企画とは共犯意識を生み出す遠足のしおり。川田十夢さん【AR三兄弟のTAKURAMI】
2009年の結成以降、音楽、テレビ番組、ファッション、アニメなどを題材にした数々の作品を手がけながら、ARの領域を先導してきた未来開発者ユニット・AR三兄弟。
※AR(拡張現実)……現実を仮想的に拡張する技術のこと。3D映像やキャラクターなどのデジタルデータを重ね合わせ、現実世界を拡張する。
そんなAR三兄弟が新たに手がけるのは、バリアフリーなオンライン配信サービス「THEATRE for ALL」と取り組んできた『バーチャル身体の祭典 VIRTUAL NIPPON BODIES 2023』。2022年に発表された『VIRTUAL NIPPON COLOSSEUM』に続く、人体データのアーカイブ&発信プロジェクトです。
本プロジェクトには、芸能・音楽分野から小林幸子、鎮座DOPENESS、ヨネダ2000らが出演し、人形浄瑠璃や唄と踊りの民謡といった伝統芸能からも多くの才能が集結。
総勢約20名によるジャンルレスな芸能が、特設アプリ「社会実験」上で、ARコンテンツ「バーチャル身体図鑑」として楽しめます。
開発・総合演出を務めるAR三兄弟の長男・川田十夢さんは、「企画すること」をこんなふうに語ります。
「企画は半分」
「共犯意識を明文化したものが、『企画書』」
「遠足のしおりをつくるみたいに企画している」
「目的地まで一緒に行く意味を、プラスで足していくことが企画」
ARテクノロジーの最先端を走り続けている、通りすがりの天才・川田十夢の企画術を紹介します!
「企画って、共犯意識を生むことと近い」
──2009年にAR三兄弟を立ち上げ、たくさんの作品をつくられてきたかと思うのですが、これまで何作品くらいつくってきたのでしょうか?
企画、開発してきたプロトタイプは、現在で800ほどです。
──14年で800作品⁉︎
小説家の星新一さんは、ショートショート(小説の中でも特に短い作品のこと)を1000作品以上書いたんです。僕もそのくらい行きたいと思って日々やってきました。とはいえ、数を打っているだけでは仕方ないので、1作品でも強く印象に残るものをつくりたいなと、近ごろは思っているところです。
──そんな川田さんは、「企画」をどのように捉えていますか?
まず、僕にとっては、AR三兄弟というユニット自体がひとつの企画なんです。僕はAR三兄弟を立ち上げる前に、社内外の仕事を問わず、いちプログラマーとしていろんなプログラミングの仕事をしていました。例えば、何千万人の顧客情報を管理するシステムを、自分の名前を出さずに開発していたり。
そうやって自分が表に出ない生き方ももちろんある一方で、僕自身はプログラミングを表現の領域に持っていきたかった。
──「AR三兄弟」というプロジェクトにしたことで、「プログラミングされた何か」が「表現」として捉えられやすくなるように思います。
そうなんです。自分のアイデアに対していろんな人たちが「一緒にやりたい」と乗っかってくれることを、連続性を持ってやっていきたかったんですよね。AR三兄弟はそれを実現するためにつくったユニットなんです。
──プロジェクトのどの過程を「企画すること」と考えていますか?
僕は常に、「企画は半分」と思っています。
アイデアを発想して形にすることって、技術的に、AR三兄弟だけでもできるんです。言ってしまえば、僕ひとりでもできる。だから僕らはアイデアが生まれたら、すぐラフ案を書いて、そのままつくっちゃうんです。
でも、つくったものでいかに社会との接点を生むか、そこに協力したいと思う人を集められるかを考えたときに、「企画を立てる」ことが必要になるんです。そういう意味で、企画は半分。
僕にとっての企画って、共犯意識を生むということと近いのかもしれない。企みを自分ひとりの企みにせずに、個々人が企んでいることと接続していくということです。
──みんなの共犯意識を高めていくためにどんな工夫が必要でしょう?
みんな普段は、それぞれの生活や目的があって離散的に生きているけど、ちょっと矢印を変えるだけでひとつの企画になるんです。遠足のしおりのようにね。
そう、僕は、遠足のしおりをつくるみたいに企画しているんだと思います。
──遠足のしおり?
