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俺を囲んでいるこの警官はたぶん年下

嫌悪には二種類ある。折り合いが付くものと付かないもの。相手が年下というだけで、付かない折り合いがある。

ローソンでバイトしていたとき、老害からのクレームは折り合いが付いたが、高校生の不届きな行いには我慢ならなかった。
マクドでバイトしていたとき、おっさん店長のパワハラには折り合いが付いたが、一個下の十五歳の「ちゃんとやってくださいよ」には折り合いどころか、折り目の直線すら付かなかった。

職質を頻繁に食らうのが少々悩みだ。
「よく道を聞かれる」と言う友人がいるが、僕は「何を持っているか、何をしているのか」とよく二人組警官に問い詰められる。

今日も渋谷をウロウロしていたら、二十代前半ぐらいのパトロール隊に「ちょっといいですか」と声をかけられた。「いや、よくはない」と答えるも「まぁまぁまぁ」とまぁ三連発でコーナーに追い込まれる。

道のすみっこで凶器を持っていないかのチェックが始まる。終わると財布の中身をチェック。ルーティンである。
明らかに年下であろう男に「仕事は?」などと聞かれ「ボーカル」と答える。ちょっとだけ怒られる。

不愉快かと言われたら不愉快なのだが、仕方ないという気持ちもある。
警察官は「なんか犯罪者っぽいやつ」には声をかけて治安を維持しなくてはならないからだ。
何度も職質されるのは僕自身の責任でもある。パッと見で「感じのいいやつ」になっておけばいいだけだ。だが、これは無理だ。

たとえば今日の僕は別段、おかしな服装でもなかった。それなのに引っかかってしまった。ではどういうことなのか。「格好とかじゃなくて、お前のかもしだす雰囲気が全体的に怪しいんだよ」という話なのだ。

鈴木大介さんの『老人喰い』に書かれていたが、オレオレ詐欺は、服装髪型にうるさいらしい。タトゥー、長髪禁止、黒上短髪必須なのだ。
アジトに「出社」するときに目立つとマズイので、怪しまれないルックスを心がけなくてはいけない。それこそ職質食らうなんてもってのほかで、七三分けメガネが基本ファッションらしい。

じっさいの怪しい人間、というかゴリゴリの詐欺師までもが『怪しさ』を消す努力に汗水垂らし、マトモなふりをしている。僕ももっと頑張るべきなのだろう。

今読んでいるあなたは、「職質なんて食らったことない」というだろう。そんなひとがほとんどだと思う。何なら「一度食らってみたい」ぐらいの感覚かもしれない。別に何か減るでもない。そのとおりだ、何も削られない。多少の時間ぐらいだ。

だけど十回を越えたあたりから自分を疑いたくなる。
「何かしら俺はしくじってるんじゃないか?」という気にもなるし、悪いこともしていないのに、邪な人間な気がしてくる。次第には誰かに土下座したい気持ちが膨らんでくる。

このいたたまれなさ、申し訳なさは警官が「年下っぽい」とさらに複雑になる。「見た感じ新米くん」みたいな警察官に声をかけられて、言いなりになるのは、バイトで年下に怒られる感覚と酷似している。

極端な話だが、修羅場を潜ってきた老練な刑事に「ちょっといい・・・?」とヒアリングされるほうがまだいい。「あぁ・・・嶋さんか、あんたもしつこいねぇ」とでも言いたくなる。

どっちにせよ嫌だが、やはりバイトもおっさん店長に怒られたほうがまだいい。

卒配されたばかりぐらいの大学生もどきに「ちょっといいですかー!」と朗らかに声をかけられると、もう、なんというか、心がやられてしまいそうになる。
「何も減らない」と書いたが、ウソだ。なす術なくボディチェックを受けていると、自尊心なるゲージが減っていくのを体感する。魂が抜けるような無力感と折り合いが付かない。付いてしまったら、いよいよ終わりな気配もするのだが。




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