見出し画像

通訳者を本気で志す

初めての現場見学

 人生で初めてプロの通訳者のお仕事を拝見させて頂きました。ろくに通訳の一つもした事の無い私が、通訳者のOさんにお会いしてから通訳という職業に自然と興味を惹かれ、遂には実際の現場にお邪魔して参りました。今後のキャリア形成に生かすためにも、私なりにタメになったことや感じた事をここに記したいと思います。


シンポジウムにおける同時通訳

 今回Oさんが務められたのは、シンポジウムにおける参加者に向けた同時通訳の案件でした。このフォーラムにおける同時通訳のお仕事はOさんにとって三年連続三度目で、今回は日英の通訳のみでした。まずはOさん、大変お疲れ様でした。三時間にわたる長期戦とは思えない程の圧巻の仕事ぶりでした。
 私自身、シンポジウムというものに参加すること自体が初めてで新しい経験となりました。その中でも、通訳者がどういった段取りを行って本番に臨むのかという広い意味での通訳者としてのメンタリティーは勿論の事、他の通訳者さんや講義をされる先生方との打ち合わせの仕方、そして実際の同時通訳における通訳の仕方やテクニックなど本当に沢山の事を学ばせて頂きました。
 それではこれから「詳細な段取り」「通訳のテクニック」という二つの観点から今日の学びをまとめていきたいと思います。

「詳細な段取り」

 今回の案件では、Oさんと他にもう一名の通訳者さんとのお二方が交代で通訳を行うという体制をとっておられました。こういったフォーラムやシンポジウムにおいては、事前に発表で使用するスライドや原稿が配布される事が一般的で、当日までに他の通訳者さんと役割分担を済ませるようです。
 集合時間に到着して間も無く、T教授との打ち合わせが始まりました。T教授はパネルディスカッションのファシリテーターとプレゼンテーションを担当されていて、プレゼンテーションの通訳はOさんが担当でした。打ち合わせって社交辞令や挨拶が飛び交うものなのかなという浅はかな期待とは裏腹に、そこでは具体的なスライドの概要の確認や、発表者の方が「何を伝えたいのか」を突き止めるという非常に繊細な作業が行われていました。こういった打ち合わせは計四名の登壇者様との間でそれぞれ約5〜10分程行われましたが、Oさんは毎回「一番伝えたいメッセージは何ですか?」という質問をされていました。
 この「伝えたいメッセージを知る」ことの本質的な意味は、通訳の方向性を決めるというところにあります。大西さんのこの考え方によって通訳のイメージが今日だけで一気に変わりました。話者の意図を伝えることが通訳の目的であって、話したことをそのまま直訳することよりも、話者の話を咀嚼して自分に落とし込んだ上で言語を超えてもなお根本的なメッセージを損なわないような表現をするのが大切で、これこそがプロの通訳だなと感じました。
 また、Oさんのレベルになっても事前復習が必要な専門用語があるみたいで、瞬発力が求められる同時通訳においては専門的な用語を押さえておくことにより不安がある程度解消されるのかなと思いました。
 一見緊張感も無く場馴れしているように見えた大西さんですが、その裏には入念な準備が見て取れました。登壇者様の内のとある先生の出版物を事前に読み込まれたり、スライドが印刷された書類にはキーワードに引かれたアンダーラインや夥しいメモが観察でき、Oさんの余裕のある様子にも納得できました。
 まとめると、①話者が本質的に伝えたい事を確認して、②固有名詞の読み方や専門用語の確認(その単語についての実際の言及の有無の確認も含む)といった内容確認、そして③資料への書き込み・メモといった準備が施されていました。
 ちなみに、打ち合わせが始まる前には各先生方との名刺交換を行なっていて、打ち合わせ後にはラフな会話を通してうまく懐に入り込む大西さんの姿も印象的でした。このカジュアルな会話にもOさん曰く意味があるみたいで、それは通訳をする上で非常に大切な広い意味での「ご縁(コネ)」を得るためでもあるみたいです(どれも心のこもった温かい会話でした)。

打ち合わせでの学びをすかさずメモ

「通訳のテクニック」

 打ち合わせが無事に終わり、まずは会場のブースの見学をさせて頂きました。会場のKホテルでは常設のブースがなく、今回のために臨時設営されたブースはちょうど二人の人間が入れる様なこじんまりとした空間でした。人生で初めてみる通訳に使う機材は、とてもシンプルで想像以上に使いやすそうだなと思いました。初めてブースで着用するヘッドフォンは普段音楽を聴くための物とは違い、それを着けただけで胃が痛くなるような緊張感を感じました。

ブースでの機材の説明


 本番中はブースの真横から「PanaGuide」というガイダンス機を着用してフォーラムに参加しました。右耳では日本語のお話を聴き、左耳ではOさんたちの英訳を聴いて、脳内では自分なりの同時通訳を行うといった前代未聞のマルチタスクにはかなり体力と精神力を消耗されました。

初めて手にするPanaGuide

 私の想像以上に本番でのスピード感はかなり速く、30秒もあれば私の同時通訳では実際のスピードに簡単に置いていかれるほどでした。そのため、全文を聞いてから訳を始める様では間に合わなく、Oさん方は話を聴きながら区切りをどこかで見つけて、コンマを巧妙に使った通訳をされていた印象を受けました。どうしても言語の構造上の違いを変えることは不可能ではありますが、主語を先に出して文構造を受動態にしたり、関係代名詞節を上手く疑問文に消化するなど多くの細かい工夫により話者のスピード感に食らいついておられました。私には到底できないテクニックだなと思うと共に、このテクニックを身につけるべくいち早く現場での実務経験を積みたいなとうずうずしているところです。


刺激的な一日

 私が通訳者という進路をフワッと意識し始めたのも昨年の夏頃で、それまでは遊びやアルバイトを重視した大学生活を送っていました。留学生との交流をきっかけに、「日本って外から見たらどんな国なんだろう?」「逆に他の国って日本とどう違うんだろう?」といった国際的な視点を持つようになってから、自然と元からあった英語への関心が蘇ってきて、TOEICの受験や日々の単語学習等を通じて最終的に通訳者を目指そうという着地点に落ち着いていたところで、昨年11月にOさんと奇跡的な出会いを果たしました。かなり短いスパンで色々なことが起きすぎていて、このまま急ピッチで物事が進めば、近い将来にOさんと同じ現場でお仕事をしてその後に打ち上げをするというのも夢じゃないかもしれません。
 今日のOJTによって、自分が何をしたいのか、そして今後何をすべきかがかなりクリアに見えてきました。自身の飽き性な性格はずっっっっと直したいところだったので、毎日自分の目標とその日の頑張りを振り返り、通訳というものに是非没頭できたら嬉しいです。
 Oさん、本日はありがとうございました!!今後も何卒よろしくお願いします!!

市民広場駅でツーショット

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?