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天職(職業)の秘密

ゴーギャンという男

今週も小林秀雄全集を読んでいます。今ちょうど『ゴッホの手紙』のところを読んでいて、しかも、そこにゴーギャンの話が。先週、タヒチのガイドブックを読んで、ゴーギャンの絵のタイトルをそのまま見出しに使わせていただきましたが、ゴーギャンとゴッホは親交があったのですね。これは面白いと思って早速ゴーギャンが書いた『ノア ノア』を読みました。タヒチの滞在期ということですが、翻訳者の解説を見ると結構脚色されているようですね。でも、そういうところも含めてきっとゴーギャンなんだと、そう思って読んでみるとさらに彼のこと身近に感じることができるかもしれません。

退廃した西洋文明からの脱却するため、楽園を求めて遠い世界の果てへと旅に出る。しかし、そこで見たものは、西洋の写し、むしろ、廉価版のような世界だった。でも、まだ島の人たちの中には、昔からの生き方、考え方は残っていた。ゴーギャンは、島の人たちと親交を深める中で、彼らの文化を学んでいく。この本は、ゴーギャンによる絵の解説本ではないだろうか、という解説もあったが、でも、まだほとんど絵を見たことのない僕にとっては、タヒチの文化を知ることができる貴重な本である。ポリネシアの歴史に関する本も読んだことがあるので、何となく『ノア ノア』に出てくる神話の話なんかも知っているけど、ゴーギャンが短い間でも、タヒチに住み、タヒチの人と話しをする中で、感じたことを通して、感じられる物語というのは、なんだかより深い世界へと入れるような気がしました。ゴーギャンの絵を見たら、さらにその神話の意味を、タヒチという島を理解することができるようになるだろうか。

楽園なんて言う言葉はもうある意味で死語のようになってきてしまっていると感じます。もうあらゆるところに人間が入り込んで、どこもかしこも文明化が進んでしまっている。ゴーギャンが目指した楽園というのは、きっとただ美しい自然が残っているというところではなく、そこに生きる人たちも自然と共生し、自然と共に生きている、そんな世界を夢見たのではないだろうか。僕もなんだかそういうところを求めているような気がします。ハワイのジャングルへ行ってみたり、タヒチにも惹かれるのは、まだその力が、その生活がどこかに残っているのかもしれないと感じるからだ。そして、そういう場所のことを人は楽園と呼ぶ。まだこの世界には楽園は残っているのだろうか? ゴーギャンもきっと心のどこかではもう世界にそんな場所は存在しないと思っていたのではないだろうか。それでも、一縷の望みをかけて、むしろもしかしたら、死に場所を求めて、死ぬ理由を求めて旅に出たのかもしれない。この世にはもう楽園なんてなかった。そうはっきりわかれば、それは死ぬ理由になるかもしれない。でも、タヒチという小さな島で何か光を見つけてしまった。奥の方に何かが隠れている。この島の奥に。この島に住む人々の奥に光るもの。それを探究するまではまた死ぬことはできなくなってしまった。それを見つけるためにゴーギャンは作品をつくる。その光の意味を見出すために。

これは僕の勝手な妄想なのであるが、そんなことを考えながら、ゴーギャンの作品や歴史にも触れてみたいと思います。そして、いつかタヒチへ。タヒチに辿り着いた時、僕はどう感じるだろうか。楽園はまだこの世界に残っているのだろうか。

僕の楽園探しの旅は続きます。

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