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26歳ワーホリ男vs女子大生5人

朝10時、セットしておいたアラームが鳴り、一応目が覚める。まだ眠れる。
12時、リビングの電話が鳴り飛び起きる。「日本人観光客が来た」との連絡がオフィスから入る。5分で、着替えと髭剃りと歯磨きを済ませ、颯爽と家を出る。日本人のお客様を出迎え、45分ほどかけてパークの中をご案内する。
ガイドツアーを終えるとまた家へと戻り、次のお客様を待つ。だいたいこんな日常である、と言いながらも同じ一日なんてない。時間は有限だ。大事にしよう。

今日は少し特殊であった。5人組の女子大生がいらっしゃったのだ。猫背の男1人vsキャピキャピの卒業旅行ギャル5人という構図である。しかも主導権を持っているのは僕。「パークの知識が豊富」+「こっちに住んでいる」というだけで気分的に余裕が持てる。こんなことはやはり滅多にあるものではない。
日本で5人の女子大生を相手にしようものなら、囲い込まれて服を引きちぎられ、四つん這いになってお尻を開発され、靴を舐めろと命令され、ここには書けないような屈辱を受けるまでだ。これはオーストラリアだから、ワーホリだからできることなのだ。知識は水だ。独占してはいけない。

まあそりゃぶっちゃけ、こういうのは楽しい。いや誤解があっては困るのだが、老人5人組であろうとじっくりゆっくりと風情を感じながらご案内できるのでそれはそれで楽しい。しかし何せ今日は女子大生5人である。自然と声に力が入る。
「へー、卒業旅行なんですね!!!僕は4〜5年前でしたね」
「どこへ行かれたんですか?」
「ハイエース借りて友達8人で東日本周りました!!」
「何それー。ウケる」
てな具合である。寝起きとは思えないテンションだ(ツアー中にスマホのアラームが鳴って寝起きということはバレた。しかしここでも爆笑を取った)。

ツアーは必ず「45分」で終わるように上からキツく言われている。時給は確かに高いが($25/h、祝日は$50/h)、無駄な時間は作らないようにしなければいけない。
女子大生5人を相手にした今日も、適度に集合写真を撮り、適度に雑談をし、適度に急かしながら、きっちり45分にまとめた。もう慣れたものである。小1時間一緒にいるだけで、それぞれのお客様の性格やグループでの立ち位置が不思議と分かったりするのは僕の思い込みかもしれない。何でも分かった気でいるのはもうやめよう。時を戻そう。

僕「ツアーはここまでです。向こう側にカメの住処があるのでぜひ行ってみてください。では、僕はここで失礼」
女子大生A「え、お兄さん帰っちゃうんですか?」
女子大生B「一緒にカメ見に行きましょうよ」

いや、でもツアーの中で「カメの住処は案内する必要ない」って言われてるしなー。あ、でも時間ちょっと余ってるな。いやいや、なるべく時間通りに戻らないといけない......でも女子大生のキャピキャピに混ざれるなんて次はいつになるのかな......どうしよう。誰か助けて......
葛藤。圧倒的葛藤。
そして出した答え。








僕「行きます」

6人で、カメに餌をあげた。「これからケアンズ市内に戻るんですけど何か良いレストランとか知りませんか」と聞かれた。僕は溜めて溜めて、「知りません」と答えた。「いや、知らんのかーい」。ドッと笑いが起こった。
日本人スタッフは少なく、さらに男がほとんどいない中で少し孤独を感じることも多い毎日だが、こんな些細な幸せがたまに訪れる。ツアーの時間オーバーも特に怒られることはなかった。神に感謝しよう。

そういえば最近空手を始めた。職場の近くでオーストラリア人の先生が道場みたいなものを開いているのでそこにお世話になっている。
その先生ファミリーが国立公園の湖で泳ぎに行くと言うので僕もついていくことに。先生と奥さんと、その息子(14歳)、そして僕の4人だ。周りからは「あの日本人、養子かな?」と思われていたに違いない。里親の本格的な国際化の時代がもうそこまで来ている。

ご存知の通り、僕は泳げない。高校の時のプールの授業をぶっ潰していた男だ。だから浅瀬で水に浸かりながら、器用に泳ぐ子供達を見て「みんな泳げてすごいなー」なんて思いながら見ていたのだが、あることに気がついた。

「みんな『泳げるから』ここに来ているのだ」

と。逆に、

「泳げないのにここに来ている俺の方がすごい」

という結論に至った。ネガティブ要素は常に爆発的な自己肯定感と隣り合わせだ。自信を持とう。

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。