「ターゲット」という概念をちゃんと理解する


はじめに

「ターゲット」という概念はビジネスで最もよく使われる重要な概念の1つである。学生の時から概念自体は知っていたし、仕事してからもなんとなく分かっているような気でいたが、マーケティングやブランディングを職業としている身として、実際に普段の業務で有効なターゲット設定ができているか問われると正直ずっと今まで自信が持てていなかった。色々調べていると「ブランドターゲット」「マーケティングターゲット」など色々な概念があり、余計に混乱してしまっていた。自分のようにターゲット設定の本質が分からなくなり悩んでいる人もいるのではないか、と思い、いったん自分の理解をnoteにまとめることにした。今回は「ターゲット」の本質を理解し、業務で活用するために理解すべきポイントをいくつか書いてみたいと思う。


ターゲットとは何か

まず、ビジネスにおけるターゲットとは何か?自分なりの理解を下に示す。

組織・人がある目的を達成するための活動・活動群を行うにあたり、重点的に意図を持って直接働きかけるべき人間・人間群を明確に設定すること

例えば、このNoteの執筆という活動におけるターゲットは、「ターゲットという概念については聞いたことあるしなんとなく分かるが、本質を掴み切れていないモヤモヤ感覚を持っている人」である。

採用活動でも、個人SNS運用でも、ブランド戦略でも、営業活動でも、社内ワークショップの設計でも、全てのビジネス活動で効果的なターゲット設定することが大きな成果につながると考えている。


ターゲットはなぜ重要なのか

色々言われているが、どんなビジネス活動でもターゲット設定をすべき理由は下記3点に集約されるのではないかと思っている。全部当たり前のことであるため、普段はこのようなことは考えずとにかくターゲット設定することも多いように思うが、深く理解しておいて損はないと思っている。

理由①:どんなビジネス活動も何かしらの”目的”が必ずあるから

ターゲット設定は難しいし時間もかかる。ではなぜそれをするのかというと、そのターゲットに対して集中的に活動をすることで、効率的に達成したい目的があるからである。「ターゲットを設定した場合と設定していない場合で何を大きく変えたいのか」が目的となる。ターゲット設定するのは当たり前であり、ターゲット設定自体が目的化してしまっているケースも多いが、その設定の目的を明確に理解・共有しておくことが、ターゲット設定においては一番大事な部分だと考えている。ちなみに、どんな活動も目的をさかのぼっていくと、企業の目的は何か?となり「ビジョン」にたどり着く。

(例)
・◎◎なスキルを持つ即戦力人材が欲しい⇒採用ターゲットを設定する
・SNSフォロワー数を増やしたい⇒SNSターゲットを設定する
・より新規顧客から選ばれるブランドになりたい⇒ブランドターゲットを設定する

理由②:企業のアクションに対する人の反応は”偏り”があり”重心”があるから
例えば、企業が顧客に対して何かしら働きかけたときに、それに対して企業側が望む認識変容・アクションを起こしてくれる確率は人によって異なり、偏って分布している。企業としては、臨む認識変容・行動を起こしてくれる確率が高い層を狙いたいだろう。ターゲティングは「絞り込む」というより「分布の中の重心を見つける」という作業の方がしっくりくる。よく資料などで見せられるような、市場からある特定領域を切り取るのではなく、正確には市場の中で濃い確率分布をしている領域を見抜き、その重心に向かってアクションをしていくイメージである。他の人を捨てることではない。

(例1)20歳のA君がTVCMを見てipadを買いたいと思う確率(もしくは何かのアクションを起こす確率)と、60歳のBさんがそう思う確率は大きく異なる。日本全国を調査してみて、年齢を横軸に、買いたいと思う確率を縦軸に2軸で整理してプロットすると、明確な分布が見られるはずである。(適当だが)例えば、30代あたりにアピールした方がより買ってくれそうである。

(例2)新しい戦略を発表した時に、前向きに捉えて行動に移してくれる人と、批判ばかりで動かない人がいる。(そしてその間の態度をとる人もいる)。「立てた戦略を実行する」という目的に対しては、まずは前者の層を社内浸透ターゲットとして捉えて社内浸透活動を行った方がより効果が見込めるはずである。

理由③:一人一人に個別対応できるリソースはないし、その必要もないから
理想は、反応が異なる一人一人に最適な商品・サービスを提供するための活動を実行することであるが、活動リソースには必ず制約があり、実際にはそれは非現実的である

(例)理想は、20歳のA君が買いたいと思うipadとは別に、60歳のBさんが買いたいと思うXXX(別ブランド商品)を提供していれば、より多く買ってもらえるかもしれない。しかしそのように商品を二つとも作るのは相当なパワーとコストがかかり、事業買収でもしないとすぐにはできない。

①~③をまとめると、「目的達成の確率を高めるためには、アクションを働きかけた時に最も望ましい反応・アクションをしてくれる可能性が高い顧客群を重心として設定し、そこに活動やリソースを集中することが有効そう」ということが言えそうである。これがターゲット設定が必要な理由である。特に①は、当たり前すぎて意識することが少ないが、ビジネスをする中で最も重要な事実である。

