見出し画像

2023上半期 読書ベスト7

読んだ本について書いていきます。

なぜ本を読むか。それは、たいていの悩みは誰かが答えを出したりすごく考えていて、それを本にしているから。

本を読めば悩みの解決方や同じように悩んでいる人に出会える。

2023上半期に読んだおすすめベスト7を紹介します。



目次

7位【シンガポール・文学】マレー素描集 アルフィアン・サアット
6位【心理・ビジネス】LISTEN―知性豊かで創造力がある人になれる ケイト・マーフィ
5位【詩・文学】積もった雪 金子みすゞ
4位【鳥類学・工学】電柱鳥類学 三上修
3位【考古学・科学】土偶を読むを読む 縄文ZINE
2位【歴史・偉人】マリア・テレジアとヨーゼフ2世 稲野 強
1位【社会・時事】現代評論キーワード講義 小池陽慈


【シンガポール・文学・7位】マレー素描集 アルフィアン・サアット

シンガポールが明るい北朝鮮と呼ばれるのを知っていますか?

多民族国家で、治安が良く、教育にちからを入れているシンガポール。

本書はそんなシンガポール社会を描き出したマレー系作家による短編集。

例えばある短編では、女学生が表彰式で大統領に握手を求められるが、断ってしまう。
彼女はマレー系でムスリム。結婚前に男性には触れない。
親からは、「マレー人がまた過激派と思われる!」と言われてしまう。

シンガポールは教育の平等性は謳っているが、イスラム、マレー系へのステレオタイプが残り低賃金層が多い。
ここにマレー人の社会的孤立が浮かび上がる。

例えばある短編では、キャンプに出掛ける。
すると、周りにもキャンプの人たちが。
そう、彼らは団地から追い出されてしまって家がない。

シンガポールは土地が狭いため国民の80%が団地。自分以外の団地に住処を探すのは難しい。治安維持法や土地収用法があり、団地の追い出しによって政府が強権を振るう格好の手段となる社会が見える。

シンガポールという多民族国家で生きる人たちをうまく描いた作品です。


【心理・ビジネス・6位】LISTEN―知性豊かで創造力がある人になれる 

ビジネスシーンにおいて、「積極的に自己主張すべき」というのは本当にそうだろうか?

本書は、「聴く」とはどういう事なのか?どういう効果があるのか?を科学的に説明しています。

ただのHOW TOだけでなく、「聴く」ことができるようになると、人間関係やコミュニケーション、チームワーク、夫婦関係にいたる範囲にどのような効果があるのかをエビデンスをもとに書いてあります

本書を読むと「聴く」ことは練習が必要な技術であり、たいていの人ができていないことがわかります。

例えば、「よいコミュニケーションとは相手にズバっと鋭いことをいうことだ」と思ってませんか?

「次にどんな気のきいたことを言おうか」
「次にどんな破壊力のあることを言ってやろうか」
こういったことが頭でいっぱいになり実際は話を聞いていない。

例えば、「悲観に暮れている人がいたときアドバイスしよう」と思っていませんか?

こういった話を聞くと、自分が相手の感情から苦痛に感じてしまうために、すぐにその問題を解決してあげようとしたり、安心させようと説得してしまう傾向にあるそうです。これも話を聞いているとは言えません。

これらは自分にとってかなり響きました。。。確かに、今の話を何かにたとえようとか、返したくなっていた。

また、「聴く」能力は、早急に答えを出さない能力でもあります。

つまり、安易で気持ちの良い答えに飛びつくのではなく複雑な問題に耐えることができるため、想像力が高い傾向にあるそうです。

さらに、「聴く」と心理的安全性が高まり、チームの生産性があがることも実験でわかりました。

このように、本書では実際の実験の結果をもとに、「聴く」ことの効果やその理論について学ぶことができます。


【詩・文学 5位】積もった雪 金子みすゞ

みんなちがって、みんないい。

金子みすゞ名詩集(kinlde 69)

このフレーズでおなじみ、金子みすゞ。

金子みすゞをいまさらながら読んでみました。

その中でぐっと来たものが『積もった雪』

積った雪
上の雪 さむかろな。 つめたい月がさしていて。
下の雪 重かろな。 何百人ものせていて。
中の雪 さみしかろな。 空も地面も見えないで。

金子みすゞ. 金子みすゞ名詩集 (pp.108-109). 彩図社. Kindle 版.

雪を、上中下に分けて、それぞれの立場について考えてる。。。すごくない?

自分でもできるか考えてみてください。服でも空気でも組織でも、身の回りに当たり前にあって1つに見えるものを分けてみる。

これできますか?相当よく観察してその特徴をよく吟味し、考え抜かないと出てこないのではないでしょうか?

