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【短編小説】ソノヒト 〜第十章 「ラルフローレン」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第十章 「ラルフローレン」〜

最高の売上仕事は年末に向かうにつれ
忙しさを増した。

例の接着剤も勢いが衰えることなく
飛ぶように売れていく。

それもこの12月は
まだ残り数日を残して
過去最高の売り上げを記録した。

このまま行けば
年明け早々の年度末は
本当に在庫がもたないかも知れない。

梱包が追いつかないというよりも
接着剤の原料そのももの生産が
間に合わない可能性があるのだ。

僕はそんな不安を抱えながら
ひたすら

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【短編小説】ソノヒト 〜第九章 「父と母」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第九章 「父と母」〜

父の遺伝子父はつい最近会社を定年退職した。

釣りが好きで
隔週くらいで海釣りに行っている。

そんな父の影響で
子どものころよく釣りに行かされたが

その反動なのか
全く釣りが好きではない。

むしろ嫌いだ。

自ら進んでは絶対にやらないランキング
上位に釣りは入ると思う。

ただ会うたびに思うが
父はいつも明るく、
泣いているのを見たのは一回しかない。

泣いたのは、
父の父が亡くなったときだ

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【短編小説】ソノヒト 〜第八章 「カロリー」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第八章 「カロリー」〜

まじめ大学大学に行くからには
勉強も部活も頑張ろうと思った。

親に迷惑はかけたくはなかった。

大学1年での成績は
まあまあ優秀な方で

その成績が認められ
2年生の学費を半分免除された。

母親は相当喜んだ。

しかし、家が貧乏だったため
3、4年の学費は全て
奨学金で賄った。

相当家が苦しかったのだろう。

「部活なんか辞めてバイトをしなさい。」

と言われ続けたが
どうしてもバイトだけし

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【短編小説】ソノヒト 〜第七章 「勝ち犬の遠吠え」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第七章 「勝ち犬の遠吠え」〜

勝利の雄叫び友達の家の前についた。
駅前の高級マンションに友達は住んでいる。

友達は例の僕が今、副業をさせてもらっている
その人である。

友達の動画は今、
飛ぶ鳥を落とす勢いでチャンネル登録者も増え、
再生回数も増える続けている。

コロナが流行り出したころから
本格的に動画編集のお手伝いをさせてもらうようになった。

その頃はガンガン登録者を増やして
コロナにも打ち勝ち、

「勝利の雄叫びを

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【短編小説】ソノヒト 〜第六章 「2度目の正直」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第六章 「2度目の正直」〜

道路常磐道をひたすら走り続け
三郷スマートを降りた。

ここから僕が育った実家までは
下道で30分も掛からない。

仕事柄、普段から
道路を気にすることが多いが

埼玉とはいえ、
東京と比べると道路の整備具合がまるで違う。

埼玉を走る国道ですら都道よりも遥かに舗装はがたがたで、
ガードレールなんかは錆びれている。

これが県道ともなれば、
東京の区道、市道以下である。

それだけ道路に掛けらる予

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【短編小説】ソノヒト 〜第五章 「ゆめ」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第五章 「ゆめ」〜

夢翌朝6時に目が覚めた。
大体いつも同じ時間に目が覚めてしまう。

慣れないホテルだからというよりも、
家で寝ていても
夜中に何度も目が覚めるほど眠りが浅い。

朝6時という決められた時間は
単純に何度も起きるうちの一番最後の目覚めなだけである。

そして、厄介なことに目が覚める度、
「その人」のことを考えてしまっていた。

「夢ならばどれほどよかったでしょう。」

あの有名な歌の歌詞が頭に浮かん

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【短編小説】ソノヒト 〜第四章 「サンドウィッチマン」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第四章 「サンドウィッチマン」〜

梱包の呼吸梱包作業中、カッターナイフで
指を切った。

普段、そんなミスはしない。
それだけ、作業を急いでいた。

集中していると思っていた。
でも、出来ていなかった。

何かに没頭すれば
「その人」のことを考えなくて済むと思っていた。

でも、考えてしまっていた。

ブログを書いているときも
副業の動画編集をしている時ですらも

考えてしまう。

緊急の仕事で来ている以上
それではいけないと分か

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【短編小説】ソノヒト 〜第三章 「ブラックコーヒー」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第三章 「ブラックコーヒー」〜

出張の緊急性いわき工場へは
普段の業務ではまず行くことはない。

もし、いわきに行く理由があるとすれば
それは接待でのゴルフへ行くくらいだ。

それでも年に一回か二回くらいだろう。

プレー代は安いが
殆どのお客様が
東京に集中している以上、

高速道路やガソリンなどの交通費、
ましてや行く手間を考えれば

わざわざ福島に行くよりも
埼玉や山梨などの近場に行く方が

誰が考えても、明らかに現実的だ

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【短編小説】ソノヒト 〜第二章 「赤と青」〜

【短編小説】ソノヒト 〜第二章 「赤と青」〜

12月1日車はいつものように、
国立府中インターを入り、
中央道を新宿方面に向かっていた。

時間は朝の6時。
ここを通過するのがいつもよりも早い。

向かう先が、勤務先の板橋ではなく、
福島県いわき市だからだ。

昨日のLINEによる雑な出張命令で
急遽、いわきにある自社工場に向かうことになった。

工場の女性社員がケガをして、
自社商品の路面用接着剤の梱包が追いつかず、
出荷が間に合わなくなっ

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【短編小説】ソノヒト ~第一章 「一撃」~

【短編小説】ソノヒト ~第一章 「一撃」~

会えないコロナの感染者や重傷者が増えている。

飲食店への時短要請なども行われて
この先どうなるか誰も予想がつかない状況だ。

正直、こいつが流行り出し、
人に会えなくなった。

「人に会っちゃいけないんだ。」

そんな状況になったのは
緊急事態宣言が出たころだろうか。

僕も正直そうゆう気持ちになった。
人に会うことを完全にやめた。

もちろん飲みに行くことも一切しなかった。
しちゃいけないと思

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