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水本篤先生の「語彙学習方略の理論と実践」を聞きました。

大阪大学マルチリンガル教育センター公開講座「英語教育オンラインセミナー」の第5弾,水本篤先生の「語彙学習方略の理論と実践」を聞きました。

今回も聴きながら(紙のノートではなく)note上にメモしていくスタイルで,英語教師として特に押さえておくべきだろうと感じた部分を中心にまとめています。

学習スタイルとの違いと関係性

学習者の中には情報を視覚で処理するのが得意な人,聴覚で処理するのが得意な人,実際にやってみて処理するのが得意な人がいるというのはよく聞きます。

自分も含め教師は「生徒一人一人のやり方に合わせないと…」とか思ってしまいます。

が,そのような「学習スタイル」の違いというのは存在しないという主張がされています。

もちろん学習に関するハンデを背負っている学習者であれば別ですが,そういったもののない学習者については,「スタイル」ではなく,せいぜい「好み」や「性格」ぐらいのものだろうとのことです。

教師としては色々な学習を経験させ,学習者にとって使用可能な方法を広げてあげることが重要でしょう。

つまり語彙を見て覚える時間もあれば,聞いて覚える時間や実際に手を動かす時間もある授業や学習が望まれます。

将来的に外国語を学習しようという時に,あるいは外国語以外でも何でも勉強しようという時に,使える方略が色々あると嬉しいよね,という単純な話とも言えます。

以前,大学の非常勤で英語ボキャブラリービルディングという授業を担当させてもらった時にもそんなスタンスで15回の授業を組みました。もう2年ほど前の授業ですが,また今度記事にしようかと思います。

誰もが上手くいくストラテジー

は,残念ながらありません。

もちろん一人一人の学習者の好みもありますし,そもそも外国語を学ぶ目的も様々なです。

英語で論文を読み書きできるようになりたい人と,とにかく海外に行って色々な人とお喋りしたいという人では,(自分の目的を最速で達成するために)使うべき方略も変わるかもしれません。

そして一口にストラテジーと言っても

・覚え方 (認知方略)

・自分の学習の観察や計画や調整 (メタ認知方略)

・モチベーションを保とうとする工夫 (情意方略)

・人から/人と学ぼうとすること (社会的方略)

という4つのカテゴリーがあります。

これらを色々と組み合わせて一人一人が英語を学習してきています。そして英語を外国語としてかなり高いレベルで習得した「達人」にそのストラテジーを聞いてみても,個人差学習内容学習環境によって以上の4つのストラテジーがそれぞれ複雑に入り組みあっています。

結局のところ,その人自身に合う方略を色々と組み合わせていく必要がありますね。

そのためには様々な方略を教えて,試していく必要があるかと思います。

教えるべき4つのストラテジー

「これを教えればいい」というものはないんですが,そんな中でも英語教師として学習者に教えるべき認知方略が本セミナーでは4つ取り上げられました(Nation, 2008)。

文脈からの推測

リーディング等の際に出てきた未知語をすぐに調べるのではなく,その意味を推測しみることが重要です。

全く知らない,知るはずもないような語彙ですら,何も考えずに答えを提示されるより,適当に考えてから正解を発表される方が記憶に定着しやすいという研究も有ります。

単語カードの使用

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これですね。なんだか前時代的なものな感じもしてしまいますが,その有効性は結構信頼に足るもののようです。

最近ではスマホやタブレット,PCなどでも簡単に作成・共有できて便利なので,僕も担当している生徒たちには積極的に使わせています。

接辞の使用

これはある程度の語彙を持った学習者には有益なものかと思います。

ここで僕の経験談を一つ失礼します。

昨年,英検1級をノー勉で受けてみるという無謀な挑戦(残り6点で失敗...)をした時に,大問1の語彙問題(4択×25問)の100個の語彙の内,96個が知らない単語でした。

それでも25問中13問正解。語彙カバー率は4%なのに正答率は50%超えでした。(英検は1級は13~14問落としたらもうダメらしく,この後の読解やリスニングの快進撃虚しく,ほぼここで終戦だったようです)

その時に頼りにしたのはとにかく接辞。

今でも覚えているのは問題文的に「〇〇主義」みたいな意味の単語が入りそうだなぁみたいな問題の選択肢に,〜ismという語尾の単語がズバリあって,「1級ちょろいww」ってなりました。

でも,接辞と似たような発想で「語源で覚えよう」的な本も最近流行っていますが,全部一個の原理で押し進めようとすると逆に非効率的だったり説明に無理があったりする部分もありそうです。

何も考えずに覚えられちゃうのが一番手っ取り早くて,なかなか覚えられない単語についてプラスアルファの情報を入れるのが効率的には良さそうです。

ゆる言語学ラジオの水野さんのような語源オタク的生活はちょっと楽しそうではあるんですけどね。

辞書利用

色々手薄な学校英語教育でも特に手薄なことの一つが辞書使用の指導ではないでしょうか。

正直自分も高2の時に電子辞書が壊れてからは分からない単語はスマホで調べていました。その時からお世話になっていたのはやはりweblioさん。

辞書を引く時というのは大体長文の中とかで分からない単語が出てきたり,英作文で書きたいことが書けなかったりする時だと思うのですが,そうすると色々ある語釈の中から一番ピッタリなものを選んだり,色々出る候補の英単語の中からしっくりくるものを「例文」とか「共起表現」とかも使って調べていました。

自分の見ている中学生や高校生,前に見ていた大学生はみんなブラウザの検索欄に「〇〇 意味」とか「〇〇 英語」とか打ち込んで,一番最初に出てきたやつ,つまりほとんどの場合Google翻訳をあてにして終わっている印象です。

