運動器01 筋肉は繊細そのもの
筋肉、という言葉からどんなイメージを連想するでしょうか? 力強いような、頼もしいような、いかついような、硬いような、どちらかというとマッチョでハードなイメージをもたれる方も少なくないでしょう。
どんなに強く押しても動かない大型冷蔵庫のようなアメフト選手の大胸筋も、舞台で美を表現するバレリーナの一切の無駄のない下腿三頭筋群も、先週産まれたばかりの新生児の長細い大腿の筋肉も、(随分と見た目は違いますが)みんな非常に細かい繊維の集まりです。
筋肉は、ミオシンとアクチンという2種類の繊維(フィラメント)が、お互いの隙間にスルスルッと入り込み、結合して収縮します。
ミオシンの直径は約16㎚(ナノメートル)、アクチンの直径は約8㎚。0・000000001m=1㎚の世界は、原子、分子の集合体の世界です。
1㎚は1mの10億分の1、1㎜の100万分の1の大きさ。
「どれほど小さいかわかるでしょう?」と書きたいところですが、10億とか100万とかが眼に入ってきて、かえって小ささがわかりづらいくらいです。
たとえば上腕二頭筋にこのフィラメントがいったい何本存在するのか……それだけでも天文学的数値になってしまいます。
この繊細というにはあまりにも繊細過ぎるフィラメントたちは「無理矢理引き伸ばされる」のが苦手です。あまりに細いため、必要以上に伸ばされると、簡単に断裂しまうからです。
ここでちょっとした実験をしてみましょう。手と指でピースサインをつくってみます。しっかりと人差し指と中指を伸ばして、残りの3本は折り畳んで、いい感じのピースサインをお願いします。
完成したらピースサインを動かさないように、その形のままピタッと止めてほしいのです。この状態で、1分、2分、3分……とキープします。
すると途中で、なんともいえない違和感を感じませんでしょうか? 「動かしたい、でも、動かせない……」全然ピースフルじゃありません。
あるひとつの動きを固定し続けることで脳が感じる違和感は、筋肉が引き伸ばされ続けることによって生じる中枢への信号に由来します。
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