たとえば、最近流行りの「安易な世代論」を唱える人はどうでしょう。

「老害」「Z世代」なんて言葉がはやっていますが、実際には同じ世代にもいろんな人がいます。そう考えると、安易な世代論は「搾取する老人」VS「無知な若者」という構図を作り出しお互いに殴らせあうように見えませんか?

他にも、会社や学校でもないでしょうか?「○○部署は考えが古い」「文系は○○」とか。

個人、世代、組織という1つに見えるものも、実はいろんな見かたや解釈できる。世の中は複雑で矛盾だらけである。

そんなことを思わされました。



【鳥類学・工学・4位】電柱鳥類学: スズメはどこに止まってる? 三上修

この本のいいところを結論から言うと、自分の街を好きになれる本です。

この本、151ページ中44ページ(Kindleで25%)を電柱の解説に使ってます。

もはや鳥の本ではなく、電柱の本なのではないでしょうか?笑

刑事ドラマなどで、犯人を尾行している刑事が隠れる電柱は、太さが必要ですから電力柱か共用柱と考えられます。

電柱鳥類学: スズメはどこに止まってる?(kindle 33ページ)

電柱の中で何が一番好きかと問われれば(中略)田んぼの中でひっそりと自分の役割を果たしている電柱を挙げざるを得ないでしょうね。

電柱鳥類学: スズメはどこに止まってる?(kindle 40ページ)

ユーモアあふれる本だということが伝わったと思うのでちゃんとこの本が書かれている理由を書くと

電柱というのは19世紀にでき、現在は地下に埋めるという流れがある。つまり、電柱が地上にあるの環境というのは時間が限られています。その、限られた時間のなかで鳥がどういうふるまいをするのかは、いま研究しないといけない。

つまり、電柱と鳥が都市で共存する姿を見られるのは、たった200年ぐらいだけかもしれない。

街中を歩けばどこにでもある電柱と、それを利用する鳥たち。

存在はしていてもなかなか意識はそこに向かない。

でもそこには、インフラを支える技術者、変化する環境で生きる鳥、それらを研究する研究者がいます。

ふと、意識を向ければそこに「ある」ことにきがつかせてくれます。

この本は街の解像度を上げるきっかけをくれる本です。


【考古学・科学・3位】土偶を読むを読む

答えがわからないうえに証拠もない。そんな時どうしますか?

さて、本題に入る前に、『土偶を読むを読む』という変わったタイトルの本には、出版された経緯があります。

経緯ですが、まず、縄文時代の謎を解き明かした!という『土偶を読む』が出版されます。

とても売れたこの『土偶を読む』ですが、縄文時代や土器土偶を研究する考古学者からすると疑問だらけ。

そんななか『土偶を読むを読む』は、「『土偶を読む』は疑似科学本だ!」と考古学者の立場から批判した本。

というような、本ではありません。

「縄弱」を煽って人気を取る冷笑系では決してありません。

中身を見てみると、まず、『土偶を読む』は基本的に土偶の「形」に目を向けて考察しています。

それに対し、『土偶を読むを読む』では、「形の類似性に注目するなら、類事例を探して追加の論拠とすべき」と書いています。『土偶を読む』では一つの土偶の1方面からの写真のみで考察がすすめられています。

『土偶を読む』の主張を見てみると、「栗に似ている」としている土偶は、正面からのみ撮った写真。上から見ると不自然な穴があったり。植物考古学からみるとモチーフにしたその植物がその時代その場所に生えていなかったり。

このように、『土偶を読むを読む』は『土偶を読む』の主張に対して矛盾点を考古学の知見から指摘していますが、ここで私はどちらが正しいかという点には触れません。

この本からは、善悪や正誤ではなく、「ある答えや仮説に対していろんな面から検証して確実性を上げていく」という科学の基本的な姿勢について学べるのではないでしょうか?

実際、土偶をつくった理由は縄文人に直接聞けないため、答えは究極的にはわかりません。

究極的に答えがわからないものに対して、考古学者の先生方が、「そんなところまで考えて調べ、協力し、仮説を立て、検証してるんだ」ということも垣間見えます。

そんな本書は考古学でいまどこまでわかっているか?ということを知りつつ、わからないものに対する考え方や姿勢まで学べます。また『土偶を読む』を読んでいなくても楽しめます。

ミミズク土偶ちゃんとクリパ(栗)をしたくなること間違いなしの本です!(読めばわかる)


【歴史・偉人・2位】マリア・テレジアとヨーゼフ2世

変化が大きい現代だからこそ、激動の時代を生きた母子の人生から学べることがある。

本書は、オーストリア・ハプスブルク家の2人の皇帝、女王マリア・テレジアとその長男ヨーゼフ2世について書かれています。

ざっくりした時代背景としては、17世紀、世の中は啓蒙思想が流行ってきています。簡単に言えば、「神」「王様」「伝統」だったのが「理性」「合理」「科学」へだんだん移行していく時代。

