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食品原料の流通構造 鶏インフルエンザ下における卵の流通

食品産業への理解を深めるためには、大きな流通である食品製造業・外食小売に使われる原料の流通について触れる必要があります。

本noteでは、原料の流通構造について加工用途としての卵・加工液卵に触れてみます。

なぜ卵なのか

加工食品の原料とされる素材のなかでも、卵はいくつかの要素が当てはまります。

①多業態で利用される点
卵は、食品原料のなかでも汎用性が高い食材です。
多くのレシピで、結合剤としての役割を果たしています。(製造部品みたい) 例えば、ケーキやクッキーのような焼き菓子では材料同士をつなぎ、ふんわりとした食感を生み出し、ソースやドレッシングの乳化剤として、滑らかで均一な食感を生み出すのに役立っており、外食産業・小売どちらにとっても重要な役割を担っています。

②生産量に上限がある点
卵は、賞味期限が短く壊れやすいデリケートな商材です。そのため内需に対してほぼ国内生産で賄っています。生鮮品のままでは脆いため、輸入では賄いきれない点があります。(現状、輸入鶏卵は全体のうち5%以下)

③トレンドに左右されやすい点
養鶏場における経費のうち飼料代は実に50%近くを占めています。その飼料のうち実に90%は海外の穀物を輸入しているのが現状です。のちに触れますが、昨今ではウクライナ情勢を背景とした穀物飼料の相場高騰・円安による輸入コスト増から生産原価の高騰に、また鶏インフルエンザ蔓延による供給制限から小売価格の高騰がみられます。

卵の値段が350円に。平年比174%の高い水準を記録した。

4月4日の記者会見にて 野村哲郎農水大臣の発言より

卵のバリューチェーン

養鶏場から消費者への直接取引を除き、養鶏場で生産された卵は、卸問屋を通して食品メーカーに、または液卵への加工会社に運ばれます。液卵に加工されたのち、冷蔵のサプライチェーンを通じて物流センターに運ばれます。そこから製品の原材料として使用され、小売外食に渡ります。

おおまかな 国内VC(バリューチェーン)

少し解像度を高めると、商流は以下に分類されます。

国内VC 全体像

一次加工を経た液卵は、惣菜を内製している小売/外食に、また食品製造業者にて最終製品になり納品されます。

国内VCうち 原料用途として

商流ごとの各出荷量・割合

ある養鶏場では、出荷される卵のうち90%以上の規格品は、小売への卸または利益率の高い直売にまわっています。うち5~10%ほどの訳あり卵(汚れ, キズ,ヒビなど破卵)が加工にまわり、液卵として流通されます。

国内VC 各出荷量・割合

ちなみに、加工液卵に関して「加工液卵(国産)」と表記されるため、卵には産地指定に対して特別厳しい決まりはないとのこと。そのため全国域からコストメリットの効く大規模養鶏場を中心に、小~中規模養鶏場からの訳あり卵を仕入れ、液卵に加工しています。

ただ、養鶏場にとっては粗利が低いため、この状況下においては加工液卵向けへの供給量自体が少なくなっているのが現状です。

農林水産省「畜産統計」より抜粋

なぜ卵の価格が高騰しているのか

かんたんに、背景について触れます。

全体的なインフレの影響

特に、卵の価格上昇の要因は飼料穀物、運搬にかかる燃料費、人件費全てのコストの上昇が背景にあります。

鶏インフルエンザの流行

鶏インフルエンザは、超伝染性で致死率が高く、感染した鶏の90%から100%が48時間以内に死亡すると米国疾病管理予防センターは発表しています。卵を産む品種が特に感染しやすいため、養鶏場においては鶏の数を大幅に減らしています。米小売では小売価格が昨年比7倍になるなど「eggflation(:卵のインフレ)」とよばれています。

NEWSWEEK 卵1パック974円──アメリカで超高級食材になってしまった原因と「エッグフレーション」より引用

原料高騰を受けた、流通の変化

先程のスライドを参照すると、国内で生産される卵のうち約50%が業務用として食品製造業・小売外食に流通されています。

国内VC 各出荷量・割合

国産鶏卵全体の供給量が減少した結果、国産鶏卵全体のうち加工用の20%のうち、~10%は小売へ回るようになりました。これは、まま加工用への供給減少を意味するのですが、そのため卵を使った製品の値上げ・内容量の減少(ステルス値上げ)がみられるようになりました。また、小売価格が決まっているPB/OEM商品に関しては、値上げ分を反映できず廃盤になるものも。

代替品の需要

不足している加工用の原料需要に対して、輸入の加工液卵(冷凍)をはじめ、水に溶かすだけで卵として使える全卵粉、植物性原料をもとにした代替卵が、流通されるようになりました。

キューピー「HOBOTAMA(ほぼたま)加熱用液卵風」(60g・参考小売価格:税込182円)「HOBOTAMA(ほぼたま)スクランブルエッグ風」(60g・参考小売価格:税込214円)

結論

物価高騰・鶏インフルエンザ下において卵の全体供給数は減少し、それによる小売価格の値上げ(ステルス値上げ含む)、原材料の見直し、商品の廃盤が進みました。

関係者に話を伺うと、代替品を組んだとしても全体供給量が回復するのに時間がかかるため、この流れは今年中は落ち着かないと見立てられています。

鶏インフルエンザは、例年秋から春頃にかけて(渡り鳥、人の移動の増加につれて)発生しますが、23年3月時点で過去最多の観測・処分数を記録しているとのこと。殺処分を行った養鶏場が原状復帰をするためには、1~1.5年を要するといわれています。(経験ある養鶏場の方のお話を思い起こすと胸が痛みます..)

食品流通の負を解決しませんか

卵のように、全国で原料不足が嘆かれたときにそれを補完する役割は求められています。僕自身が食品商社に背景があること、BtoB SaaS プロダクト開発に強いメンバーが集まっていることから、よりよい仕組みをつくれないかとゼロイチを進めているところです。

レガシー産業の変革に興味がある方仕組みをよくして社会をよくしたいと熱を抱える方、ぜひ一度お話しましょう🙌

参考

鶏卵需給見通し(令和2年9月)

調査と情報2019年11月号 (nochuri.co.jp)

鳥インフルエンザ 1500万羽超処分 最多シーズンの1.5倍に | NHK | 鳥インフルエンザ


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