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昔の生活に興味はあるが、戻りたいとは思わない

少年は、学校の先生に言われた「校内ではスマホに使用禁止です」というルールに疑問を持っていた。
「どうして禁止なんですか?」と先生に聞くと、「授業中にスマホをいじられると授業の邪魔になるし、校内でSNSなどに触れると、不適切な情報が広がってしまい、風紀を乱すからだ」と言われた。

少年はたずねた。
「じゃあ、授業中はスマホで夏目漱石の文学を読んで、家に帰ったら友達と好きなゲームの話でLINEして、その話題を次の日の学校に持ち込んで休み時間にしゃべるのなら問題はありませんか?」

すると先生は、
「何を屁理屈言っているんだ!いいからダメなものはダメだ。それはこの学校のルールだ。生徒ならそれに従いなさい!」

そしたら少年は、
「じゃあ僕が生徒会長になったらルール変えてもいいですか?」と言った。

それを聞いた先生は、
「先生に対してなんだその態度は!そんなことを提案するような候補者は必ず落ちるぞ!」と語気を強めた。

「それは先生じゃなく、僕以外の生徒が決めることではないんですか?」
少年は素朴な顔でたずねた。

「本当に聞き分けのない子だ…。もういいから自分の席に着きなさい。」
先生はそう言って強引に話を打ち切ってしまった。

少年は明確な理由を聞けないまま、キョトンとした様子で去っていく先生の後ろ姿を見つめていた。

家に帰ってきた少年は、スマホが学校で禁止される理由がどうしても知りたくなり、「スマホが新しい技術で人に危害を加えるかも知れないから、怖くて禁止にしてるのかな?」と考え、昔おじいちゃんが楽しんで聞かせてくれた世界史の本を開いてみた。昔の人は新しい技術を使ってどうなったのか知りたかったのだ。

本の内容は難しい言葉や感じばかりで難しかったが、祖父のメモがぺージに挟んであった。

「テクノロジーは人を幸せにするか分からないが、豊かにはする」
・紀元前一〇〇〇年以降、ユーラシア大陸の草原地帯ではスキタイ人という遊牧民によって新しい遊牧国家が成立した。彼らの国家では、それまで主要な武器として使われていたチャリオットに対し、鉄製の弓矢や騎馬戦、さらに移動式家屋などの新たなテクノロジーを駆使したことで、瞬く間に大陸全土を制圧し、当時の四極と言われる中国、インド、ペルシャ、ローマに並ぶ一大強国に成長していった。
・中国においては、紀元前500年頃の戦国時代、鉄製の道具の使用が農業に革命をもたらし、大幅な人口増加につながった。その後、960年から1279年の宋の時代には、紙幣・羅針盤などの技術革新が大規模な通信と交易を容易にしたことで、戦乱の世にありながら私的商人が繁栄し、経済が大きく成長した。
・アメリカは植民地時代、連合王国(イギリス)からの規制がありながら、主に造船・タバコ・米・インディゴ・毛皮などが主要な生産品として輸出されていた。産業革命と独立戦争以降は、綿織り機・蒸気機関・自動車などの開発により経済力を高めていった。第二次世界大戦〜現代にかけては戦闘機やコンピュータの開発で多くのシェアを占め、それは現代の航空機の設計ややインターネットの誕生に大きく寄与している。

以上のことから、テクノロジーは少なくとも人類の文明を何度も発展させていて、場合によっては新しい国家すら形成させることが分かる。これが繰り返されてきたことで、人間の暮らしが少しずつ豊かになってきたことは間違いない。
あとは、「それで幸せを感じれているかどうか?」だが、これに関して明確な結論は科学の世界でも未だ出せていない。
ならば、自分自身へ常に問い続けてみるしかない。私は今こんなに便利なものに囲まれて、幸せなのかどうかを。
少なくとも今の私は、江戸時代の生活に戻りたいとは思わない。

『全世界史』出口治明、『Economic history of China before 1912』Wikipedia、『Economic history of the United States』Wikipedia

やっぱり難しい言葉ばかりだったが、どうやらここには本の”まとめ”みたいなものが書かれている。そして、どうやら昔の人は新しい技術(テクノロジー?学校ではまだ習ってないけどスマホで調べたらそんな意味だった)を受け入れたことで生活が豊かになったのだと分かる。

「そっか…豊かにはなるんだな。僕も昔の人の暮らしは興味あるけど、ずっとその暮らしは嫌だな…。ゲームしたいし。」

「そういえばあの先生、全校集会の時、プリント持ってたな。あれってコピー機使ってるだろうし…。もう一回質問して、また怒られたら、「じゃあ先生、明日からコピー機使えなくてもいいんですか?」って言ってみようかな。

でも子供一人だとまた相手にしてくれなそうだし…そうだ、父さんの知り合いの教授さん、ガジェット好きだったけ。一緒に質問してくれないか頼んでみようかな…。父さん今日帰るのいつだっけ?」

そして少年は、亡くなった祖父が愛読していた世界史の本を片手に、自宅で洗濯物を畳んでいた母に駆け寄っていった。


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