見出し画像

#11 精神疾患等の二次障害に対する早期介入を実施することは可能か?④

 前回から引き続き、「わが国における予防精神医学の歩みー脆弱要因の減弱とレジリエンスの増強ー 小椋力」予防精神医学Vol.2(1)2017の抜粋を用いながら、予防について考えていく。

レジリエンスとは

 いきなり横文字が登場するが、レジリエンス(resilience)とは、元々は物理学から来た用語で、外的な力が加わっても、そのまま折れることなく立ち直る「しなやかな強さ」という意味合いで用いられる。「弾性力」や「回復力」のような意味合いでも用いられることがある。精神リハビリテーションにおいて、予防の観点では、特にこの「レジリエンス力」の高さが重要な視点であり、ストレス耐性という言葉にも当てはまるだろうが、自身の心理状況のコントロールをするという意味でも大事な言葉である。(他の文献などでもレジリエンスが何を指すかを言っているものがあり、webで検索しても今はたくさん出てきますので、ご自身でも調べてみてください)

 1990年代心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する者としない者との存在から、防御要因が注目され、今世紀に入り他の精神障害にも関心が拡がるようになった。精神医学のパラダイムとして、1)脆弱性モデル、2)ストレスモデル、3)生物心理社会的モデルが挙げられているが、レジリエンスモデルはこれらに引き続く形で研究・治療上の新しい展望を拓くことが期待されている(加藤、2011)。

心理的レジリエンス因子は以下のように示されている。
1)前向きな姿勢:楽観主義とユーモアのセンス
2)積極的な対処様式:解決策を模索する感情を制御する
3)柔軟性のある認知,認知面の再評価:逆境における意義もしくは価値観を見出す
4)倫理基準:核となる信念を受け入れる
5)運動):定期的な身体活動を行う
6)社会的支援:お手本となる人もしくは信頼のおける相談相手

 精神医学のパラダイムが変わってきた中で、レジリエンスの考え方があることで、より「予防」的な視点が強くなってきたように感じる。つまり、教育的な支援においては、個人をみればレジリエンスを高めることが、二次障害の予防には効果的だということが言える。

レジリエンスを増強させるには

 この文献では、さらにレジリエンスを増強するいくつかの研究についても紹介している。レジリエンス増強の要因が明らかになれば、それを踏まえた上でのプログラムやフォロー体制、教育的支援が導かれる。

障害を持つ子どもの養育者、家族のレジリエンスを高めるための研究結果が報告されている
【家庭のレジリエンス増強に関する研究】
1)高機能自閉スペクトラム症の子どもの養育者にとって、子どもの持つ障害は自分
にとって有益なものと考え、各種資源の利用、家族の一体感と親密感、人生における感謝の気持ちなどがレジリエンスに関連する
2)発達障害の子どもを持つ家庭のうち、状況の受容、家族間のコミュニケーションにおける有益なパターン、家族単位の参加、新しい経験に対する積極的な態度・挑戦はレジリエンスとなる
3)障害と行動上の問題を持つ家庭について、レジリエンスは、本来備わっている個別的、家族的要因より、適切な資源の入手可能性と接近性と関連している
4)子どもが持つ問題行動、家族が抱える困難な状況の中で、母親の健康、高い教育レベル、楽観主義がレジリエンスと関連
【職場で働くもののレジリエンス増強研究】
1)「いじめ」とレジリエンスの関連が調べられ、レジリエンスは困難な状況を克服できるとの意識が被疑者にあった場合、いじめに居合わせた人と職場のマネージャーからの支援があった場合、増強されていた。
2)戦闘に参加した軍人について調査した結果、苦悩活性のレベルの高さ、社会的支援は精神健康状態、PTSD重症度の低さ、アルコール・薬物使用の少なさと関連
3)職場の労働者に対する「ストレスマネジメントとレジリエンストレーニング」プログラムの効果が調べられた結果、ストレスレベルの低下、レジリエンス、マインドフルネス、不安、QOLの各レベルとも改善
4)「疲労感」とレジリエンスとの関連が調べられた結果、レジリエンスの低い者に疲労感を訴える者が多い

 研究結果から項目間の関連性がみられたということは、それぞれ何かしらの尺度が用いられて検討したということだ。こういった研究をもとに実践していくには、やはりアセスメントの重要性である。アセスメントをすることによって、一人一人に応じたレジリエンスの特徴を捉え、またリスクを想定した関わりもでき、目標の設定もしやすいはずだ。

 今回紹介した中で、上記の研究もほぼ小椋先生の文献の中では海外のものからの引用であり、精神疾患大国である日本でこういった研究がまだまだ進んでいないことが窺える。研究者ではないので、このあたりを強くは言えないのだが、医療だけの問題ではなく、教育・福祉においてもこの課題には意識を強く持つべきだと感じている。
予防的視点を持って幼少期、学齢期から関わっていかなければ、レジリエンスの高い人間に育てることができない、といっても過言ではない。

 いつまでも教育ー医療ー福祉がそれぞれの制度で分断された中でそれぞれが主張をし合っていても、困るのは制度に振り回される当事者であって、一人一人の生涯に関わるという点では同じ考えを一貫して持つことが重要だと思う。
 いまや、5人に1人が何らかの精神疾患になるといわれる社会の中で、どういった仕組みやつながり、関わりがあることで、皆が豊かになり、レジリエンスを養うことができるだろうか?

つづく






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?