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中井祐樹 × Dr.F :どうしたら強くなれるのか? その発想と指導法3 ~強さとはオリジナルである~ 


他競技について


-----二重作先生は空手、中井さんは柔術と、それぞれ打撃系格闘技と、組技系格闘技をやってこられたわけですが、今、格闘技を練習している読者の中には、打撃も寝技も両方やってみたいという好奇心旺盛な人も沢山いると思うんです。

 その一方で、今やっている格闘技でさえ満足な結果が出ていないのに……と、新しいことを始めるのに二の足を踏む人もいるでしょうし、また古い慣習を持った道場などでは、他の稽古を禁じるところもあると思います。これについてはどう思いますか?

中井 僕は打撃界とのつながりはそんなにないんですが、それでも指導させて頂いた方はけっこう多く、例えば極真会館(松井館長)の支部長さんである御子柴さんや進さん、根本さんなんか、みんな紫帯や茶帯のれっきとした柔術家なんです(笑)。あと、埼玉県草加市のパラエストラの能登谷支部長は、空道の全日本軽量級チャンピオンで、空道の道場も併催して行っているんですね。

 僕は、柔術ができて困ることはないでしょ? と思うんです(笑)。寝技が許されるような試合に出たら、腕ひしぎ十字固めで勝って、オレの空手には"十字"も入っているんだよ、と言ってくれればいいんです。僕もそれで良いと思っているんです。

 格闘技というはそういものじゃないでしょうか。大きな団体や競技を創られた偉大な先生方がいらっしゃいましたが、実はそれはみんなができることなんです。自分のアートを創ることはできるわけですから。格闘技をストイックに練習なさっている方のなかには、この方法でやらなければだめだと思っている方かなりがいらして・・・

Dr. F その思考の枠にはまっているといいますか、真っ直ぐに前を向いている方ですね。

中井 気持ちはわかりますし、それはそれで素敵なことだと思うんです。ただ僕は、これまで諸流派や新たな格闘技を創ってこられた歴史上の先生方も、稽古を積んで、のれん分けなどで先生から離れて、創意工夫を続けるなかで、実はいつの間にか違うことをやっているんだよ、同じルールのなかでやっているから、同じように見えるけれど、実はその先生のオリジナルなんだよと言っているんです。

脳と身体と

Dr. F オリジナルのお話、とても興味深いです。人間の脳というのは常に体から感覚を入力していますよね。ですから、僕はご覧の通り、手足の短い体格だから(笑)、このサイズをベースに発想してしまうんです。逆に僕が身長190cmあって手足が長かったら、違う発想をするはずなんです。

中井 ・・・ということは、体が脳なんだ。

Dr. F 脳は外界の情報をキャッチするだけではなく、肉体の情報も常に脳に送っているんです。たとえば、7歳までに事故などで手などを失ってしまうと、失った手の感覚はないんですが、7歳を過ぎて手を失ってしまった人は、手があったときの記憶が脳に定着しているから、「なくても、ある」という状態なんです。脳が体を支配していますが、体も脳を支配している、ということなんです。ですから、双方はものすごくリンクしているんですね。

 ですから、同じ競技、そして同じ技術をしたところで、それはその人の個性、いわばオリジナルでしかないんです。

中井 身体がオリジナル、というわけですね。

Dr.F まさに、そうなんです!たとえば、僕が選手に、「相手に近づいてこうしてボディを打つといい」とアドバイスしても、それはあくまでも僕の手足の長さで技を組立てているわけで、僕が身長190cmベースの思考で技を組み立てたくても、簡単に組み立てられるものではないんです。唯一、可能であるとすれば、身長140cmの相手ばかりのトーナメントに僕が出場することで、擬似的に体験してそこから発想することぐらいでしょうか。

 格闘技の技術というのは、いろいろな前提の上に成り立っているんですね。たとえば、ムエタイというのは相手のローキックをスネ受けをしますが、体重が重い相手に蹴らればバランスを奪われるばかりか、吹き飛ばされてしまいます。

