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ブランド評価指標に「コンセプト想起率」は含めているか?

ロイヤルティの高い顧客が“究極の経営資産”

 顧客関係管理(customer relationship management, CRM)と言うと,顧客統合データベースの構築や,キャンペーンのターゲティングなどがプロジェクトになっていたりする。しかし,それはCRMの本質ではない。CRMの目的は,ロイヤルティを長期的に築き上げ,利益を効率的に上げることである。新規顧客を開拓するより,既存顧客をリピーターとして確保する方が,圧倒的に効率が良い。また,ロイヤルティの高い顧客は,ブランドに対して情熱を持っており,商品をよく理解し,ブランドの伝道師としての役割を果たす。

利益を食い潰す粗悪な顧客

 上位20%の顧客が80%の収益を生む「20:80の法則」は非常に有名である。しかし,ここには優良顧客の視点しかなく,粗悪な顧客の視点が欠如している。よって,上位20%の顧客が80%の収益を生み,その収益の半分は下位30%の粗悪な顧客への対応で失っていると考える「20:80:30の法則」[1]が重要である。もちろん,これは単純なモデル化であるが,経営の本質をわかりやすく表現している。したがって,企業の利益率は,優良顧客の多さと粗悪な顧客の数の少なさで大きく決まる

2:8の法則
20:80:30の法則

溢れかえる効果の乏しいブランド評価指標

 上記の背景から,多くの企業はブランド評価を欠かさない。しかし,指標が乱立し,意思決定が複雑な状態に陥っている例が見られる。この状態が従業員のモチベーションを下げ,膨大な作業工数を無駄にし,意思決定のスピードを遅くしてしまう。よって,指標のシンプル化は最優先の課題の1つである。
 この時のポイントは,効果の不明瞭,あるいは乏しい指標を徹底的に除外することである。一般的に利用されながらも,購入行動への効果が乏しい指標に好意がある。昔ながらの国民的アニメのキャラクターの好意を問えば,大多数がYesと回答するだろう。しかし,好意があると答えた人たちは,毎週そのアニメを欠かさず見て,DVDと漫画をすべて保有し,日常的にグッズを買い貯め,コラボした商品を毎日チェックしているだろうか?おそらく多くの場合は,好感はあっても,実際の購入行動には至っていない。つまり,好意と購入行動は同じ方向性であっても,購入までの距離が遠い点が問題である。

5つのブランド評価指標

 ブランド評価に必要な指標は,以下の5つである。1つ目は認知。消費者が知らないと,この世に存在しないことと同じである。2つ目は購入意向。知っていても,買いたくなければ価値ではない。3つ目は支払意思額。この視点が欠落している場合が多い。日本は長らく「安いこと」が誉められる特徴であった。しかし,マーケティングの基本は,「高いお金を払ってでも欲しいと思われる価値をつくること」である。したがって,「安いなら買う」と捉えられるようでは,その商品・サービスの価値は乏しい。4つ目はロイヤルティである。購入頻度が高い商品・サービスの場合は再購入意向,家電や車のように頻度が低い場合は推奨意向が利用される。
 最後の5つ目は,コンセプト想起率である。この指標が圧倒的に欠如している。商品・サービスのコンセプトが価値づくりの根幹であることは既に述べた[Link]。よって,ブランドを管理するにあたって,ロイヤルティの理由を聴取した際に,コンセプトが想起されるか否かが重要である。いかにロイヤルティが高くても,理由がコンセプトと関係ない部分にあれば,戦略が間違っているにもかかわらず,たまたま上手くいっているだけである。そのような商品・サービスは短命で終わる可能性が高い。

ブランド評価指標

コンセプトが想起される強固なブランドたち

 以下は,Starbucks,東京ディズニーリゾート,Apple MacBook, Dyson Big Ballの利用者にロイヤルティの理由を聴取し,要因別のロイヤルティへの寄与度を評価した結果である[2-5]。各ブランドでコンセプトの果たす役割が強いことがわかる。表面的な性能やデザインに価値を感じている消費者は,より高い性能,よりおしゃれなデザインを持ったブランドが出現した際に,すぐに心変わりしてしまう懸念がある。一方で,ロイヤルティの高い消費者は,ブランドのコンセプトを理解し,共感し,そこに価値を感じている可能性が高い。したがって,ブランドマネジメントでは,コンセプトがロイヤルティの要因であることを定期的に把握すべきである。

ロイヤルティへの寄与度

[1] Sherden, W. A. (1994). Market ownership: the art & science of becoming# 1. American Management Association.
[2] Kato, T. (2022). Brand concept drives loyalty toward Starbucks: Concept, product, place, and staff in Japan. Central European Management Journal, 30(1), 70-90. https://doi.org/10.7206/cemj.2658-0845.70
[3] Kato, T. (2022). Does concept recall in brand Iimage show high loyalty? An experimental study on the Apple MacBook. Marketing and Smart Technologies, 1, 69-77. https://doi.org/10.1007/978-981-16-9268-0_6
[4] Kato, T. (2022). An empirical study of brand concept recall as a predictor of brand loyalty for Dyson. Lecture Notes in Business Information Processing, 443,  76-86. https://doi.org/10.1007/978-3-031-04126-6_7
[5] Kato, T. (2022). Customer experience factors contributing to brand loyalty to Disney Resorts: An empirical analysis of concept, casts, attractions, and characters. Proceedings of the 2022 American Marketing Association Winter Academic Conference, 138-149.

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