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蒼い炎Ⅳ 無限編

【羽生結弦(著)】
【株式会社扶桑社(出版社)】


正直な感想を言うと、悲しかった。

羽生選手は、2022年の冬季五輪のフリーの演技を終えた頃にはプロへの道に進むと決めていた様子だったが、自分が見るに決断はかなり前から決めていたようにも思えた。
※フィギュアスケートはショートプログラム(SP)とフリープログラム(FP)の2演技の合計点で順位が決定する。


この本の重要なキーワードとなっている「4回転アクセル」。

羽生選手が幼い頃から憧れていたジャンプであり、世界最高難度の大技でもある。
今でこそ、アメリカのイリア・マリニン選手が試合で複数回に渡って成功させているが、当時はまだ誰も成功させられていなかった。
と言うよりも、挑戦する選手がいなかった、という表現が正しいのかもしれない。


羽生選手は世界で初めて、4回転アクセルの認定を受けた選手である。
しかも、初めて認定された公式戦が2022年の冬季北京五輪と聞いたので、余計に驚いていた。

長い現役時代で試合の中で成功こそ果たせなかったが、恐ろしいストーリーを完成させていた印象が強く残った。


羽生選手が本格的に4回転アクセルの練習に着手し始めたのは、2018年の平昌五輪が終わってからだとされている。
※この時の平昌五輪で、見事に大会連覇を達成している!

平昌五輪後は、羽生選手は試合に向けて練習するというよりも、自分のやりたいことを達成するために練習するだろうと個人的に感じていた。

ただ、選手である以上は試合に出場して、それなりの結果を出さないといけないのがアスリートたる所以。

ましてや羽生選手は特に負けず嫌いの性格が前面に出ているので、周囲の反応に関係なく出る試合は必ず勝つという思想をお持ちなのである。
なので、言われるまでもなさそうな気はしていた。

しかし、2018年の平昌五輪以降に一強時代を築いたアメリカのネイサン・チェン選手の勢いは羽生選手のビジョンを次々と破壊していった。

ネイサン・チェン選手と羽生選手とでは、試合に対する考え方が全く違うように感じ取れた。

ネイサン・チェン選手は、2018年の平昌五輪(羽生選手が大会連覇を果たした試合)でショートプログラムで17位と大きく出遅れてしまい、結果的にメダルに届かなかった。
この悔しさをガソリンに変換して、4年後の2022年冬季北京五輪までの4年間を独走状態で走りきる。

当然、1試合ずつ確実に勝つために計算されつくした戦略で試合に臨んでいる。

一方で羽生選手は、引退を視野に入れながら試合で4回転アクセルを降りることを目標としていた。
試合で勝つことよりも4回転アクセルを降りるためのプログラムを作成していた。

となれば、試合で評価されるのは当然、ネイサン・チェン選手となる。
二人の選手の差が開くというより、全く異なる考え方なのに同じ土俵で比べられる状況となってしまったのである。

羽生選手は、ジャンプの難易度(4回転アクセルを除く)を上げずにプログラムにおいての表現面に勢力を注いだ。指先や音の解釈等を洗練させ、平昌五輪の時よりも格段に演技力は高くなっていた。

ただ、羽生選手は2015年にバルセロナで開催されたグランプリファイナル(GPF)で世界歴代最高得点を出していた。考えてみると、羽生選手の悲しさが見てとれるのは当然である。
当時よりも、平昌五輪で大会連覇を達成した時よりも今のほうがスケートが上手くなっているにも関わらず、2015年のグランプリファイナルの点数と変わらない。

つまり、羽生選手がエネルギーを費やした表現面の評価がされていないことになる。
決定的だったのは、2020年に平昌で開催された四大陸選手権である。
ここでもショートプログラムで世界最高得点を叩き出すも、過去の点数と差がない。

この時点で、採点競技の世界から軸足を抜くことを決めていたのかもしれない。
頑張っても評価指標に上限がある限り、評価指標内の伸びしろにとどまってしまうのだから。

それよりも自分のブランドを使って自由に表現したほうが最高の作品を創れると考えたと思われる。


ここから分かることは、上限が設定されているゲームはモチベーションの維持が非常に難しいことである。できるようになればなるほど、それらは評価されずに永続的に枠内の種目のみで評価されてしまう。
ましてや次は追い上げられる恐怖心と強制的に向き合わなければならなくなる。

自分が取り掛かる市場はどの位置にいるかはキチンと確認いけないと感じました。

羽生結弦選手の自伝完結編ですが、非常に自分事として人生観について考えさせられた本でした。


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