 つまりこれは、体重が同じぐらいだから成り立つ技術なんですね。こうした競技の背景が技術に反映されてきますし、技術というのは人間がやることになるんですが、人間は結局、効率を追うんです。だから、強い人間は自分の戦いを知っているんですね。それを細分化していけば、自分の手足の長さを知っているということですし、自分の体格を知っているということなんです。

 これはちょっと哲学的な話になるんですが、言い換えれば、強くなると言うことは自分を知るということですし、自分じゃない人間に触れることで、自分を知るようなところがある気がします。

違うものが出てくる

中井 僕は、「信じていたこと、やってきたことが違う」と感じることがあって、今度は新たに見つけたやり方を研究していくと、前に持っていた強さを失うことがあるんですね。だけど、トータルでどっちもできるとより強くなることができるんです。 

 これはクロストレーニングとは別なんで、「格闘技は何をやっても格闘技の練習になる」ということは僕自身が体験しているんですが、練習中にいくつか違うものを入れると、違うものが出てきますし、「違うものが出てくる機会」と「考える時間」を作ることが重要だなと思っているんです。

Dr.F うわぁ、「何をやっても格闘技の練習になる」って、まさに希望の言葉です。

中井 今まで10分でやっていたスパーリングを3分でやってみると、ペースが違うからえらく疲れるんですね。もちろん、これは強くなるためには必要なことなんですが、寝技の人たちはテクニック偏重主義で、強くなるためにはテクニックという考えがあるので、こうした時間に対して考えがいかない傾向があるんです。それも、先生がおっしゃる"前提"なのかもしれませんね。

Dr.F なるほど、時間は前提の際たるものですね。

中井 生徒に、柔術で強くなりたいんですけれど、どうしたらいいですか? と聞かれることがあるんですが、これまで最短で、3年で黒帯を取った生徒がいたんですが、そいつはサッカーをやっていたんですよ。サッカーがどう生きたかはわかりませんが、彼は準備が出来ていたんですね。

 

営業上これは言えませんが(笑)、「道場に来なくて外のことをやっていてもいいよ」という可能性もでてくるんですね。いわば、なんでも格闘技の練習になるんです。

Dr. F たしかにそうかも知れないですね。よそを見るな、というのはもう時代にマッチしていないのかも・・・。あるいは、時代が格闘技に求めるものではなくなっているのかも。いろいろなものをどんどん取り入れていって、格闘技ももっとクリエイティブなものと捉えていった方がおもしろいし、実践者も幸せなのかも知れないですね。

丁寧にすべて

中井 本当にそうですね。ただ、ひとつ付け加えておかなければいけないのは、古いやり方を通していくなかでも、強さはつかめるんです。パラエストラ品川支部の佐々という僕の一番弟子は、彼の弟子たちとマンツーマンで365日休みなしで練習して、一日2回の練習か、多いときには3回の練習。今の時代、そんなことないじゃないですか。でも彼はそれで、とんでもなく強くなっていったんです。

Dr.F おおお!

中井 あるとき、他の弟子から、「他の黒帯はなにをしてくるかわかるんですが、佐々さんは何をしてくるわからないんです」と言われたんです。佐々が入門してきたのは、彼が17歳の時だったんですが、その時、僕は彼に、「同じ技ができるんだったら、体を自在に動かせるほうが強くなるよ」、と言ったんです。

 そうしたら、彼は、僕が"ムーブメント"といっている、エビとかの動きの一人練習を丁寧に、すべて行っていたんですね。全部やると2時間ぐらいかかるんですが、そんな基礎練習を毎日みっちりやっているヤツって、このご時世にいないんですよ(笑)

Dr.F 凄い!素晴らしいですね!(続く)

中井代表、推薦の2冊  格闘技医学

そして、強さの磨き方



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