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ものぐさな僕は生きなくていい理由を考える

人はなぜ移動するのか?

ものぐさな僕でも旅は好きだ。見たこともないものを見ること。会ったことのない人に会うこと。旅はいつも新しい世界を見せてくれる。そして、それは思い出になり、生きる糧となる。しかし、それも旅というすでに誰かが行ったことがあり、行く手段があって、食べ物も、泊まる場所もある。昔の人の未知への冒険とは違うものだ。

昔の人たちはなぜこんなにも世界中に移動したのだろうか? 誰もが不思議に思うことではないだろうか。わざわざ暖かく、食料もたっぷりある、住み心地の良い場所を捨てて、新しい土地へ移動する。そのモチベーションはなんだったのだろうか。

今週は、『日本国史』(田中英道)『海を生きる民 ポリネシアの謎』(クリスティーナ・トンプソン)などを読んでいます。

『日本国史』の中にあるこの部分は面白いな、と思ったので引用します。

これまでアフリカからなぜわざわざ人々が移動したのかがわかりませんでした。当時は現在ほど乾燥していなかったから、砂漠もそれほど広がっていなかったはずです。気温は裸で過ごすことができるほど高く、またたくさんの動植物が生息していましたから食糧に困ることもありませんでした。豊かな土地で、衣食住が十分に満たされる環境にあったはずです。そこから動かなくても生活は十分に可能だったでしょう。唯物論的に考えれば、そこを動く理由はありません。人間は皆アフリカにとどまっていたはずです。
 ところが彼らは移動をはじめました。これはなぜなのか。好奇心で、もっといい土地を求めて、もっとおいしい食糧を得るために、といった説が出されました。つまり、アフリカという土地から離れざる得ない何らかの物質的条件があるかの如く想定してきたのです。しかし、人口状況から考えても、アフリカにとどまって長く生活することはできたはずです。
 では、なぜ人々は動きはじめたのでしょうか。それもわざわざ気温の低い北の方角に向かったのです。そのモチベーションになったのは何かと考えてみると、それは「太陽が昇るところに行く」ということだったのではないかと思われるのです。

(『日本国史(上)』田中英道)

田中氏の本は、この本が初めてなので、ページ数の都合か、それとも、これが彼のスタイルなのか、かなり直感的なものいいのところが多い気がするけれども、でもだからこそ「太陽が昇るところに行く」というシンプルな考えかたに行き着いたのかもしれません。そう言われてみれば、たしかにそうかも? と思ってしまう。人間というものの純粋性みたいなものは、今も昔も変わらず、太陽信仰みたいな言い方もできるけれども、でも、太陽が昇るところへ行きたいという、なぜかわからないけど、行ってみたいというのはもうただの好奇心ではなく、何かが自分を呼んでいると言われるようなそんな感覚に近いのではないかと思うのです。

また、『海を生きる民 ポリネシアの謎』の中でも、どうしてこんな島にまで人がいるのか。そのルーツの探索について書かれている本ですが、これもまた不思議で、こんな資源のない、そして、周りには海しかないような場所にまで移動して、そこで、生活を始める。そして、そこで生き続けている人たちがいる。どうしてそこで生きようと思ったのか、どうして、先も見えない太平洋を渡ろうとしたのか、人はどうして海へ出たいと思ったのでしょうか。

今では、大きな船があり、ホテル住まいのような生活をしながら、世界を航海することができますが、昔はそんなものはありません。海と自分を遮るものはほぼありません。そんな中でも、あの大きな海に身を投げ出して、そして、自然の力を借りて航海する。どんな気持ちでその人たちは航海していたのでしょうか。

この本にも出てくる「ホクレア」のドキュメンタリー映画を見ましたが、彼ら、彼女らのチャレンジは本当にかっこいいなと思いました。どうしてそう思うのか。別にそんなことをしなくても暮らしていけるし、他の方法でハワイの文化を伝えることはできる。命の危険を冒してまで、どうして冒険の旅へ出るのか、チャレンジするのか。

でも、人間の中に初めからそのような何か自分を冒険へとかきたてる何かがあるのでしょうか。チャレンジしたいと思ってしまう何かがあるのでしょうか。あまりにも生きること、生活をすることばかりに忙しくなってしまった現代人。でも、こんな生活ができるようになったのは、ほんと最近のことで、僕たちはいつもどこかを目指して移動し続けてきたのかもしれません。そして、これからも。それはただ地球という目に見えるものだけではなく、何か目に見えない精神的なものも含めて。世界中の島を発見し、もう住める場所には、人間はどこにでも住んでいるのに、まだ冒険を続ける人間がいるのは、僕たちはまだまだ「移動」の途中であることを物語っているのかもしれません。

メタフィジカル・ジャーニーは続きます。

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