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“ひらめく”には、脳の筋力が必要⁉︎ 『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』プロデューサー・加地倫三さんの企画力の鍛え方【バラエティ番組のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。今回登場するのは、テレビ朝日のエグゼクティブプロデューサー・加地倫三さんです。

テレビ朝日のバラエティ番組『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』は、放送開始から20年を超え、長く愛されている人気番組です。番組の演出とエグゼクティブプロデューサーを務めるのが、今回お話を伺う加地倫三さん。

『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』だけでなく、『テレビ千鳥』『霜降りバラエティ』『有吉クイズ』など、数々の人気バラエティ番組を担当する加地さん。1992年にテレビ朝日に入社してから30年以上テレビ番組の制作に携わり、バラエティの第一線で活躍し続けてきました。

加地さんは、企画を考えるための「脳の筋力」を日々鍛え続けているといいます。どうして面白いアイデアが生まれるのか、なぜ加地さんが手掛ける番組は長続きするのか、お話を伺いました。


流れを固めすぎず、スポーツ監督のように「采配」する

──数々の人気バラエティ番組を手掛けられている加地さんが、番組づくりで大切にされていることは何ですか?

いろいろありますが、ひとつには「決めすぎないこと」ですかね。

ある程度の構成や段取りは事前に決めておきますが、収録前に演者に対して「必ずこうしてください」というような指示の出し方しません。想定する作戦は所詮、会議室で考えていることに過ぎない。現場にはそのときの「流れ」があるからです。

事前に流れを固めすぎると、演者たちは決められた台本に合わせようとして、アドリブが生まれにくくなってしまいます。あえてゆるい雰囲気をつくり出すことで、予想外の爆発力を持った面白さがバンッ!と生まれるんです。スポーツで例えると、演者は選手で、僕は監督のようなイメージ。ポジションやフォーメーションは固めているけれど、その瞬間は選手の判断になるのと同じです。

──「作戦」に縛られすぎず、現場の「流れ」を大切にする“采配”をしているんですね。

采配、そうですね。現場の流れに合わせて考えながら進めていくので、収録中はかなり脳を使っています。

特に、『アメトーーク!』は大まかな台本やテーマしかないので、「これは放送に使える」「この笑いはよかったから、どこかで被せてもう一回使えないか」「トークは途中までよくなかったけど、オチは面白いから短くしよう」「今日は撮れ高がいいから次のコーナーはやる必要ないか」といったように、現場で必死に考えています。

──収録中に頭で編集をしているんですか?

そうです。とはいえ、事前に成功パターンをシミュレーションしておくことは大切です。だからこそ、場面場面の判断ができるわけで。その骨組みとなるのが、やはり「構成」です。『アメトーーク!』は「〇〇芸人」というタイトルだけならいくらでもつくれちゃうので、フィーリングや思いつきで企画が決まることも多いです。難しいのは、それを面白くして、一時間の番組に仕上げていくこと。番組として成立させるためには、どう構成するのかを粘り強く考えなければなりません。

それでも、やってみたら面白くならなかった、ということもあります。でも実は、失敗したものから学べることのほうが多いんです。成功したときより「なんでだろう?」と考えますよね。その「なんでだろう?」がとても大事なんです。構成だけじゃなくて、それぞれの場面の「面白い」「面白くない」には必ず理由があります。理由を一つひとつ探って、「気づく」ことが大事なんです。

──加地さんが「気づく」ことへの意識を持つようになったのは、いつからですか?

最初に配属されたスポーツ局時代に、試合中の細かな状況を読む癖がついたのかもしれません。「今、監督の表情が変わったな。ってことは……」のような些細なことをどう放送に繋げるかが大事なので。今も、演者のことに限らず、日常で見るものすべてに対して「なんでだろう?」と自然に考えています。すべては「気づく」ことから始まると思うんです。

「足りていない」ものが何かを分析し、補っていく

──『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』は20年以上続く長寿番組です。番組の中の一つひとつの企画をつくるときに意識していることはありますか?

ひとつには、ヒット企画を続けないことです。ヒットした企画ばかりをやっていたら、いざ視聴者が飽きたときに次の手を打てません。先ほども少し言いましたが、成功しているときは失敗したときほど反省をしないものです。ヒット企画をどうするかという脳しか使わないので、余計に次の策を打つのに時間がかかり、時すでに遅しということになりがち。企画という戦略は、できるだけ多く持っていたほうがいい。だからこそいろんなタイプの企画をやるようにしています。その週その週で運用しながら、「今、番組に足りていない要素」を考えるんです。例えば、笑いに特化した企画が少ないな、ゲスト企画ばかりでMCが活躍するような企画がつくれていないな……と、番組全体の傾向から「足りていない」ものを分析しています。

