Sashimi 醤油

「Sashimi 醤油?」

時刻は深夜0:00

終電に乗り遅れた僕は、家に帰れず誰もいない駅ホームで一人佇んでいた。

僕には友達がいない。

だから、温もりがある宿泊施設に泊まろうなんて考えは、毛頭でるはずもない。

おまけに金もない

だから、タクシーに乗って帰ろうなんて考えなんてあり得るわけがない。

タクシーに使う金があるならば、すぐに五反田へ行き、狂ったように金を使ってしまうただのクズ野郎だ。

仕方がない。少し外は肌寒いが、ベンチに新聞紙でも敷いて寝るとするか。

明日も朝から仕事だ。あまり夜ふかしなんてしてられない。

背が高い僕は目一杯体を丸め、ハブ酒に入れられたハブのような形になりながら、与えられたごく僅かなスペースで目を閉じ、眠りにつこうとした。

すると、急に眠る僕の目の前を、アジの大群が通り過ぎたような気がした。

「アジか。僕はサバのほうが好きなんだよな。サバが通り過ぎればよかったのに」

そう言うと、僕のお腹の虫が急にグーグー鳴き出した。

そういえば、今日は残業後家の近くにある回転寿司を食べに行く予定だったことに気づいた。

人間の体は不思議なものだ。

自分自身の意識下において、魚に関する言葉や考えは完全に消えていたのに、

お腹が減った馬肉多部 砲台という僕自身の体は、そのことについて覚えていたのだ。

初めて誰か人にこのことを共有したい。

そして、誰かとこの感動を分かち合いたい。

そう思ったのも束の間。結局僕は一人、寒空の下、つの字状になりベンチで寝ていることに気づくと、急に目から涙が落ちてきた。

だめだ。このままでは、僕の精神はどこか遠い空間へと飛んでいってしまいそうだ。

いても立ってもいられなくなった僕は線路へ飛び降りると、東京の下町を照らす東京タワーへ向け、全速力で走り出した。

走り出してから一時間が経過したとき、一軒のスーパーを見つけた。

「スーパー 顧問  ça va」

ここだ。僕が求めていた場所はここだ。

前世界中の人から集められた直感力とでもいうべき力が、稲妻のように僕の脳内を突き刺し焼き焦がした。

「いらっしゃいませ〜」

謎のフランス人店員による、必死の接客を横目に、僕は凄まじい勢いで入店した。

珍しい。英語圏でいうmid nightを通り越し、時刻は深夜2:00にも関わらず、店はお客さんで溢れかえっていた。

何がそんなにも魅力的な店なのか。

気になった僕は、溢れんばかりの思いを一度落ち着かせ、店内を歩き回ることにしてみた。

店内にはオーナーがフランス人なのか、やたらにフランスからの輸入物が置かれていたが、それ以外にはなんの変哲もないただのスーパーだった。

歩き回っていると次第に疲れてきて、僕の体を駆け巡っていた先程までの興奮が落ち着き始めたときのことだった。

「Sashimi 醤油」

Sashimi  醤油?

刺し身醤油とは、その名の通り、我々日本人が主に刺し身を食べるときに使用する醤油のことだ。

味は地方によって千差万別である。九州地方の刺身醤油は、甘いと聞く。

刺し身醤油のことだよな?なんでSashimi ってローマ字になってるんだ?

そのときである。

一人の老婆が僕のところへ、鬼の形相で走ってくるのがみえた。

そして、なにか大声で叫んでいる。

「Sashimi 醤油!!!!」僕の目が覚めた。

今日の夢は一体何だたのだろうか。







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