遠足のしおりには、日程表から目的地、おやつはいくらまで、さまざまなことが書いてあって、各自が自由にメモを残せるスペースもあったりしますよね。そういうふうに共犯意識を明文化したものが、「企画書」だと思っています。
みんなで同じ目的地に向かっているけど、家に帰るときはそれぞれが自分のミッションをクリアして、別々の何かを持ち帰る。そういう形を実現するのが遠足のしおりだと思いますし、文化事業であろうと広告案件であろうと、同じように考えて企画しています。
今回発表する『バーチャル身体の祭典 VIRTUAL NIPPON BODIES 2023』も、いろいろな場所を劇場にしながら体が不自由な方々や、外出するのが難しい方へのエンターテインメントを届ける配信サービス「THEATRE for ALL」と一緒に取り組んでいるプロジェクトなんです。
そこと隣り合うときに、自分たちの技術をどう運用できるのか?ということを考えてきました。目的地まで一緒に行く意味を、プラスで足していくことが企画ですから。
企画術とARへの解釈は、「境界を越える」で共通していた
──今回のプロジェクトの手前に、前作として『バーチャル身体の祭典 VIRTUAL NIPPON COLOSSEUM』というプロジェクトがありました。
そもそも今回のVIRTUAL NIPPON BODIESは、3年目のプロジェクトなんです。VIRTUAL NIPPON COLOSSEUMは、2年目のプロジェクト。
ピースが揃っていく順番としては、まず1年目に、人間の身体をスキャンした3Dデータとモーションキャプチャーをつくり、ARで出せるようにしました。それが僕らだけで技術的にかなえられるところ。
2、3年目は、その技術に対して一緒になって乗っかってくれる人たちのどんなミッションをかなえられるのかを加味しながら、企画していきました。
──2年目はAR技術で、芸能・芸術・スポーツの分野で活躍される方々のパフォーマンスを、スマホ一台で目の前につくり出すことをかなえました。総合演出を務めた川田さんの、パフォーマンスへのこだわりはどういったところに現れていますか?
2年目は、もしも僕が東京オリンピック開会式を演出したらこうしたかった、ということを表現したくて。
開会式って、これまでいろんな国がやってきたけれど、スポーツかカルチャー、どちらかに振り切っちゃっていて、それぞれの登場人物が一緒に何かをやるお祭りって見たことがないような気がしていました。
そこで、スポーツも文化も何もかも、開会式に集めることにしたんです。
──VIRTUAL NIPPON BODIESでは、お笑いから演歌、ラップ、日本各地の伝統芸能まで、ジャンルレスに芸能を扱っていますね。
思いとしては、最先端でお笑いをやっている人も、盆踊りなどの伝統芸能をする人も、昭和の時代からずっと歌っていらっしゃる方も、同じように日本の芸能として扱いたかった、というのが一番大きいですね。
その上で、「どういった人が出演したら面白いかな?」と絵を描いていきました。
絵を描きながら、今回のアイコンである昭和スターの小林幸子さんの隣にどんな人がいたら面白いんだろう?と考えて、選んだのがラッパーの鎮座DOPENESS。ふたつのカルチャーはまだ隣り合っていないから、面白いかなって。
──スポーツとカルチャーを融合した前作に続いて、今作も、まだ隣り合っていないものを掛け合わせるという試みをされたのですね。
僕はARの根本的な良さは、境界を越えられることだと考えているんです。逆に言うと、ジャンルの垣根を越えたものをつくらないと、ARの良さが出ない。だから、「出自」の違うものをARを介して一緒に共演させるということは、何か自分のバランス感覚として、企画するときにずっとやっていることですね。
自分の感情を企画に入れる
──AR三兄弟、そのリーダーの川田さんですが、どういったことが企画・開発の原動力になってきたのか気になります。
大学時代に明確な未練があって。僕はロックミュージシャンの忌野清志郎さんが大好きなんです。当時も大好きで、大学の中でも歌っていたくらい(笑)。
あるとき、同じ大学にいた忌野清志郎さんと近しい関係性の人から「好きなら、会わせてあげるよ!」と言われたんです。でも僕は、「自分の力で会ってやる」と思っていたから、その誘いを受け入れなかったんですね。ですが、結局会うこともないままに2009年に亡くなってしまいました。
だから、会いたい人に会える企画を考える、ということをずっとしてきたのかもしれないですね。初期衝動っていうのかな、自分の感情的なものを企画に入れることが大切なんだと思います。
──自分の感情を企画に入れる。
自分の感情や自分なりの解釈にちゃんと接続する企画を考えないと、受け取る人に意外と見抜かれたりするものなんです。大人になると、覚えないといけない言葉や常識があるけれど、そんなものに寄せてまで企画する意味ってあんまりない。
下心でもいいから、ちゃんと自分の感情に伴うものを企画に入れたらいいなと思いますね。
■『バーチャル身体の祭典 VIRTUAL NIPPON BODIES 2023』公開記念イベント開催
日時:2023年2月11日(土)14:00~20:30
会場:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
東京都渋谷区宇田川町3-1 渋谷東武ホテル地下2階
イベントページはこちら。
■プロフィール
川田十夢
AR三兄弟では企画・設計を担当。公私ともに長男。10年間のメーカー勤務では特許開発に従事。2009年にやまだかつてない開発ユニット・AR三兄弟を立ち上げて以降、約800のプロトタイプを企画・開発しながら、執筆、講演、審査員、ラジオ出演など、活動は多岐にわたる。著書に、『AR三兄弟の企画書』(日経BP)、『拡張現実的』(東京ニュース通信社)。J-WAVE 『INNOVATION WORLD』に毎週金曜に出演。パパになった通りすがりの天才。
取材・文:小山内彩希
取材・編集:くいしん