見出し画像

スライドを用いたリーディングタスク

それなりの長さのある英文を読む際,頭から文法訳読ではかなり辛い。
私が定期的に用いているのがkeynoteを用いたリーディングタスクだ。(もちろん,power pointでも構わない)

以前の記事で紹介したものと同じ系統の,よりクリエイティビティの求められる活動と言える。

以前の記事の授業が「知識・技能」を問う課題だとしたら,今回のものはそれに加えて「思考・判断・表現」にもタップしていると言えるかもしれない。後ほど紹介する生徒の作成したスライドを見てもらえれば,本文からエッセンスを抜き出して,スライドとして適した形に整え(ようとし)ていることが分かっていただけると思う。

題材

扱った英文は「和食」に関する文章。

食材と器の調和,お祝い事のための金色の器や扇型の器,自然を模倣したような盛り付け,美味しく見える盛り付けといった伝統的な和食の提供に関わる内容が書かれている。

実はこの英文の前にわざわざ教科書の方でこんな設定をしてくれていた。

「日本人の中学生が,和食について発表しました」

つまり,2ページに渡る英文は僕の目の前にいる生徒たちと同じ日本人中学生の作ったプレゼンテーションの原稿なのだ。

その設定で,かつ本文の内容も美しい和食の提供と来ている。
であるのに,何故か教科書には写真が3枚無機質に置かれているだけ。しかも白黒だ。(金色の器ってどんな感じなのか見せてくれたっていいのに!)

代わりにプレゼンスライドを作ってあげよう

というわけで,「プレゼンなのにスライドもないし,写真もショボいのが数枚あるだけでつまらないので,この原稿に合わせてスライドを作ってあげよう!」というのが今回のタスク。

スライドの枚数やデザインについては,「和食のプレゼンっぽくしよう」「1パラグラフで1スライドぐらいが丁度いいかな」程度の指示(?)だけ出して,あとは好きに読んで好きにスライドを作ってもらう。
アニメーション込みでこちらの想定よりかなり手厚くスライドを作ってきた生徒もいる。逆にほとんど作らない生徒というのは,ゼロとは言い切れないがほとんどいなかった。

私のクラスではいつもそうだが,読むときは一人で黙々と読んでもいいし,友達と相談しながら読んでもいい。辞書を引いてもいいし,翻訳にかけてもいい。それぞれの学びたい熱量で,学びたい方法で学んでいく
(もちろん彼らならこちらから余計な制限をしなくても自分なりに学べるだろう,という信頼のもとでやれていることだが)

いくつか,生徒の作ったスライドを,該当する箇所の英文とともに紹介する。

Today, I'm going to talk about serving washoku. When we serve food in Japan, we use many kinds of plates, bowls and dishes. We usually use pottery, glass, lacquer or wooden tableware. They have different shapes: big, small, deep, shallow, round and square. They might also have different colors and different designs.

Arranging the food on the dish is also very important. In Photo 1*, the food at the front of the dish is low and higher towards the back. In washoku, we try to imitate nature.
*教科書には天ぷらの画像(白黒)が添付されている。天ぷらが,添付。

The food must look delicious on the dish, and we want to be able to see both the dish and the food. In Photo 2**, the space between the foods is as important as the food. We don't fill the dish with food. The food and the dish are one.
**教科書には小鉢や何だか分からない一口大の料理が間隔を空けておかれた写真が添付されている。

教科書のPhoto 1とPhoto 2はヒントになり得るが,単なる天ぷらや単なる高級そうな和食の写真を置くだけではダメで,手前が低く奥が高くなるように盛り付けられている写真や,料理の間隔が程よく空けられている写真を選べていることこそが,本文を読めている証拠となる。
上の器の種類を紹介するスライドは彼の理解のほどがより明らかだ。

スライド作りが目的になってはいけない

私は授業時数が心配になった時でも「授業でスライド作るから家で本文読んできて」とは言わない。

別に強くそう心に誓っているわけではない。ただ,リーディングの授業の目的を考えれば,そのような指示を出すことはあり得ない。

あくまで我々英語教員が見なければいけないのは,彼らの「読む」過程であり,スライド作成が(活動上メインであったとしても)英語教育上のメインフォーカスになることはない。

スピーキングタスクやライティングタスクは,話したり書いたりする行為がそのままタスクの遂行に直結しがちだ。
リスニングタスクも聞いてすぐにタスクを遂行するのが基本だろう(音は時間を超えて残らないため)。

対して,リーディングタスクは読む時間とタスクの遂行を意図的に分けることが比較的しやすいと思う。
もちろんスライドを作ろうとしているタイミングでももう一度本文を確認しながら作る生徒がほとんどだろう。しかし,「読む」という行為,つまり本文に注意深く向き合い未習・既習の単語や文法と格闘するプロセスをまずは教室で経験させるべきだ。
(海外の)大学のように事前に読んできた英語文献の内容をもとにディスカッションをしようというのなら話は別だが,中学校の英語授業においてリーディングの時間の目標はあくまでも「読めるようになること」だということを肝に銘じておきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?