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私がピクサー映画を好きすぎる理由がやっとわかった

アニメが特別好きってわけじゃないけれど
ピクサー映画に限っては
不思議と、ものすごく惹かれてしまうんです。

なんでこんなに心躍るんだろう。
ずーーっと考えていました。

Disney +で何気なく見た映画に
答えがありました。

the pixer story

2007年に公開、
ピクサーの創設から
大ヒット連発に至るまでを描いた
秀逸なドキュメンタリー映画です。

トイ・ストーリーの産みの親、
ジョン・ラセターを中心に、
最大の出資者・スティーブ・ジョブズ、
前身部門・ジョージ・ルーカス、
声優・トム・ハンクスなどの
濃密なインタビューで構成されてます。

作品としてもすごく面白いんですが

ひとつのフレーズが
長年抱えていた疑問を
一瞬で解決してくれたのです。

「自分はなんでこんなにピクサーが好きなのか?」

ピクサーが世界初の
コンピューターグラフィックで
長編アニメを作るにあたって、
出資元であるディズニーの当時の会長が
繰り返し要求していたこと。

"キレのある作品にしろ"と繰り返していた 

あっ!!
この字幕を見た瞬間、
しばらく頭が真っ白になりました。

数分間、呆然として
映像も音声も字幕も入ってこず、
脳内で散らばっていた
細かい要素がみるみる
規則性をもって整理されていって
やっと意識を取り戻した次第です。

・・・この感動を少しでも
文章に表せたらと思い
本記事を書き始めました。

長文になってしまいましたが
ご一緒にピクサーの深みへ
さんぽするように読んでいただけると
幸いです。


「Make it edgy (キレのある作品にしろ)」


当時を振り返って
ディズニーの重役さんは続けます。

キレのある作品とはつまり、
機転が効いていて、シニカルで、
大人向けで、おとなしすぎない作品であること。

ピクサー映画の第1作目である
「トイ・ストーリー」は
キレのある作品にすることを
裏のコンセプトとして
出来上がっていたのです。

具体的に振り返ってみます。

いきおい、少し「キレのある」ポスターを
チョイスしてみました。

ウッディの瞳に映るのは
新しく入ってきた、
子供に大人気のおもちゃ、
バズ・ライトイヤー。

本作は
おもちゃのリーダーで、
持ち主のアンディに最も愛されていた
ウッディが、
新参のバズに対して
「嫉妬」を感じるところから
物語が転がり始めます。

人間がもつ抗い難い負の感情、
おもちゃとしての存在意義、
大量生産された「モノ」としての運命。

子供向けというのには
あまりにも過酷で、
根源的なテーマを含んだ物語なのです。

大人向けの設定として、
カウボーイとしてのウッディと
宇宙飛行士としてのバズの共通点が
どちらも
「フロンティアを開拓し続ける存在」
というのも、見逃せません。

アメリカの行き過ぎた開拓が、
世界に混乱を引き起こしたことへの
シニカルな風刺にもなっている。

深いところにキレがある。

また、バズのモデルは
監督のジョン・ラセター本人です。

©︎Pixar Animation Studios
ジョン・ラセター ©︎Pixar Animation Studios

顔と体つきがめっちゃ似てます。

ラセターは、ピクサー創立の以前に
ディズニーをクビになった過去がある。

アニメとしてのエンタメを「開拓」し、
愛され続けていたディズニーに対して、
CGという技術を武器にして、
全く新たな「開拓」を試みる。

自身の開拓者としての想いを
「バズ・ライトイヤー」に乗せて
顔まで似せて、作品を作り上げた。
私小説のような側面もあったのです。

大人向けのシニカルなテーマに加えて
作品の成り立ち自体にも
魂から響くような裏のストーリーがある。


トイ・ストーリーに見る「キレ」


掘り下げて見えてきた
「キレのある」部分をご紹介しましたが
さんぽ的に眺めてみても
「キレ・edgy」はたくさん見つけられます。

予定調和ではない脚本。
予想を裏切る展開。
見たことのない絵的な面白さ。

©︎Pixar Animation Studios

おもちゃ達が協力して
アンディが受け取るプレゼントを
調査する作戦実行の周到さ。
面白すぎます。

©︎Pixar Animation Studios

生き生きと動いていたおもちゃ達が
人間が来ると急に「モノ」に変わる瞬間。
無表情とのギャップ。
少し怖さを感じるのも、
「キレ」の一部だと思います。

©︎Pixar Animation Studios

ウッディが図らずも
バズを窓から落としてしまったところ。
信頼している仲間たちからの
執拗な非難。その深さと時間的な長さ。

©︎Pixar Animation Studios

シドの家に捕らえられ
ピンチの時ですら、
もう少しのところで、
裏切りの尾は引いて途切れない。

©︎Pixar Animation Studios

バズが「バズ・ライトイヤー」のCMを見て
自分がスペースレンジャーではなく
ただのおもちゃだと自覚するシーン。

信じて疑わなかった
自身の存在、使命、生きる意味を
根こそぎ打ち砕かれた。

これ子供に見せちゃっていいの?
っていうくらい根源的な絶望で
深すぎる悲しみを表した場面でした。

ラストでは

©︎Pixar Animation Studios

「飛べるわけないだろ!」
と嘲笑っていたウッディが
バズと一緒に飛ぶんです。

「バズ!君が飛んでる!」
バズの答えは

©︎Pixar Animation Studios

「かっこつけて落ちてるだけさ」

スペースレンジャーから
ただのおもちゃに生まれ変わったバズは
滑空しながらも、冷静でした。

おもちゃとしての運命を受け入れ、
おもちゃとしての機能を使って
仲間のピンチを救い、
持ち主のアンディのところへ
見事に「着地」したのです。

ピクサー大好き!


