『デジタルマーケティングの定石』—デジタルの限界、売り切り型ビジネスの終焉
買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その20冊目。
「3万3000サイト以上の閲覧履歴データ」に基づくデジタルマーケティングの定石とは
先に本書の最大の特徴を述べておくと、DXが叫ばれる時代のマーケティング活動において、デジタルにも限界があることをはっきりとした物言いで読者に伝えてくれる点です。その限界を知ることこそが「定石」だと述べます。
著者垣内氏は、デジタルにできないことを知らない企業やマーケティングコンサルタントが無駄な「車輪の再発明」を繰り返していることを嘆き、それを辞めさせたいという情熱を本書の随所にほとばしらせています。
「これをやれば必ず成功するからやるべき」ではなく、「これをやってしまうと確実に遠回りになる・失敗するから避けるべき」を教えてくれるのが、本書『デジタルマーケティングの定石』です。
セオリーは「顧客と会う」
では、そのデジタルの限界を克服するにはどうしたらいいのでしょうか?
その答えとして、著者は
最低でも年に1回、ユーザー5人としっかり会って向き合え
と説きます。
なぜこのデジタル時代に会わなければならないのか?それは、
プロダクトを利用するユーザーの行動を(デジタルを通してではなく)その目で観察するためである
と。
正直、これを行動にうつすことはハードルが高いわけですが(だからこそ著者が在籍されているようなコンサルティング会社の存在価値があるのだと思いますが)、それでも、3万3000の経験値から「やってしまいがちな車輪の再発明の例」をいくつも示してくれている点、同じ轍を踏まなくて済むだけでも時間短縮になるのでありがたいですね。
最終章の第3部は、「定石」の実践への落とし込み方を、同社が開発したフレームワーク「DXアクセラレータ」を使って18のビジネスモデル区分別に例示します。
私が関わっているクラウドサインはこの18のうちの1つ目、「Web to 営業担当者→BtoB→大規模・法人向けソリューション」にあたります。
専門性を持ち合わせないクライアント企業様に柔軟なソリューションを提供しようと思うと、営業担当者の個人技に依存しがち
それをいかにデジタルに置き換えるかが、このセグメントの課題
という指摘は、まさに私が日々直面している課題と重なります。
日本人による日本企業向けの、SaaS型思考への転換を問うマーケティング書
この「DXアクセラレータ」のフレームワークでは、「初回購入」と「継続購入」を分けてKPIやactionを洗い出します。
なぜそうしなければならないのか?その理由として著者はこう断言します。
デジタルの浸透により、企業と顧客のパワーバランスが逆転したことは、ここまで何度も述べました。この変化により、企業側に有利だった「売り切り型」のビジネスは終焉を迎えようとしています。(中略)「顧客主導」の世界では、ユーザ側のメリットが大きい「継続購入型」の商品が残ります。(P168-169)
売り切り型のビジネスは終焉する。こうしたSaaS的マーケティングの視点を持って、その必要性だけでなく実行計画まで具体的にアドバイスする書籍は、米国では何冊もでていますが、日本人による日本企業向けのものでは、まだ珍しいと思います。
「お客様は神様です」の日本的経営はやり過ぎだったとしても、「お客様は企業が思うより賢い」ことは否定できないはず(それを否定することは、お客様の一人でもある私たち自身が賢くないということにもなりかねません)。
お客様との情報格差で儲ける時代は終わり、むしろその情報格差を徹底的に無くすための活動をすることこそが、SaaS時代のマーケティングの役割である。
私は本書のメッセージをそう解しました。
サポートをご検討くださるなんて、神様のような方ですね…。