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【要約・感想】Winny ネット史上最大の事件

未来に1歩近付いた。1人の天才と7年の歳月を失った。
映画「Winny」

あらすじ(所要時間:30秒)

この映画は、2002年、2chに公開されたファイル共有ソフト「Winny」が映画やゲーム、音楽などの違法ダウンロードの温床となったことを端緒とする。違法コピーした者たちが逮捕されていく中、開発者・金子勇氏(東出昌大が著作権法違反幇助の容疑で逮捕され、ネット犯罪に明るい弁護士・壇俊光(三浦貴大)が弁護団を結成し、権威と戦った闘争録である。

winny事件について他記事でも多くまとまっていることから、ネタバレの懸念などは一切考慮せずに感想を書き切る。というより、そもそも本noteは深夜に筆をとるほどには感化された者の凡凸とした感想文なので、半目でご笑覧いただくくらいがちょうどよい。

本作の監督は、松本優作氏。秋葉原・無差別殺傷事件を題材にした「Noise ノイズ」で長編映画デビュー。ほか「ぜんぶ、ボクのせい」で多数の国内映画賞にノミネートされる。本作のよう社会の闇に焦点を当てた題材で、人情の機微に触れた繊細な作品となっている。

WIRED記事:金子勇が遺した「残る強さ」というメッセージ:映画『Winny』監督・松本優作が読み解いた“稀代のプログラマー”の思い より引用

主演を演じる東出昌大氏は、天才プログラマーである金子勇について理解を深めるために、ご遺族のもとに自ら伺ったり壇弁護士を囲んで生前の金子氏を自身で形態模写したとのこと。その憑依ぶりは、氏を知る方は揃って「似ている」と評するほどという。

winny 公式サイトより引用

史実を再現するにあたり、擦り合わせに多く時間をかけたに違いない。余談だが、東出氏は山で自給生活をベースに暮らしているそう。ぼくが同じ立場だったらそっとしておいてほしいと思うのだが、テレビ取材受けちゃってる。いいのかな。

争点

この事件の争点は2つである。

・殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか
・「出る杭が打たれる」日本社会でいいのか

詳しくはABEMA討論で

早くも結論に達するが、この映画からは技術に罪はないことを立証し、若い技術者が萎縮しない社会をつくるべきだというメッセージを受け取ることができる。金子氏はだれもが2年はかかるものを2日で作ってしまうほどの方だったという。そんな方がのべ7年もの時間をかけて、有罪判決となった第一審を控訴して無罪を勝ち取ったことは、上記に対する答えと捉えられる。

本作の鑑賞において、以下、僕の胸を打った場面に触れながら映画の内容について触れる。

「47イキロ」

これは、小さい個人の力を集めることができるインターネットを象徴する出来事である。
金子氏に逮捕状が出てから、壇弁護士に一本の電話がかかってきた。「プログラマーの〇〇ですけど、2chのみんなで47の弁護費用を出そうって。」既に、インターネット上では47 (2chスレ上の金子氏)の弁護費用を集める動きが生まれていたのだ。実際に壇弁護士の口座に振り込まれた振込名義には「47イキロ」と応援の言葉がびっしりと並んでいた。

映画『Winny』<東出昌大、支援者からの応援に涙ぐむ!> 【本編特別映像】より引用

インターネットが紡いだ人情を目の当たりにして、戦うことを決意する金子氏。拘留場の面談室から物語は始まる。

映画『Winny』<東出昌大、支援者からの応援に涙ぐむ!> 【本編特別映像】より引用

「膿は出し切らないと」

この事件と同時並行して描かれている事件がある。
愛媛県警での会計不適切処理事件だ。これは、捜査費用の99%は警察が作成した偽の領収書できられていたもので、「若い警察官の志が折れる前に、膿は出し切らないといけない」と不正に疑惑を持つ、ただ一人の熱血漢が内部告発を決した。

映画『Winny』<東出昌大、支援者からの応援に涙ぐむ!> 【本編特別映像】より引用

本作品を描く際に、なぜこの事件を含めたのか。
これは僕の考察だが、権威権威に立ち向かう者という安直な二項対立を描くことで、その背後にある構造を伝えられない、あるいは我々鑑賞者側が理解を諦めてしまうから、ではないだろうか。

僕たちは、わかりやすく記号化されたものに飛びついてしまう。権威たる警察組織が悪なのではなく、そのなかの「杭を打つ指示を出す人」「杭を叩く人」が組織を腐敗させていることが伝わってくる。

本事件において、当初、県警側は完全否定をしていたが、winny上で漏出した捜査関係書類が決定打となり、世論は県警を疑う声を強めた(こんな言い方で締めるのは、本事件の結末は本作では描ききられていないからである。もやもやする)

だれの視点なのか

本作は、事件を時間軸で追って映像化している。それは金子氏・壇弁護士の一人称視点の追憶でもない。僕たちのような、事件を"知らない子どもたち"の視点なのではないだろうか。

本作には、壇弁護士が先輩に向けてP2Pネットワークについて何度もわかりやすく説明するシーンや、高齢の裁判官がカタカナのIT用語をたどたどしく読むなど、当時の概況がどれほど不利だったのかが伝わる場面が多くある。

正直、僕のようなデジタルネイティブな世代からすると、馴染みのない風景なのだろう。僕自身も、こんなにも硬直した国なのかと感じられた。そして、いまのインターネットがあるのは、氏を含めた先人の活躍の上にあることをゆめゆめ忘れてはいけないんだ、とも感じえた。

おわりに

本noteが映画論評どころか感想文の域を出ないことをご容赦いただきたい。

本作は、金子氏・壇弁護士のバッテリーの挑戦譚であり、インターネット史に残る事件のドキュメンタリーであり、僕たち次の世代が渡していくべきバトンである。

僕と同じ世代の方々がそれぞれ何を受け取ったのかは分からない。ただはっきりしているのは、社会を変えたいのなら社会がどのように成り立っているのかを理解するべきであり、そのルールを打ち破るようなアイデアや技術を世に出すことに萎縮してはいけないことだけだ。

©2023 映画「Winny」製作委員会

僕自身は、ITサービスの立ち上げをしている起業家の端くれである。恐れ多くも、同氏が直面した理不尽を自身に重ねると胸が痛くなる。

最後になるが、どの場面においても技術について無邪気に語る氏の顔が焼き付いて離れない。こんなにも楽しそうに語る人って応援したくなるんだなと、僕もより深く没頭していかなければと思えた。

もし同じく何か理不尽に立ち向かっている人がいるのであれば、ぜひ劇場に足を運んでほしい。僕たちが社会を前に進めなきゃいけないんだ。


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