キレイゴトに落とし込んで、
大人も子供も感動!みたいな
よくある作品にはしない。

このへんに落ち着くだろう、
という予想を、快く裏切るキレ。

ディズニーの会長が
ピクサーに求めた
「キレのある作品にしろ」
という言葉があったことを知って

私の中の
ピクサー映画に対する
言葉にならない気持ちが
みるみる点と点が線で繋がるように
実感をともなって
身体に湧いてきたのでした。

トイ・ストーリーに続く
ピクサー長編映画に関しても
大ボスであるジョン・ラセターは
「キレのある作品を」と言い続け
後輩の監督達に徹底させていたようです。

だからどの作品も漏れなく
面白かったんだ。

このドキュメンタリー映画では
ピクサースタジオの内部まで
ありありと見せてくれます。

時にはダンスしてアイデアを出し合う。©︎Pixar Animation Studios

なんども脚本会議を繰り返し、
批判しあい、磨き上げられた物語。

©︎Pixar Animation Studios

おもちゃであふれるデスク。
打ち合わせ中に
スタッフがにこやかに
自転車で通り過ぎる(笑

©︎Pixar Animation Studios

仕事に飽きたら
シーソーに乗って遊ぶのよ。

©︎Pixar Animation Studios

完成した作品を試写するところでは
もうみんな子供のように
はしゃいで笑って喜びを分かち合う。

そんなピクサーが
大好きです。

どうして「キレのある作品」に惹かれるのか?


「キレのある作品」と聞いたときに
頭の中にあったバラバラの要素が
みるみる繋がっていったと書きました。

あの作品もこの映画も、
だからこんなに魅力的に感じるんだ!
という具合に、
自分が好きになる作品の
大きな基準の一つが明らかになったことが
感動した理由でした。

「レオン」「ショーシャンクの空に」
「ファイトクラブ」「デッドプール」・・・
などなど。

どの映画も、どこかに「キレ」が潜んでいる。
その発見がかなり大きかったのです。

ここで、そもそもなんで
「キレのある作品」が好きなのか?
と自分自身を掘り下げてみました。

以前に書いた自己紹介でも触れた
山野博史先生。

山野先生との出会いで、
はっきりと人生が変わりました。

それまで、人嫌いで暗い性格だったのが
「人間」の面白さ、奥深さを学ばせて頂き、
人生を明るく歩めるようになった。

今でも師匠として仰いでいます。

そんな山野先生に教えて頂いた
文章の極意があります。

「”おかしみ”のある文章を書きなさい」

おかしみ、とは
心がほんのり明るくなるような
”微苦笑”を誘うようなもの。

ユニークとも少し違う。
笑わせるとも違う。

”おかしみ”を込めるためには
狙い過ぎないように個性的であって
具体的で、絶妙なさじ加減のユーモアが
なくてはならない。

そんな文章が、いちばんです。と。

・・・私の解釈も多く含みましたが
大枠は外してないと思います。

それからは文章を書くときには
必ず”おかしみ”を込められるように
精いっぱい尽力してきたし
これからも意識していく所存なのですが

今回「キレのある作品」と聞いた時に
少し時間が経ってから、どうしても
連想して思い出されたのが、この
”おかしみ”でした。

「キレ」がないところには
「おかしみ」は生まれにくいし
「おかしみ」がなければ
「キレ」も生じにくい。

どちらも、予定調和ではいけない
という点が共通しています。

言葉自体がもつ感じは少し離れているけど、
根っこのところで深く繋がっている気がする。

個人的に、”おかしみ”を表すことを
まあまあ大きなテーマとして生きてきたので
ピクサーの「キレのある」作品に
惹かれ続けてきたんだなあ。

山野先生から学んだことと
ピクサーの裏コンセプトが
かなりの密度で重なった。

本作ドキュメンタリーを見て起こった
瞬間の爆発的な脳内連鎖は
全部はとても書けないけれど
幾分かは表せたんじゃないかと思っています。


最後に、”おかしみ”追求生活を送る上で
バイブルとして大切にしているのがこちらです↓

とくにその中の
田辺聖子「苦味を少々」は
小説から抜き取られた名言集のようなもので
”おかしみ”のある文章のオンパレードです。

ご興味のある方はご参考までに。

最後までお読み頂き、
また超個人的な話にご同行くださって
ありがとうございました。

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