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“農家のいない”世界を目指す、 内子町/菜月自然農園

JR内子駅から県道沿いに10分。
人気のない丘の上で、小さく自給生活を送っている方がいた。
菜月自然農園の園主、和田光弘さんだ。

かつて放棄された巨峰園を開墾して、年間100種ほどの野菜と果物を露地栽培。自給暮らしの先輩から、果樹の苗や野菜の種をもらって丘の上で栽培している。丘を下った場所に一反七畝ある田んぼでは、故福岡正信氏が遺したハッピーヒル種のうるち米、他に古代米、香り米などを自然栽培している。肥料は、米ぬかとおからを混ぜたボカシを一年寝かして完熟発酵させたもので、ほとんどは農園内の刈り草を畝に敷いているだけ。

和田さんは、2000年に内子町に家族で移住。自由を求めるあまり、勤めていた印刷業の仕事を辞めて夫婦だけの理想郷を探していたところ、水が澄み渡る南予に位置する内子町に行き着いた。

野菜はほとんどが自家採種し続けているもので、農家仲間と「タネの交換会」を行うほど固定種・在来種の普及に力を入れている
野菜畑の横ではアケビ、ぶどう、柿、すもも、ブルーベリーなどの果樹をたくさん植えている。剪定技師である道法正徳氏に倣い、果樹の無肥料・無農薬栽培に成功。大切に育てられた果物たちは、旬を迎えると手摘みされてジャムに加工され、近隣の道の駅に並ぶ。

「小さい地域で、みんなが自給することが一番。」

和田一家は、「好きなことを楽しくやろう」と手作りの暮らしをすることをモットーにしている。
驚いたことに家づくりも土壁塗りから自分たちで
火まわりは、間伐した木材で炭を作り、囲炉裏や薪ストーブなどで賄う。さらに、今年はコンポストトイレを作ろうと意気込むほど、無駄のない循環的な暮らしを実践している。

しかし、今の生活に至るまで決して楽な道のりではなかった

一般的に、地域は“余所者”に冷たい。
お米を作ろうにも、移住して間もない頃は棚田の一番下の田んぼをあてがわれた。水もなかなかまわってこない上に土も良くない圃場だったが、なんとか地域に溶け込もうと消防に入り、自身が出品している道の駅の運営委員に6年間携わったりしていた。

自然に囲まれている内子に同じような考えを持った自給仲間がポツポツと暮らしていたのは幸いか。10年前には「みんなで何か楽しいことをしよう」と思い立ち、毎月“丘の上の日曜市”と題して自然派ファーマーズマーケットを催すようになった。県外にも噂は広がり、多い時には週末に700人もの参加者を集めた大規模なイベントとなった。

「小さく、みんなで自給出来たらそれでええんや。自給できているということは、一番自由なんだよ。」

目指すのは、“農家のいない世界”。
仕事をしながらでも、みんなが最低限野菜を育てていると、とりあえずは食べていける。肉や魚は、自給仲間とまとめて買ったり物々交換で足りている。時には、野菜をあげるかわりにほつれた服を縫ってもらうというような、物コト交換をしたりもする。

昨今は誰かに合わせて生きている窮屈な人が多い、と和田さんは語る。
何かに支配されて生きるのではなく、お互いが相互扶助できる関係を築くことが理想。
それが、菜月自然農園が掲げる"地域自給"の姿だ。


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