

 運動後に多少のたんぱく質やアミノ酸を摂取したのであれば、宴会中は強く意識することはありません。たんぱく質を強く励行するような文献でも、”3時間ごとに20gのたんぱく質の摂取”と書いてある程度です。
 たんぱく質の量は焼き鳥二本で8g、枝豆1人前で3-5g程度、マグロ刺身50gで17g、卵1個で12gと言われています。何も「ステーキにプロテインドリンクを飲む!」などしなくても、一品たんぱく質の多いものを摂取したら、あとは抗酸化力を高める食事、枯渇したエネルギーを補う食事を考えるのでよいと思われます。その一品は何がおすすめ?は各論で。
 3時間おきなので、1次会、2次会と会がすすむたびに一品食べるよう心がけるのがよいと思います。

5.飲食後のたんぱく質の摂取

 飲食後半から飲食後は、体は貯蔵糖や脂肪分をうまく使うことができなくなっています。β酸化は作動しないし、糖新生もできない、アルコールの代謝で体は火照っていても、体は飢餓に近い状態になります。空腹を感じて、〆のラーメンた食べたくなる状態です。
 「食べたら太る!!」と、空腹を我慢して寝てしまうのは、ヤセるためにはありですが、そんな次の日は尿の色が濃く感じたり筋肉疲労・筋肉痛を感じることがありませんか?
 飢餓・・・エネルギーの枯渇した状態は横紋筋融解のリスクになります。そこまでいかなくても、筋の分解がすすんでしまう可能性があります。別の話になりますが、肝硬変という病気の方は、肝グリコーゲンの低下による飢餓状態でユビキチンプロテアソーム系の蛋白異化が促進され、骨格筋からのアミノ酸動員で骨格筋が崩壊すると言われています。それを防ぐために糖質の補充やBCAAを摂取すると緩和すると言われています。
 飲食後、空腹を感じている方も同じ状態にあります。
 そして下のグラフはTarzanのHPからお借りしたものですが、そこにもある通り、飲食後4~5時間たつと血中のアミノ酸濃度も低下してきます。

プレゼンテーション4

  アミノ酸濃度が低下すると骨格筋が消耗されやすいので、食後3時間、できなくとも5時間後しっかりアミノ酸を補充しましょう。
 飲食を終えて帰宅中、帰宅後でもよいと思います。

 ちなみにアミノ酸は、日本酒・ビールにも入っていない!?と思われた方もおられると思います。一応入ってますがそれほど多くありません。きちんとサプリメントなどで補いましょう!!
 日本酒(本醸造) :299mg/100ml(BCAA37mg・ロイシン15mg/100ml)
ビール(ピルスナー):145mg/100ml(BCAA24mg・ロイシン  8mg/100ml)
  ワイン(白)       :  58mg/100ml(BCAA  2mg・ロイシン  2mg/100ml)
      (清酒に含まれるアミノ酸の分析についてのページ)より

6.翌日のたんぱく質の摂取

 翌日は筋肉の合成が行われています。体感的に筋疲労・筋肉痛が残っているあいだは意図してたんぱく質を摂取しましょう。運動直後より効果は落ちてしまいますが、運動から24時間たっても、おそらく48時間たってもプロテインの摂取の効果は普段安静時に摂取するより高いと言われています。

プレゼンテーション7


 前日飲酒をすると、肝臓も栄養素を欲しています。BCAA、体脂肪・中性脂肪が高くなければ糖質も十分に摂取しましょう。

7.ビアランナーの最適解

 普段から魚、野菜、オリーブオイルなどの摂取を心掛ける。
 トレーニング前はBCAAを摂取。
 トレーニング後はBCAAの摂取、筋疲労や筋肉痛がきそうなときは糖質+プロテインを追加。
 飲食中は3時間ごとにたんぱく質の多い食品を1品摂るよう心掛ける。
 飲食後はBCAAの摂取を。
 翌日、筋疲労や筋肉痛があるようならたんぱく質の摂取を心掛ける。

 練習会や大会も少なく、飲食店でもお酒の飲めない日々が続きますが、早く世の中が落ち着いてくれることを祈るばかりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?