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「英語学習」と「役割」

英語科教育法IV、『外国語学習者エンゲージメント』の4章後半。

ここでは「ポジティブな教室力学と教室文化」を生み出すための教師の行動を概観した。

今回はグループワークにおける「役割」というものについて改めて考えたい。

行動2に「「私たち(we/us)」という意識を高める」とあり、その方法の一つとして、「集団への正式な関与と貢献」を促すことが挙げられている。
また、行動4は「3つのRを用いた集団作り」を紹介している。「3つのR」とはRule / Role / Routineである。このうち、Role (役割)について、学習者が何らかの役割が与えられることで、「自分がクラスの一員として関わっていると感じ、自分の貢献に責任をもつようになる」とされている。

我々が英語の授業で想像するグループワークと本書でイメージされているグループワークの根本的な質の違いは既に前の記事で述べたし、「役割を与える」ことについても議論している。

ただ、ここであえてまた「役割」を取り上げるのは、日本の学校における英語の授業であまり意識されていない役割観、というか英語授業におけるグループワーク観が本書には表れているからだ。
本書の137ページには「学習者の役割の例」として、「明確にしていく人」「意見提供者」「調整者」「活気を与える人」「評価者」など多くの役割が(先行研究から抜粋される形で)提示されている。

我々の英語科教育法の授業では学生と「自分はグループワークでどんな役割を担うことが多いか」というディスカッションをしたが、英語授業におけるグループ内の役割の設定にはその人の性格・パーソナリティに適した役割を担うべきであるということ以上の意味があ(り得)る。
具体的に想像するのは容易ではないが、グループワーク中の多様な役割に応じたそれぞれの英語使用上の特徴があるのだ。
例えば、「明確にしていく人」であれば、"So, you mean …." "What you said is that …."などの構文を使う頻度が増え、一方「評価者」であれば、"I like your idea." "Your opinion seems to ignore a problem of …."といった発話が求められるだろう。
ここでは構文や語彙の果たすコミュニケーション上の役割が、自分のグループワーク内での役割と連動して可視化される。

あくまで学習者の「エンゲージメント」を論じる本書ではそこには深く言及されていないが、自分の役割を明確に意識しながらそれにあった発話をするという行為は実践的な外国語学習においてかなり重要だろう。

しかし、これが日本の英語教育の文脈の中でどこまで理解され、受け入れられるかは微妙だ。
先日、ある学生から英語プレゼンの授業で出された課題について相談を受けた。その課題の概要は以下の通りだ。

・グループでプレゼンを作るためのディスカッションを英語で行い、そのディスカッションの様子を録画して提出する。
・ディスカッションではプレゼンの序論・本論・結論について、アイデアを出し合うこと。
・適切な英語を使って、相手の意見に賛成・反対などの意見を示すこと。
・ディスカッションを何度も練習し、十分できるようになったら録画して提出すること。

上の課題の内容を読み、最後の点に違和感を持つ人は多いだろう。
プレゼンを作るためのディスカッションを「何度も練習」するのだ。
つまり、ディスカッションはプレゼンを作ることを究極の目的とはしておらず、あくまでもプレゼン作りは「話題」であり、大切なのはそのディスカッションの中で適切な英語を使用して、アイデアを出したり、賛成・反対を表明したりする練習をすることなのである。

この課題に学生は困惑していた。
「え、プレゼンを作るためのディスカッションじゃないの?」
「ディスカッションの台本みたいなの作るってこと?」

教師の意図としては、英語のディスカッションで用いる英語表現やコミュニケーション態度等を含めて総合的に練習してほしいのだろう。一人一人の細かい役割は設定されていないが「賛成・反対を表明する」という言語機能への注目もある。
アメリカやイギリス等における(移民等のための)英語指導ではこのような活動が当たり前に行われているのか、そこは私の勉強不足でいまひとつ掴めていないのだが、教員側は「英語を使う実践的場面としてディスカッションをさせている(だけ)」と思っているのに対し、学生は「プレゼンを作成するという目的のためにディスカッションする(だけ)」と思っているという、明らかな齟齬がある。

グループでの実践的な対話を通して英語を学ぶという発想の薄い我々にはなかなか想像がつかない英語学習の形態だが、もう少し学生の納得感の得られる課題の出し方で、授業外でただ録画させて評価するのではなくて、これこそ授業内で手厚くサポートしながらやらせるのであれば、十分有意義な言語活動になるはずだ。

そういう意味で、学習者にグループ内での役割を明確に与えることは、グループワークを円滑に進めたり、全員の参加(エンゲージメント)を促したりするという、英語学習の場を整える機能だけでなく、英語学習そのものの質に関わる機能があるのである。


ということに、あまり授業内で触れられなかったので、ここに書いてみた。


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