ここで、よくある誤解を2つだけ述べておく。

誤解①:ターゲット層は絶対に「絞りこむ」もの

ターゲットが具体的であればあるほどアクションが明確になるという理由だけで、ターゲットを必要以上に細分化してしまう例を見かけるが、ターゲットを行う第一の意義は「目的達成の確率を高めるため」であって「アクションを具体化するため」ではない。例えば、リソースがたくさんあって多くの顧客にアプローチできる大企業の商品では、事業のターゲットは「30代~50代の主婦」など、ある程度大きな塊に調整しておいて、個別のキャンペーンや施策ごとに具体的なアクションターゲットを設定するべきである。「ターゲティング」という言葉は領域を狭めるようなニュアンスが強いと思われるが、必ずしも絞るだけでなく「広げること」もターゲティングの1種であると言える。ターゲティングの本質を意識するためには、むしろ適切な塊を設定するという意味を想起させる「スコーピング」「ズーミング」などの言葉が適切かもしれない。(実際には、絞り込むことが多いが・・・)

誤解②:ターゲット層の設定は絶対に1つでないといけない

1つにしないといけないという決まりはない。リソースや実行できるアクションに限りがあって、2つターゲットを設定するというのは十分あり得る。例えば、よく親と子をターゲットにしたボディーソープのCMや、老若男女をターゲットにしたスマホのCMなどがある。大事なのは「ターゲットを2つにして本当に有効なアクションが実行できるか?」という問いをクリアできているかであり、これがクリアできていれば別に2つでも3つでも4つでも良いのである。(実際には1つであることの方が多いが・・・)

※上記①,②は誤解じゃないことの方がむしろ多いので、あえて記載した。

ターゲットを設定する流れ

最後に、どのようにして良いターゲットを設定するべきかを整理する。

①ターゲットの仮説を複数立てる
まずはターゲット層の仮説を立てる。ここが一番難しいところかもしれないが、「どのような顧客層を重心に設定すれば、今の目的が効率的に達成できどうか」を顧客と合ったり調査結果を分析しながら、うんうんと粘り強く考えるだけである。既存事業のターゲットであれば顧客構造を分析して仮説を立てられるし、新規事業のターゲットであれば、世の中の解決されていない問題を基点に考えてみたり、逆にビジネスアイディアが既に決まっている場合はそのビジネスから逆算して最も効率的にアプローチできるターゲットを考える方法もある。既存事業の顧客に新規事業を展開する場合は、既存顧客の特性を分析して考えれば良い。市場全体の調査をとり、GT表やクロス表等でざっくりと市場構造をまずは把握しておくと、狭すぎたり広すぎたりするターゲティング設定に陥るリスクを低減できる。

②ターゲット設定の判断基準を定める

「獲得魅力度」と「獲得可能性」の観点から評価することが多い。さらにそれぞれの観点を細分化して判断基準を設定するべきだる。例えば「獲得魅力度」をどのように判断するのか、という点はその設定自体が戦略でもあるのだが、ニッチで少人数に展開しているビジネスであれば獲得魅力度の評価は「リピートの可能性が高いか」になるかもしれないし、マスの商品であればシンプルに「人数ボリュームが多いか」になるかもしれないし、世の中的に真新しいサービスであれば「他人への影響波及力が大きい層か」が判断軸になるかもしれない。この判断軸の設定自体にも正解はないのだが、判断の偏りをなくすために少なくとも3つ以上は判断基準を設定して、その3つにも優先順位をつけるくらいの思考をしておくべきである。それができていれば大きなターゲット設定ミスというのは防げるように思う。ちなみに、この②のプロセスを持つのは、意思決定の精度を上げるということ以外にも、組織でのターゲット設定の納得度を高めるため、という側面もあるため、個人の活動のターゲット設定であれば、②はスキップして「えいや」で決めてしまうのが現実的だったりする。実際、例えばSNS運用のターゲット設定は「決め」で良い。

③判断基準に沿ってターゲットを決定する

①で洗い出したターゲット層を、②で設定した判断軸に沿って個別に評価した後、その評価結果を俯瞰して、最終的には定性的な意思や直感も踏まえてターゲットを決定する。

④ターゲットの広さ・狭さ等を微修正する

実際には、①で導いたターゲット層が具体的で狭めすぎたり、あるいは抽象度高く広すぎたり、いざアクションを考えようとしたときに機能しないターゲットになってしまっていることもあるため、再び目的に立ち返り、意味のあるアクションが生まれるようにターゲットの領域を微修正することもある。組織でこの工程を挟む場合は、なぜ微修正したのか、という点をしっかり言語化して、共有しておくことが重要である。


以上である。最後に、ターゲットの設定はその後のアクションとセットであるため「そのターゲットであればどんなアクションになるか」という視点を常にもって議論・設定することが何よりも大事である。ここが抜けると概念だけの話・理想論になってしまうので、「そのターゲットであれば例えばアクションがどうなるか」などの問いかけをしながら設定するのが良い。

事業ターゲットの話に限らず、プレゼン、営業、ワークショップ、会議、等、「働きかける相手・対象がいる全てのビジネス活動」において「効果的なターゲットを設定する」というスキルは活用できるため(しないといけないため)、この概念を早い段階で理解して実践できるようになると大きな差がつくと思っている。少し抽象度の高い話が続いてしまったため、ターゲットの仮説を具体的にはどのようにして立てるのか、というこのについてどこかでまた書きたい。

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