うちの生徒の多くは電子辞書も紙辞書も持っていませんが,iPadは全員が持っているので,授業中に「辞書引いていいからgoogle翻訳よりはweblioとか使ってね」とは言います。が,まだまだ辞書指導と呼べることはできていません。

そもそも自分自身も英語学習で紙の辞書を引いたことも買ったこともほぼない人間なので何をどう指導していいのやらという感じです。

[機を見て勉強します案件]が増えてしまった。

語彙の記憶・定着のためには音声を使おう

未知の単語に出会った時には当然それを頭の中に記憶・定着させたいものです。

その際に,「目で見る」,「声に出す」(耳で聴く),「手で書く」という3つのやり方が浮かぶかと思いますが,その中でも「声に出す」(耳で聴く)ことが最も重要で有効です。

よく「書いて覚える」「書かないと覚えられない」みたいなことを言う人がいますが,そういう人は一度(騙されたと思って?)声に出して読んで勉強してみほしいと思います。

個人的な経験の話で恐縮ですが,高校生のとき周りの同級生の多くは単語帳を電車の中で眺めたり,つまらない授業の時間に内職として単語をノートに書いたりしていましたが,僕は単語帳が大嫌いで,単語学習のせいで英語学習全てが嫌いになる気がしたので,一切単語帳をやらずに予備校で読んで意味を理解した長文をひたすら音読していました。一つの長文につき30回。

それ自体の「効果」や「効率」は知りませんが,結果としては毎週火曜日の単語テストでは(範囲すら知らなかったので)残念ながらしょっちゅう再試験組でしたが,模試では英語は学年トップでしたし,最終的にはセンター試験の英語を40分で満点取れるぐらいにはなりました。

語彙を覚えることは目的ではなく,英語を使えるようになるための手段なので,最終的には手っ取り早く,自分にとって苦痛が少ない形で出来るようになるのが一番いいじゃんと思います。

まぁ音読30回って結構苦痛なんですけどね。

「音読30回」というフレーズでピンと来る人もいれませんが,せっかくなので恩師の本を宣伝しておきます。今までこのnoteで紹介してきた本の中で飛び抜けて一番胡散臭いですね。

でもテストって書かされるやん?

多くの(英語が苦手な)学習者が「単語は書かないと覚えられない」と言います。

でも上に書いた通り書くより聴いた方が結果は出そうなのです。それに多分楽です,書くより聴く方が。

ではなぜ彼らは書こうとするのか。

一つは「テスト」の影響ではないかと個人的には思います。

英語を苦手とする学習者の多くがそれでも英語を勉強している大きな理由はテストではないでしょうか。

「単語」という言葉を聞くと,自然と「テスト」という言葉が頭の中で共起してくるという人も多いと思います。

その単語テストの多くが書き取り式ではないでしょうか。

「英語から日本語と,日本語から英語,どっちも出すから両方出来るように勉強してね〜」(不特定多数の英語の先生, 全ての時代a)

そう言われてしまうと,テストでも日本語を見て英語を書けるように,英語を見て日本語を書けるようにと書き取り練習ばかりしたくなる気持ちも分かります。

そして英語が苦手な生徒ほどそうしたくなる気持ちがよ〜く分かります。

鉄棒が苦手だったかわむら少年が,「逆上がりには腕で引く力と腹筋の力が大事だよ」と言われたところで,「出来るようになるまで実技テスト本番と同じ鉄棒で逆上がりしてみる」以外の行動を取らなかったことと同じです。

テストでやらされることを沢山練習する。テストに振り回される学習者にとって,当たり前の発想だと思います。

そうなると

「英語の勉強はテストのためじゃないんだよ」(不特定多数の英語の先生, 全ての時代b)

と説きたくなるのも分かります。

でも説得力ないんですよね。だって先生も明らかにテストを一大イベントだと思ってるし,「テスト前は生徒も頑張るんで色々復習させましょう」ってドーピングするし。

だったらもう単語テストを聴き取りにしちゃえばいいじゃん?

って思いました。

ちょっとまだ具体的にはイメージできていませんが,今学期中に聴き取り型の単語テストを実施し,生徒がそれに向けて単語を聴く(できれば自分で発音する)という学習を自然に行うようになるか見てみたいと思います。

関連記事など

本セミナーの一部はこちらの本がベースにされていました。

この本についてはすでに自分の動画とnoteの方でも部分的にですがまとめていますので,よろしければチェックしてもらえればと思います。(noteは有料です,すみません)



▼大阪大学マルチリンガル教育センターの英語教員オンラインセミナー▼

9月にもまだあと2回セミナーがあります。

ここまで皆勤している身として思うのは,これが無料で受けられるのはお得すぎるということと,その割に参加してる先生が少なすぎるということ。

定員が80名だと知って,そんなの即完売だろうと思ってすぐに申し込んだのですが,蓋を開けてみると毎回40名程度の参加者,そして毎回出ていると少しずつ見覚えのあるお名前が増えている感じ。

なんだかもったいないです,本当に。

別に英語の先生の意識が低いとかそういうことじゃなくて,色々やることがありすぎてこんな自己研鑽みたいなことはしてられないんだろうなぁとか,そもそもそういう情報が届いてないんだろうなぁとか,マクロな部分の問題が浮かんでくるようで切ないです。

9月18日(土) 15:00-16:30
「教室内英語スピーキングテストの適切な採点に向けたガイドライン」
講師:小泉利恵 清泉女子大学准教授
9月25日(土) 15:00-16:30
「英語プロソディの指導:統合的な取り組みのために」
講師:大和知史 神戸大学教授


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