TOKYO COMPLEX 「銀座交差点」

前回の続きです。
TOKYO COMPLEX 「銀座は眩しかった」

初めて銀座に訪れたのが2012年の就職活動中、という記憶で話を進めていたのだが、ふとしたきっかけで過去の日記を読み返すとその記憶は間違っており、正しくは2009年の5月末。僕がまだ東京という街に馴染んでいない、大学1年生の初夏だった。

この話をするには小学生の時まで時計の針を戻す必要がある。
小学生だったころ、理由は不明だが「人気者になりたい」という欲望があった。今でも強く残っている承認欲求からなのだろうか。
そんな気持ちでいた小学生の頃、小学生向けの雑誌に出ていた「人気者ランキング」みたいなアンケート結果が出ていた。その中にあったのが「足が速い人」であったり「カッコいい人」という項目が上位にあった。
その当時から運動神経の悪さと決してイケメンと呼ぶには程遠いルックスであることを自覚していた僕は鼻からそのフィールドで闘うことは避けていた(我ながら情けなくもあるが)。
そんな中、3位か4位ぐらいにランクインしていたのが「面白い人」という項目。
僕にはこれしかない!!
なぜか相当な勘違いを僕はしてしまった。
足が速くないのであれば、人を笑わせられたらいいじゃないか。代替案として果たして成り立っているのだろうか。
また、そのタイミングでバラエティ番組をよく見るようになり、僕は自然とお笑いが好きになっていく。

年を重ね、中学生になった頃にはバラエティ番組だけでなく、「漫才」や「コント」といった園芸に興味を持つようになり、何かのキッカケで「爆笑オンエアバトル」という番組を見るようになった。それはもう、テープが擦り切れるほど、何度も録画した番組を見返しては暗唱した。英単語を覚えるよりも漫才のネタを覚えることのほうが楽しかったし、実際に覚えていた。
そうなると恐ろしいことに「自分でネタを作ってみたい」という欲望が芽生えてくるのであった。
そして、インターネットを見て行く中で自分で作った漫才やコントのネタを投稿し、互いに評価するサイトを発見した。
すぐに自分で作ったネタを投稿するようになった。一時期、少しはその界隈で名の知られるほど、のめりこんでいた。

その中で同時期に同年代のネタ投稿者が2人いた。
その3人の共通点として音楽が好き、ということもあり、僕を含めた3人でネットで企画を経て、実施したこともある。
当時、音楽にハマり始めた頃であり、僕より音楽に対して造詣があった2人から様々なバンドを教えてもらった。
そのうちの1人から教えてもらったのが「くるり」というバンドだ。

中学を卒業してからネットでのネタ投稿の機会はなくなったのだが、そのくるりを教えてくれた友人(以下、A君)とはネット上でやり取りが続いていた。
高校3年になるとmixiが人気となり、そこでもA君と繋がり、交流を深めていた。

そして、浪人生活を経て、大学進学のために上京することを報告。
A君は関東出身で大学も東京の大学に現役で進学していた。
僕はA君と会うのが楽しみで仕方がなかった。

2009年5月6日。
憧れだった下北沢にてA君との初対面を果たす。
今でもこの話は鮮明に覚えている。
初めて会った感覚がなく、一気に仲良くなった。
この話はまた別の機会に。

そしてようやく、本題である5月末。
僕とA君を繋いだ「くるり」がアルバム「魂のゆくえ」をリリースするのに伴い、銀座のアップルストアにてリリースイベントを行うという情報を知り、A君に連絡。
移動中、なぜか渋谷のアップルストアと勘違いしていたことに気づき、急きょ、銀座へ。

その日の記憶は正直、あまり覚えていないのだが、mixiでの日記を読み返してみるとどうやら雨の日だったらしい。
そして、イベント参加には整理券が必要らしく、その整理券がすでに配り終えていたため、ライブに参加できなかった。このことは覚えている。
途方に暮れている中、奇跡が起きる。
雨の中、傘をささず、煙草を吸いに外に出ていたベースの佐藤さんが店内に戻る時にすれ違った。
余りの突然の出来事に僕とA君は驚いて言葉を発することができず、しばらく経ったのち、二人でテンションを挙げながら歓喜を共有していた。

僕が初めて銀座に訪れたのは大学1年の初夏だった。

ただ、今となっては少しほろ苦い思い出とも言える。

A君とはその後もネットでのやり取りは続いたものの、互いにサークルなどでの活動からオフラインでの友人とのやり取りが多くなり、自然と疎遠となっていった。
Facebookでも繋がっていたが、いつの間にか友達解除がされていたし、mixiも退会してしまっていた。
今となっては連絡をする術がないのだ。

今年の3月ぐらいのある日。ふとツイッターの過去ロゴを探してみたら、A君との会話が出てきた。ツイッターでも繋がっていたのを思い出した。
そのアカウントがまだ現在進行形で稼働していることが分かり、アクセスしてみたところ、ブロックされていた。

どうやら僕は知らぬ間にA君を傷つけてしまっていたのかもしれない。

中学3年の時には奇跡のような出会いをし、インターネットでのコミュニケーションの素晴らしさと趣味の話ができる人との交流の楽しさを学んだ。
実際に会ってみたりもして、さらに親交が深まる、と思っていたが、今となっては更地となってしまった。

初めて銀座という街に訪れた時、それはもう、夢のような1日だったが、今となっては幻の1日となってしまった。

今回、東京をテーマにエッセイを書き始めていくと決め、そのために過去のmixiの日記などを読み返すと、忘れてしまっていた記憶と出来事が鮮明に蘇る。そしてまたそれが僕のコンプレックスを生み出すことにもなっている。

前回書いたときは銀座に対するイメージは就職という、辛くも今となっては良い思い出の街、という形だったが、今回、このエッセイを書くことで僕は銀座に来るたびにコンプレックスを抱くのだろう。

銀座。
また今度、足を運ぶ時、僕はどんな顔をしているのだろうか。
街に合わせて華やかな笑顔か、その奥に潜むコンプレックスを隠すための仮面の笑顔か。
またいつか、足を運ばなくてはいけない街となってしまった。

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