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最強の侵略者2代目・山口翔大選手×Dr.F② ~10代のマインド~

Dr.F 山口選手は、練習面においてもいろんな試行錯誤を積み重ねながら、フルコンタクト空手の歴史に名を残し、そこで満足せず今度は空手界を背負って、グローブを着けて新たなフィールドで勝負している。これは、なかなかできることじゃないですよ。
 
──本当にそうですね。
 
Dr.F 「空手王者」という実績はそれとして、「そこから学んだものを生かして次の舞台でも見せるぞ」ということを現在進行形でやっているのは素晴らしいことです。


 山口選手もそうだし、石井慧選手もそう。那須川天心選手がボクシングという新しい道に挑もうとしているのもそうですよね。

 フィギュアスケートの羽生結弦選手が、これからプロの表現者として何を見せてくれるのかというのもワクワクしますよね。

 山口選手の挑戦もそれらと同じ方向性だと思うんです。そこが、今回私がこの対談を楽しみにしていた大きな理由なんです。
 
──まさにそこですよね。空手の実績を看板にして指導に回るというのも一つの方向性だったところ、現役として新たな道に進もうと思ったのは、どういうお考えだったんでしょうか?
 
山口 僕は子供の頃の夢が、「極真空手の世界大会に出たい」「K-1に出たい」、それから「宇宙に行きたい」という3つだったんです。

 新極真さんの世界大会を目指していて、他流派の重量級として出場することで、最初の夢は叶いました。そこで、じゃあと何があるのかと考えたときに、僕は今32歳なんですが、20~30年後は、宇宙旅行がもっと身近になってるはずじゃないですか。


 「宇宙は、お金さえ払えば行けるという時代が来るよな」と読んだときに、「K-1やるのは今しかないぞ」と思って。

 僕は基本的に、すぐ行動しちゃうんですけど、人に話したらみんな「無理や」って言うんです。「オマエのスタイルは向いてない」とか。そう言われれば言われるほど、どんどんスイッチが入ってきて「何言うてんねん、いけるぞ」と燃えてきて。それで意地張って、無理矢理飛び出したというのはありますね。
 
Dr.F 面白い!
 
山口 昔から、「他流派で極真の世界大会なんか出られへん」とか「他流派で極真の重量級の選手に勝ったヤツなんかおれへん。無理や」とか言われながら白蓮会館を選択してきたんですよね。

「無理」と言われてもやり抜けばできるという成功体験があるので、何を言われても止まらなかったんです。
 
Dr.F カッコいい! K-1の中でも白蓮魂を体現してますよね。今のお話は、私も首がもげるぐらいうなずきました。本当に、いろいろ言われるんですよ。私も同じようなことはずっと言われてきましたから。

「医者になるんだったら、医者だけに専念しろ」とか「医学部に入ったら医学部の部活に入るべき」とか、言われながら。格闘技医学というのを始めたら、「何だそれ?」と最初は笑われましたけど、おかげでこの連載も13年めです(笑)。
 
(一同笑)


 
だから山口選手の挑戦を評価するのは、アンディ・フグやフランシスコ・フィリオ、ニコラス・ペタスや富平辰文といった先駆者たちではないでしょうか。「山口選手、よく俺たちの背中を見てくれたな」と思ってる気がするんです。
 
―――実際のところ、山口選手の中では「K-1にうまくシフトできるんだろうか」とか「顔面対応、どうすればいいんだ」という不安はありましたか?
 
山口 今もなかなか慣れない部分はあるんですけど……空手では、長いことやっていたので、周りからは壁と見えても、自分は壁と感じてないんですよね。

 空手に関しては自分の中で全部、ある程度の答えが出てくれていて、分からないことがあってもちょっと調べたら、すぐに自分の中の答えとつながるんです。

 でも今、K-1という新しい世界にいるので、右も左も全く分からない状態にいるんですよね。これって、僕が10代の頃に空手に対して感じたことと似てるなと思ったんですよ。

 この年であの頃のワクワクがまた経験できるのかと思ったら、もう一回人生をやり直すような感覚で、18歳ぐらいの頃に「格闘技の関西まつり」に行かせていただいたときと同じなんですよ。だから今は毎日分からないことだらけで、すごく楽しめてますね。今は苦悩とかよりは楽しみの方が勝ってます。
 
Dr.F 素晴らしいですね! 思わず「32歳の高校生」という言葉が浮かんだぐらいです(笑)。私の言葉で言うと「白帯感覚」と呼んでるんですが、白帯のときって一番楽しいんですよね。「空手ってどういうものなんだろう?」といつも思ってて、帯をタテに結んじゃったり、正拳で親指を内側に握り込んで「違うよ」と言われたりして、でも、それがうれしい。
 
 でも、キャリアを重ねて名前が売れてくると、どうしても「みんなが聞きにくる」になってしまって、「聞くよりも聞かれるほうが多くなる」ということが、どの業界にもきっとあるんですね。
 
 でもそこで高校生の頃のマインドを取り戻して、またまっさらな状態、手探りの状態から手を伸ばして、自分の世界を広げようとしているのは本当に素晴らしいと思います。ご本人がワクワクしているんだから、それを見ている我々がワクワクしないはずはないんですよね。
 
──Dr.Fもそういう経験をお持ちですか?
 
Dr.F 私にとっては格闘技医学を始めるときがまさにそれで、そもそも格闘技医学というものはこの世になかったんですよね。だから最初はまっさらだったんです。

 そこから「格闘技に役立つ医学ってどういうものだろう?」とか「医学の立場から見て、格闘技にはどういう可能性があるだろう?」と考えて、私なりの実験を積み重ねた結果を皆さんにシェアしているところがあります。

 簡単に答えにたどり着けない領域に飛び込んだ結果、今の形ができてきたわけです。だから私も、おかげでワクワクして過ごせています。
 
 かつてベニー・ユキーデは「勝ちだけに固執しても、それは格闘技の半分でしかない。私は闘うことそのものが好きだから、勝ちも負けも含めて全部好きだ。勝ちだけ好きな選手には負けない」という内容の発言をしていました。

 山口選手のワクワクした表情を拝見して、その言葉を想い出しました。
 
山口 もちろん試合は怖いですし、負けることなんて考えてないんですけど、負けたら「そこまでの人間やな」と自分の中で思えるようになって、負けてどうこうという時期は、自分の中では通り過ぎたんですよね。

 もちろん勝つためにやってるんですけど、試合って今しか経験できひんことなのかなとも思うので、常に「早く試合が決まってほしいな」というのは毎日思ってます。

 試合の緊張感を感じられるのも今だけなので、いっぱい試合数もこなしたいですし、日々その緊張感に追われたいなという……たぶん中毒になっちゃってますね。
 
Dr.F 「中毒」という言葉も山口選手らしくて好きですね。(続く)
 
・身体をつかう、全ての人へ。パフォーマンス医学


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