つまり、彼女たちは、「新しい考えやシステムを導入したいけれど、伝統と格式を守ろうとする人たちから反発されて苦労する」という君主。

マリア・テレジアもヨーゼフ2世も「理性」「合理」「科学」的な啓蒙思想を持っていて、国の政治に反映しようとするも、伝統ある国では貴族たちが反対をしてきてなかなかうまくいかない。

そんな二人をざっくり見てみます。

マリア・テレジアといえば16人の子供を産んだことで有名です。16人の中には有名なマリー・アントワネットがいます。

ハプスブルク家は政略結婚による拡大が伝統的なやり方であるため、マリア・テレジアは国を揺るがす戦争の間も妊娠と出産をしています。
そしてその子供たちをマイクロマネジメントし、政治の道具として政略結婚をさせています。

また、マリア・テレジアは「あの子は生贄です」と嘆きながら、6女マリア・アマーリアを無能な王様のもとへ政略結婚をさせています。

次にヨーゼフ2世ですが、彼は啓蒙思想をがっつりインストールし、それを政治に導入しようとするも、貴族の反対にあいます。

彼の発言を見ると、いかに当時の新しい思想を持った皇帝かがわかります。
「君主は国家第一の官吏(国から与えられた役割)」
「すべての人は生まれながらに平等である。中略。したがって、王、伯爵、市民、農民の間にはまったくなんの違いもありえない」

彼は「啓蒙専制君主」。つまり気持ちとしては最新の考え方を持ちつつも、王様という古くから続いている伝統あるやり方で国を変えていかなければいけない。

検閲を緩和し、既得権益を持つ教会や貴族を解体し、農民を開放しようとした彼はとても進んだ考えを持っていたが、結局、貴族に猛反発をくらい、ほとんどなしとげることができなかった。

そして、ヨーゼフ2世のお墓には「最良の意思をもちながら何事も貫徹しえなかった王、ここに眠る」と刻まれているそうです。

さて、現在に目を戻してみると、私たちの世界も世の中が大きく変わり、新しい考え方が出てきて、それでも体制やシステムは古い状態のままという共通点があるように思えます。

2人は、新しい考えと古いシステムの矛盾を合理的になんとか乗り越えようとしました。しかし2人は、戦争中も国のために子をなし、その娘を泣く泣く政治の道具として使ったり、強引にルールを変えようとして結局なにもできなかったりしました。

2人からは、「トップダウンによって合理主義を推し進める事の限界」を感じました。古いシステムを創新するために合理主義的にやろうとすると、リーダーの体調を無視して業務をこなさなければならなかったり、本心を無視して非倫理的な行いをしないといけなかったり、反対派の大きな反発を食らって何もできなかったり。

17世紀のオーストリアと現在。お互いに激動の時代を生きる者同士、失敗や成功から学ぶことがあるのではないでしょうか?




【社会・時事・1位】現代評論キーワード講義

2023年上半期に読んだ本のなかで断トツでおすすめなのがこの本。1000円でこの内容はあまりに安すぎます!

本書は、現代評論の読解に必須の100個のキーワードを見開き2ページでまとめてくれています。しかも各ページにはより知りたい人のための本の紹介まであって、高校生が読める内容の本なので、初学者にぴったり、

つまり、気になったキーワードのページを読んでいけば、今の世の中のことについてざっくり知ることができて、深堀りの道案内までしてくれます。

「フェミニズム」「ポピュリズム」「レジリエンス」など、よく聞くカタカナ語だけどちゃんとはわかってない、というようなところまであります。

さらに、高校生に読めるレベルの良書まで紹介してくれているのが最高。
専門分野でない限り、たいていのことは中・高生レベルから勉強し始めるのがよいと私は思っているので、ぶっちゃけこの1冊と、ブックガイドに乗っている追加資料を読めば世の中の理解度が爆上がりすると思います。

通読するというスタイルではなく、興味を持ったり必要に駆られたときに辞書的にひいていくという読み方ができる超良書だと思います!



【まとめ】

2023年読んだ本でベスト7を紹介してきました。

年初に読んだ本もあるので記憶があいまいですし、紹介した本からのみでは言えないことまで書いてあります。

余裕があれば、『現代評論キーワード講義』にならって、副読本についても書こうと思います。

もし、この記事がよかったなと思った方は「スキ」ボタンを押してもらえると次のやる気につながります!

だいぶ時間が空いてしまいましたがいつも期待して待ってくれている方たちには感謝ばかりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?