最近、『テレビ千鳥』では千鳥のふたりだけで完結する企画が続いていたので、もっと大勢を巻き込む企画をつくりたいと思っていました。そんなときたまたま、アメトーークの楽屋で蛍原(徹)さんと「最近、芸人が始球式をやるのが難しい」って話をしていて、「あ、(千鳥の)大悟に始球式やってもらおう」と思いついて。その場で「ちょうどいい始球式やりたいんじゃ」という企画が出来上がりました。

──「足りていない」ものを分析して、補うために企画するんですね。

そうですね。僕はもともと分析が好きで、番組だけじゃなくて人やロゴ、物事全般を分析しちゃうのが癖になっている気がします。

演者にしても、この人は何が得意で、得意じゃないかをいつも見ています。分析したものを頭の引き出しに入れておいて、キャスティングのときにパズルのように当てはめていくんです。足りないピースを埋めてくれる人をキャスティングに加えることもあります。

例えば以前、『アメトーーク!』で「オシャレって何なの芸人」という企画をやりました。有吉や(オードリーの)若林、(博多華丸・大吉の)大吉先生が、「オシャレの意味がわからない」と文句を言う企画です。そのとき、MCの雨上がり決死隊がいまいち捌ききれていなかった。なんでかというと、彼ら自身がオシャレをいまいち理解できていないから(笑)。当時のことが頭にあったので、この前「オシャレしてると思われない芸人」を企画したときには、オシャレのことを理解できていて突っ込める人として、(おぎやはぎの)矢作くんに出演をお願いしました。

同じ人でも歳を取れば、その人が持っている要素が変わっていくこともあります。(ロンドンブーツ1号2号の)淳も結婚する前と後では、キャラクターが少し変わったように感じます。時代が変化しても対応できるように、分析し続けていく必要があるんだと思います。

「自分だったら」と考え続け、脳の経験値を上げる

──「企画」をうまく考えられる人とそうではない人の差は、どこにあると思いますか?

アイデアが「降りてくる」とか「ひらめく」という表現ってよく使われがちですが、結局は「脳の筋力」の問題だと思うんです。僕が思いつくときは連想ゲームみたいにキーワードがつながっていくことが多いのですが、脳の筋肉を使っている感覚があります。

最後に苦しみながらバーベルを「もう一回」と上げることが、筋力をつけるのには重要だって言いますよね。脳も体を鍛えるのと同じように、苦しくなったときに力を振り絞って考えられるかがポイント。日々考え続けていれば脳はどんどん鍛えられていきますし、考えなければ脳の筋力が衰えていってしまいます。

──加地さんは具体的に、どうやって「脳の筋力」を鍛えてきたのでしょう?

自分の仕事じゃなくても、「自分ごと」として捉え続けてきましたね。僕も入社した当初は何もできなかったのですが、スポーツ局の先輩から「自分だったらどうするかを常に考えろ」と教わったんです。番組を観るときは、自分だったらどう演出するのか、どう構成したいのか、「自分の考えをいつでも持っておけ」と。

料理って、レシピ通りにつくっていても上達しないじゃないですか。料理本に頼っているだけだと、自分で考える力が養われていかない。自力でいろいろ試してみて、「ごま油ってこういう役割を果たすんだ」「この食材の組み合わせはイマイチだな」と経験を蓄積し、自分の引き出しを増やしていくことで、本を見なくても料理ができるようになっていきます。

番組づくりも同じです。どれだけ自分で考えて、「脳の経験値」を上げていけるか。自分の担当回のときだけ頑張って考えていても、全然足りないと思います。担当していない回のときにも、必死に考える。「自分だったら」といつも当事者意識を持っていれば、自然に周りとの差はついていくと思います。

──あらゆることを自分ごとで捉えられるようにしていれば、「脳の経験値」がどんどん上がっていくということですね。

はい。僕は30年間ずっと、番組のことを常に考えていて、「脳の経験値」が上がり続けています。だからある意味、企画を考えられるのは当たり前なわけです。

最初から「正解」を出そうとするのではなく、「自分で答えを導き出す」ほうが大事です。間違っていたとしても、自分なりに考えてみてください。たとえ跳ね返されたとしても、考えたことを発言してみてください。いつも頭をフル回転させていれば、思い通りに発想できるようになるはずです。

■プロフィール

加地倫三
テレビ朝日コンテンツ編成局エグゼクティブプロデューサー。1969年神奈川県生まれ。上智大学卒業後、1992年にテレビ朝日に入社。スポーツ局に配属後、1996年より制作部門に異動しバラエティ番組の制作に携わる。2023年現在、『ロンドンハーツ』『アメトーーク!』『テレビ千鳥』などの演出・エグゼクティブプロデューサーを務める。趣味は競馬。


取材・文 冨田ユウリ
取材・編集 くいしん
編集・撮影 小山内彩希

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